★番外編③★
「どうすればいいの!」
やけくそな気分で、私はベッドにやってきたエドに噛みつく。
王族の作法とかやらで、嫌がったのに、微笑みの圧の強いお姉さま方に私の体は磨き上げられ、花の香りをまとわされ、薄っぺらい夜着を着せられた。
そして、エドとの寝室に放り込まれた。
まだエドはいなくて、いたたまれなくて逃げ出そうとすれば、窓はがっちりと外から閉じられ、ドアもびくともしなかった。
しばらくしんとした部屋の中に一人でいると、初夜への緊張やドキドキより、他の不安の方が強くなった。
――もしかしたら、エドが来るって言うのも嘘なのかもしれない。
本当は、王族であるエドとの結婚なんて形ばかりで、私は、公爵家のお金を使い果たした罪でとらえられたのかもしれない。
って、心細い気持ちになったところでエドが現れたもんだから、噛みつくしかないと思う!
私の勢いに、エドが困ったように笑う。
「あいにく、私も初めてでね。どうすればいいか、二人で勉強しようかと思ってるんだけど、どう、かな?」
「……勉強?」
初夜に、勉強?
私は意味が分からなくて、首を傾げる。
エドが微笑みながら、私の頬に手を当てる。
「つまりね、こういうこと」
私の疑問をそのままに、エドの顔が近づいてくる。
柔らかな感触が唇に触れて、私は目を見開いた。
エドが苦笑している。
「いや、かな?」
私はただ首を横に振った。
嫌じゃない。
だけど、口になんてできそうもなかった。
きっと、私の顔は真っ赤だと思う。
「キスをするときには、目を閉じた方がロマンチックみたいだよ?」
ろまんちっく。
「なにそれ? どんな感じ?」
エドが困ったように眉を下げる。
「じゃあ、やってみようか?」
私は頷くしかなくて、そっと目を閉じた。
またエドの唇の感触がする。
ろまんちっく、ってこういうこと?
よくわからないな、と思っていると、エドの手が、頬から肩に滑り落ちる。
くすぐったくて、口元を緩めた瞬間、熱を持ったものが私の舌に触れる。
「ん」
抗議しようと思ったのに、その熱は、私の力を奪っていく。
エドの唇が離れた時には、私の体の熱は上がったみたいだった。
目を開けてエドを見上げれば、エドが微笑んで私の頬を撫でる。
「わかった?」
何を問われたのか一瞬わからなくて、ぼんやりとしていると、エドの唇が私の耳に寄せられる。
「これが、ロマンチック、だよ?」
一瞬で、キスの前にしていた話を思い出す。
同時に、あまりに恥ずかしくて、顔が熱くなる。
「ろ、ろまんちっくはいらないから!」
恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!
「ごめん。それは無理かも」
エドの言葉に、え? となる。
次の瞬間、座っていた私の体は、ベッドに倒される。
「反応がかわいすぎるから、いけないんだよ? 一緒にもっと、勉強しようね?」
「え? どういう……」
私の言葉は、エドの口に呑み込まれた。
――どんな夫婦も、こんなろまんちっくを体験してるもの?!
私の疑問は、口にすることは叶わなかった。
その疑問を思い出したのは、もっともっと先の、ようやくエドのろまんちっくなキスに慣れた頃のこと。
完
楽しんでいただければ幸いです。
明日から、新しく公開を始めます。よろしければどうぞ。