~今日もメモリー改ざんが忙しいです~
「それで、明日来る社長の話をしてもらおうか」
「それがねー、大手の鉱石掘削会社なんだけどー、鉱石だけじゃなく裏で違う仕事もしてるらしいのよー」
「違う仕事?」
「そー、なんでも人身交換やってるって話だよー」
「人と何を交換してるんだ?」
「そこまでは分からないけどさー」
「そこが大事だろ」
「まーでも人と交換するのってよっぽどじゃーん?多分普通じゃ交換できないものなんだろうねー」
「それはそうだろ。ま、俺らには関係ない話だしほっとこ」
「まーねー」
「んで依頼内容は?」
「いつもの通り掘削機械のメモリーから作業員の掘削作業してるメモリーに替えるやつー」
「了解」
「でもいつ聞いても変な話だよねー」
「何が?」
「だってほとんど同じ映像をいろんな会社の物に入れてるわけじゃーん?」
「だから?」
「なんでバレないんだろうって思うんだよねー」
「お前な、俺を舐めてるのか?俺の仕事は完璧なんだ。同じように見えても少し違うようにしてるし、刻印さえ入れてりゃどこの国もどこの会社も信用しちまうのさ」
「そうだけどさー」
「ほら、余計な話はいい。弁当食ったらこれ運ぶの手伝え」
「あーい」
翌日~
「おはようさんCATはん!」
扉を開けて入ってきたのはいかにも高級そうな物を身に着けている小太りの男。
「あーどうも権田社長、ご依頼ありがとうございます」
「いやーホンマに助かりますわ!CATはんがいなけりゃ商売あがったりやから!」
「いえいえ、少しでもお力添えになれば嬉しいですよ」
「じゃあ早速やけど、お願いしますわ!」
「かしこまりました。RAT!準備はできてるか!」
「いつでも大丈夫だよー!」
「じゃあ転送するぞ!」
「あーい!」
廃屋の隣には使われなくなった大きな工場が建っていて、そこの天井には巨大な機械がぶら下がっている。
工場の中には大量の鉱石が運ばれており、工場いっぱいに置いてある。
「今日はとりあえず5万トンでよろしいんですよね?」
「そうです!取引する分だけで頼んます!他のは普通に交換するつもりやから!」
「では始めます」
真治はパソコンのスイッチを押した。
機械が光りだす。
「あとは頼んだぞRAT!」
「あいよー!」
鼠太はメモリーの光を全体に照射できるよう操作する係だ。
「おー綺麗な光やな!」
「あれがメモリーを入れる光です」
「あれでメモリーが入るんでっか?」
「そうです」
「すごいもん作りはりましたな!がはははは!」
きゅうの操作により大量の鉱石にゆっくりとメモリーが照射されていく。
「それにしても権田社長、とても綺麗な指輪をされていますね」
「お!いいとこに目を付けはりましたな!この指輪は思い出の指輪なんですわ!」
「思い出の指輪、ですか」
「この指輪は会社を始めてから初めて自分で交換した指輪なんですわ!その時からお守りみたいにずーっと身に着けてるんですわ!」
「ほーそれは興味深い、良ければメモリーを見せていただいてもよろしいですか?」
「この指輪のでっか?そりゃ構いまへんけど、盗んだりしまへんやろな?」
「まさかそんなことはしないですよ」
「冗談やがなCATはん!がははははは!ほなこれ」
そう言うと権田は真治に指輪を渡した。
「一緒に見ますか?それともここを見学なさいますか?」
「もう少しここで見させてもらいますわ!こないな機械見たことありまへんさかい!」
「では私はメモリーを見させていただきますね。すぐにお返しいたしますので」
「ゆっくりで構いまへんで!」
「ありがとうございます」
真治は廃屋に戻るとすぐに指輪を機械に置いた。
メモリーが読み込まれる。
「さーて、何か映ってないかなっと」
パソコンの画面を切り替えると読み込んだメモリーが映像で再生される。
「これは初期のメモリーか、従業員も少ないようだ。後半の方を見てみよう」
メモリーを次々にスキップしていく。
「ここらへんからだな」
真治はおしるこを飲みながら倍速でメモリーを見始める。
「あった」
一時停止のボタンを押す。
「ここを拡大すると…見つけたぞ」
そこには大きな掘削機の映像の端に移る人の行列。
「これが交換される人たちだな、みんなボロボロの服を着てる…」
「もう少し拡大してみよう」
「んー権田はできるだけメモリーに残らないようにしているな、大事なところは多分指輪を外しているんだろう」
「ん?この男の子、随分と小さいな。」
大人の男女の中にポツンと一人の小さな男の子が並んでいる。
見た目は金髪で蒼い瞳をしている。
「んー珍しいな…」
まじまじと画面を見つめていると勢いよく扉が開いた。
急いで指輪を機械から取る。
「CATはん!ゆっくりとは言うたけどゆっくりしすぎやで!」
「おっとすみません、今行きますね」
「なんか変なの見たんとちゃいますか?」
「え?変なのとは?」
「いやなんでもありまへん!忘れて!がはははは!」
「ではこれでご依頼は完了ということで」
「おおきに!またお願いしますわ!」
「では本日の報酬の方を」
「おーそうでしたな!じゃあこれ!」
そう言うと権田はポケットから15cmほどの包みを渡した。
「ありがとうございます。またのご依頼お待ちしております」
「ほなまた!がははははは!」
権田は黒塗りの高級車に乗り帰っていった。
「おつかれちゃーん」
「きゅう、おつかれ」
「例の物は手に入ったの?」
「あーこれだ」
包みを開ける。
「ん?なにこれー」
「隕石だよ」
「やっぱり隕石かー、ホント好きだよねー」
「しかも今回はただの隕石じゃない、ギベオン隕石だ。これの化学成分は鉄91.8%、ニッケル7.7%、コバルト0.5%、リン0.04%、ガリウム1.97 ppm、ゲルマニウム0.111 ppm、イリジウム2.4 ppmなどで細かい網目状のウィドマンシュテッテン構造という」
「あー始まっちゃったよー、猫ちゃんの隕石ヲタク独談ー。」
「まぁとにかく珍しい隕石なんだ。これのメモリーには一体どんな世界が広がってるんだろうなぁワクワクしてきた!早速見てみよう!」
「いつも思うけどなんでそんなに隕石が好きなのー?」
「そりゃお前、宇宙の物のメモリーだぞ?人工衛星じゃ見れない世界がこの隕石のメモリーには入ってるんだ。付加価値にしたらどれくらいになると思う?」
「なんでも交換できそうだねー」
「そう、地球上にあるもの全てと交換できるんだ!これほど欲しい物はないぞ!NASAも欲しがる逸品だ!またコレクションが増えた♪」
「でも猫ちゃんさー、物じゃなくてメモリーにしか興味ないじゃーん?」
「関係ねぇよ!いいから早く見ようぜ!」
「もー分かったよー」
機械に隕石を置き、メモリーが読み込まれる。
画面に映像が流れ始める。
「なんだ…これ…」