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獣鬼獣従  作者: 戦風
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憧れの黒



Side:守郎勝命 


 神々を宿す器であることを約束されながら産まれた神器たちは皆……幼い頃から神々と共にあるためにあらゆる修行に明け暮れる。神器となり、全学校に入学した者たちがやがては一人前となり世界を守る柱となっていくのだと。


 しかし、実際に全学校を卒業して一端の存在として認められるのはごく僅かな者だけだった。神という存在を最後まで受け入れ切れずやがてはその尊い存在を放棄してただの人間となる者が大半だ。


 むしろ、それが正常だったと思う。


 獣器はもっと大変だ。存在自体が不安定な獣器も多いし何よりも獣に限りなく近い彼らを制御することは至難とされている。だから神器を代々受け継ぐ家系があっても、獣器を代々継ぐような家系は皆無。そんな家系は世界を探しても五本の指でこと足りるだろうか。


 神との共存は、意外と何とかなる。というか、神がこちらに応えてくれるまでは殆ど小さな加護しか与えられない。只管放置され、実力か……思想が神に噛み合わなければ力など一生与えられないだけ。そこに個人の努力なんて関係ない。ただ、神の気まぐれで産まれた時から生粋の神器であった者もいる。そして生涯修行に明け暮れながらも最後まで声を掛けられることすらなく……報われず、死した者だっている。


 獣はそうはいかない。理性を保たない彼らは、器を自らの思い通りにしようと強制的に体の所有権を奪おうとするから獣器はそれに屈しないように戦わなければならない。


 それに失敗し、獣によって体を奪われた獣器を倒す任務も珍しくなかった。



 だから、僕にはそんな常識しかないから。あの人は眩しくて……羨ましくて、仕方なかったんだと思う。



『力を、貸して下さいっ……!』



 蚩尤という神を下すために組まれた同盟。罪区特殊異界学校の強力な結果に退路を阻まれて、僕たちは戦う以外の手段を断たれてしまった。そんな中で出会った、10人の一般人である男女はただ1人を除いては本当にただの力無い人間の子どもたち。


 この最悪な状況下で、ずっと彼らを守り続けていたのは悪魔とオーガを従えた……獣器としての器も、訓練も満たしていないような女の子だった。衝撃だった、本当に。何の間違いかとみんなで疑ったけど彼女は本当に悪魔とオーガを自分の手足のように……長年連れ添った相棒のように、的確な指示を出す。悪魔とオーガも、そんな彼女の行いは当然とばかりに常に彼女の命に従って……その身を守るために行動するのだ。


 それがいくらこの異界でのルールだとしても、異質だ。あんなにも素直に人という、彼らにとっては塵芥に変わらない弱小の生き物に従うなんて。



『手数が、どうしても足りない……!! 彼らを救うために、力を貸して下さいっ』



 血塗れの髪と、既に服とは言えない布切れを着た一般人である女の子がそう懇願する。既に彼女の悪魔と鬼は、彼女のために赤い鎖によって連れ攫われた仲間たちを救いに走っている。


 僕と麗にそう言って、涙を溜めた瞳をしっかりとこちらに向ける彼女に……産まれた時から神器として形作られた僕は、何一つ勝るものはない。



『勿論、協力は惜しまない! 勝命、ここにいるのである!』



 赤いハンマーを片手に走り出すチームメイトの背中を見送りながら、彼女に何一つ返す言葉のない自分を罵倒する。


 ……かっこ悪い。恥ずかしくて仕方ない。


 自分は今まで努力してきたつもりだ。修行も欠かさず、知識も……勉強もしてきたのに、何故だろうか。胸を張ってそれを言える気がしない……これが、生まれ持った才とでも言うのだろうか。



『先程、言いましたよね』



『……え?』



 まだ目の前にいるのかと驚き、勢いよく曲げていた背中を正したものだから傷が痛む。思いっきり顔をしかめた僕を見て、フッと笑う彼女に恥ずかしいところを見せてしまったとまた背を曲げる。



『私に、謝罪を』



 控えめに、そっと彼女の様子を窺うと髪も瞳も……全て同じ黒なのにどうしてかそれが綺麗に見えてならない。彼女の黒は、美しいんだ。



『優しい神様。あなたは、きっとそれで良いんです、何度も自分の優しさを憎んだかもしれないけどあなたは自分の優しさを恥じないで』



 違うんだ。


 僕は、女神たるニケ神を宿した器なんだ。神が人間を憐んで、優しくするなんて変だよ。僕がそんなだから、ニケ神も力を封じたままなんだ。


 緩く首を横に振る僕に、彼女は一歩近付いた。



『どうして?


