第4話 令嬢たちは見た~エリザベートの場合~
私は『エリザベート・ランチェスター』。
この国で5つしかない由緒正しい公爵家の筆頭たるランチェスター家の令嬢よ。
今日は同じ公爵家でありながら、脳筋で有名なリーシュベルト家の邸に招かれているわ。
何でもそこの令嬢であるフレイスリアの8歳の誕生パーティを開くということで我が家にも招待状が届いたというわけ。
リーシュベルトに私と年の近い令嬢がいたなんて、招待状が届くまで知らなかったわ。
自分の娘にも軍事教育を施すような野蛮な家など、私とは住む世界が違いすぎて全く興味が無かっただけなのだけど。
しかし、相手が野蛮でも、爵位は同じ公爵であるリーシュベルトからの誘いを無下に断るわけには行かないため、出席して今は会場にいるの。
頭の中まで筋肉でできているような家のパーティだから期待はしていなかったのだけれど、まあまあの出来ね。我が家ほどではないけれど。
ただ、この紅茶は初めて飲んだわ。
さっぱりとした味わいにほのかな柑橘の香りが爽やかさを引き立てる。
気に入ったわ。この紅茶は。
――『ごきげんよう』
声のした方を見ると、序列二位の公爵家であるストロノーグの当主と妻、そして、令嬢フレデリカがいたわ。
彼女は3つも下なのに、私に劣らない気品を備えているのよね。さすがは序列二位公爵家の令嬢と言ったところかしら。
どこかの野蛮な家の令嬢とは大違い……と、私もこの時までは思っていたわ。
ストロノーグ以外の公爵家の方々とも代わる代わる歓談していると、会場からどよめきが上がったから、衆目が集まっている先に目を向けると、そこにいたものに私は不覚にも目を奪われてしまった。
本日の主役であるフレイスリアが兄にエスコートされて姿を現したの。
風に靡く美しいプラチナブロンドの髪、その髪色をより一層映えさせる青いドレス、そして、それらに見劣りしない優雅な所作に衝撃で私の思考は固まり、見惚れてしまったわ。
そして、同時に噂なんてあてにならないとも思ったことは、今でも鮮明に思い出せる。
更にこのあと、弟と思しき男の子から花束を受け取り、頬を染めて微笑む彼女の姿に、私の胸が射抜かれたことは言うまでも無いわ。
――『まるでお人形……いいえ、そんなの目じゃないくらいに可憐だわ!』
脳筋の家だから、どんなゴリラが出てくるのかと思っていたけど、とんでもない!愛らしすぎて胸が苦しい。
初めは気乗りのしないパーティだったけど、この紅茶と彼女を見られたことは、とても有意義だわ。
本来であれば、主催者である彼女たちには、私たちから挨拶に伺うのが礼儀なのだろうが、序列の関係からかこちらに出向いてきた。
初めて間近で聞く彼女の声は、その容姿を裏切らない可憐なもので、私は彼女の魅力で骨抜きにされかけたわ。
聞くところによると、フレデリカとフレイスリアは懇意にしているらしい。
今後のために、フレデリカと仲良くならなくては……と、思っていたら、どこからか男の子の元気な声が響き渡ったの。
ズカズカと大股で会場に入ってくるその男の子は、レーヴェリアン第一王子殿下でした。彼は他には目もくれずフレイスリアの元に一直線に向かって行ったわ。
先の会話の中で王族は来ないと言っていたような気がするけど、なぜ殿下がここにいるのかしらなんて思っていると、カーテシーをして待つフレイスリアの前に立って、少しやりとりをした後、顔を上げた彼女にとんでもないことをしたの。
彼女の髪を掴んで体を引き寄せ、乱暴に顔を自分に向かせるという、紳士としてあるまじき行い……可憐な彼女に何してくれてるの!
やがて、満足げな顔を浮かべてその場を去る彼の背に、精一杯の負の感情を込めた視線を送り続けてやったわ。
そして、思ったわ。あんなクズは彼女には相応しくないと!