 悪魔だって私を憐んで涙を流すよ。鬼だって言葉を尽くして励ましてくれる。


 神様が人を憐んで、自分の弱さを恥じて何が悪いの。優しくてダメなのは過去の失敗を見つめない自分自身にだけ。一歩でも成長する、それが目に見えないものだとしても必ず降り積もって形になるよ。


 私は、そう信じてるから。だから歩くのをやめない』



 優しさなんて捨てなさい。



 何度も家の者に言われてきた言葉。情も心も器たるお前には必要ないのだと、呪いのように紡がれてきた言葉。



『あなたがくれた優しさが、私は嬉しかった。


 ありがとう。優しい神様。優しいほうが、私は好きです』



 血の繋がった者に何度願ったかわからない言葉を、先程まで命のやりとりをしたような人間に言われるだなんて。


 心の中に、花が開くような……僕の知らない温かな何かが胸の奥けら漸く放たれたように溢れて止まない。嬉しくて仕方ない。幸せな言葉を、人生で一番欲しかった言葉だ。



『……うん、うんっ……!』



 背を向けて走り出した彼女は、上空から迎えに来た悪魔と共に……黒い翼を広げて飛び立った。


 初めて見た時から、美しい人だと思った。狂気を纏いながらも一途に守りたいもののために戦える強さが羨ましい。恐ろしい生き物に物怖じすることなく、共に剣を取れる逞しさ。


 僕は、神様だけど。悪魔を召喚するような悪しき者と呼ばれるであろう彼女に好感など抱くなと言われるだろうけど。


 関係ない。そんなこと、もう気にしない。



『どうか』



 心の底から願う。



『あの美しい者たちに』



 ただ、生きてほしい。



『勝利を』



 だから、勝たなければ。






 背中が熱い。


 なんだろう、先程の傷がまた開いたのだろうか?



『しょ、勝命!? せ、背中!! お主背中を見てみろ!』



 背中が熱くて痒くなったと呑気なことを考えていると、少し離れた場所で弓矢で鎖を壊せないか攻撃を続けていた微ちゃんの大声に首を傾げる。



『どうしたの? そうそう、なんか背中がかゆっ……へっ!?』



 背中に回した腕は、何かフサフサとしたものを掴んだ。あるはずのないその触感に、もう一度確かめるようにそれに腕を回す。何度確認しても存在するそれに……固唾を飲みながらゆっくりと振り返る。


 僕の背中には、ニケ神の象徴ともいえる白い翼が広がっていたのだ。



『な、で……嘘だ、僕は……だって僕は落ちこぼれの神器だっ……! こんな、これじゃまるでっ』



 認められたみたいじゃないか、


 ああ。


 まさか、こんな嬉しいことが1日の中で2度も起こるだなんて。



『っこうしちゃいられない!!』



 既に麗と彼女の悪魔と鬼によって半分以上の人が救出されたが未だに捕まっている人がいる。火黒先生と斉天大聖がいないことで救助する手が減らされているから、かなり手こずっているのだ。


 背中の翼に力を流すようなイメージをして、大空を飛ぶ……あの悪魔と彼女を想像して飛び上がる。あんな風になりたい、あの2人みたいに自由に戦いたい!!



『…っとべ!!』



 初めて出せたニケ神の力を、発揮することが出来た。浮き上がった後は必死に翼を動かしてグングンと上を目指して上昇するのみ。


 するとどうだろう、最後の1人である尊君に彼女が手を伸ばすところだった。なんだ自分はやはり要らなかったかと肩を落とした瞬間、まるで彼だけは逃がさないとばかりに足に巻き付いた鎖がグンと彼を引っ張った。



『そんなっ、ダメだ……!』



 繋がれなかった手を前に、泣き叫ぶ憧れの彼女が絶望する未来を否定した。



『……()()()()っ!!』



 口から自然と溢れた言葉は、きちんと形となって現れた。足元に展開された魔法陣から現れた金と銀を基調とした盾……アテナ神が授けられたとされる最強の名を冠した防具。それに迷うことなく両足を乗せ、一気に飛び立つ。足場として利用したアイギスはすぐに消え去り、伝説の盾を足場にしてしまった罪悪感を抱えながらも八卦炉に連れ込まれそうになる彼の足元に回り込む。

 


『尊さんっ……!』



懐から短剣を取り出し、ニケ神の力を込めてから鎖を断ち切る。まるで紙でも切ったような手応えに驚きながらも慌てて尊さんの肩を持ってその場から離脱した。


 いつも戦況を見守るばかりだったのに……それに参加している。


 夢みたいだ。



『え!! しょ、勝命君!?』



『はい!! 今まで役立たずでごめんなさい、僕……役に立てましたかね?』



 火黒先生による最終奥義が発動された。


 先生が最強たる理由は、空亡によるあの奥義があるからだ。いざとなれば火黒先生以外の一切を灰燼としてしまう必勝の技……勿論、味方が近くにいれば諸共だけど今回はあの八卦炉のお陰でこちらに被害は出ない。


 八卦炉を見下ろしながら、僕は祈り続けた。ニケ神の力を発揮出来ている今ならば勝利を呼び寄せるこの力も、いつも以上の効果を出せるはずだ。



『さぁ。降りようか、



 僕たちの勝利を見届けよう!』




 地上に降りた時、泣きながら駆け寄って来た憧れの彼女に尊さんと共に抱きしめられた僕はその日一番情けない悲鳴を上げた。





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