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獣鬼獣従  作者: 戦風
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あかいはな



 白い魔法陣が、生み出された。


 暗い武道場全体を照らすような眩い光を放ちながら展開されるそれを、俺たちは知っている。何度声を掛けても開くことがなかった、あの漆黒の瞳は……しっかりと開いて眼前の敵を見下していた。



【召喚式定着】



【召喚を実行しますか?】



 肯。



『獣器召喚。

 

 目を開けたまえ。声を上げたまえ。我が命を、聞きたまえ。


 私の名は羽降たゆた。汝の名は白呪!!』



 磔にされたたゆたの後ろで展開された魔法陣から、武道場全体を揺らすような咆哮が放たれた。ぬっ、と現れた白く太い腕から肩…顔、そして全身。2本の鈍器を取り出した白呪は、その内の1本を宙に放る。くるくると回る鈍器が、遥か上空で一度止まると一気に先端の丸い球体を下にして落下を始める様は、まるで砲丸投げ。それが落ちた先には、たゆたを磔にする戟の先。ぶつかり合う2つの武器だったが、変化が現れたのは戟だった。蚩尤の証たる赤いそれはぶつかった場所から徐々に白に塗り替えられて鎖にまで侵食が進む。全体に到達した時、たゆたを縛り付けていたものは砕け散り……白い欠片となって粉々になった。



『白呪』



 上空から投げ出されたままポツリと吐かれた小さな声を洩らすことなく拾ったオーガは、即座に落下地点まで走ると上から落ちて来たたゆたを見事片手で抱きとめた。続けて落下する自らの武器も空いているもう片方で難なく受け止める。


 砕けた武器の白い欠片が、キラキラと松明の灯りと合わさって……幻想的な空間を作り出す。その中で白いオーガに抱えられたたゆたは、腕からそっと辺りを見渡してから……ライムへと目を止めた。



『大変。


 イケメンが、台無しじゃない?』



 コテリと首を傾げながらそう言っては、両手を使って耳を塞ぐ仕草をする。その顔は感情を表さず、あまり見たことのない彼女の新しい一面を垣間見得た。



『バカ。ばーか。ばかライム』


 

 その瞳は、ブレることなく悪魔を捕らえている。



『バカイムだよ、略したらバカイムちゃん。


 私が、君を喚んだ。今、君はそれに応えて力を貸してくれる。私の我儘に君はずっと付き合ってくれてるんだよ。私が死んだ時は、それで終わり。忘れてくれて良い。後悔も苦悩も要らない。



 死ぬ時は、私が全部をやり切った時だ』



『だから私は、君がいいよ。


 ライム、最後まで一緒にいてね。約束をちゃんと守ってくれるんでしょう? 優しい、私だけの悪魔さん』



 鬼の腕の中で微笑むたゆたに、地に縫い付けられた悪魔がその手を伸ばす。



 が。それを阻むように振り落とされた戦斧を、白呪は片手の鈍器で受け止めた。それを振り払って距離を取る白呪の腕の中から抜け出したたゆたは、その手に彼との武継分通によって現したお揃いの鈍器を握るとそれを蚩尤に向ける。



『私の大切な仲間と、兄弟を何度も傷付けるあなたはここで倒します。


 ()()()は、逃げない』



【……見事。


 惰弱の言葉を取り消す。我が反乱を止められるか、魂の砕けた娘よ】



 ブレザーから2つのボタンを引きちぎると、たゆたはそれを白呪へと渡した。2つのボタンがそれぞれ2つの鈍器へと吸い込まれるように消えると、ライムの時のように武器が変化した。


 ボタンに刻まれていた、羽ヶ者学園高等学校の証である羽の模様……。


 持ち手にはそれと似た白い羽が描かれ、先端の丸い球体は金色に塗られ鋭い棘が新しく付けられて白い鎖が緩くその周りを固めている。



【……わ、こう。名前……】



『ん? 名前か、そうだね。いつまでも鈍器鈍器って呼ぶのも可哀想か』



 自分の手にする武器の変化する様を見ながら、たゆたはそれを白呪とぶつけ合ってから同時に駆け出した。



『なら、明星めいせいにしよう。白呪はこの暗いどん底の中でずっとこの武器で私を守ってくれた。


 明けた空に、この武器を掲げてやろう』



 戦斧を白呪が受け止め、たゆたがその脇から一気に走り抜けて蚩尤へと突っ込む。左手の明星をその身に投げつけると難なく盾によって弾かれる。


 まだ、右があるっ……!


 待っていたとばかりに、現れた盾ごと真横から殴り付ける。明星の強度に耐えられることなく、盾は床に落とされた。しかしその無防備な体を前に蚩尤が何もしないはずもなく、またあの矢がたゆたを四方から狙う。


 ニタリと笑った彼女の上から、影が落ちる。放たれた矢は全て白呪の皮膚に傷一つ付けることなく終わったのだ。これには蚩尤も目を張る。



『私の白呪を、そこらのオーガと一緒にしちゃダメだよ。


 とっても強いから』



 刃が欠けた戦斧。吹き飛ばされた盾。傷一つ付けられない矢。


 あれだけ俺たちが苦戦した数々の武器を、一気に突破してみせた。これには俺たちも目の前の光景を信じられず、みんなで顔を合わせてはその気持ちを共感し合う他ない。


 あの、たゆたが。



【気に入った】



 途端に辺りを霧が覆う。それを警戒した白呪がたゆたを連れて蚩尤から距離を取ると……霧が晴れた時、再び巨人がそこに立ち塞がる。



【驚かされる。この地で、このような()()に出会えるなどと。


 ああ。本当に……良い日だッ!!】



 巨人が振るう、大地を裂くような一撃を前にたゆたは表情一つ変えることなく……自分を守る鬼に命令を下す。



『白呪。あの巨人を倒す。


 私の宝物に、触れさせないで』



 降り続ける雨に濡れた前髪を鬱陶しそうに流した仕草のまま、そう命じた主人への了承のように白呪は叫ぶ。蚩尤の放つ拳に、正々堂々正面から挑む白呪。ぶつかり合う拳の風圧が俺たちを襲い、それだけで一気に全身を押されてバランスを崩す者が多く出る。


 巨人の拳に一歩も退かず、むしろ片手にはたゆたを抱いているというのにまるで負けていない。



【鬼風情が……、我が力を封じるか】



【お、に……?


 そう。お、れ……羽降の、おに】



 僅かに、白呪が押し返した。だが途端に矢が構えられて白呪はすぐにそれを止めるとたゆたをしっかりと身の内に隠して攻撃を躱す。白呪にはどれだけ矢が放たれても問題はないが、それが1本でもたゆたに当たれば致命傷となる。


 しかし、次に白呪が起き上がった時。その腕の中にたゆたはいなかった。



【……娘が、いない】



 暗闇に溶けるような翼が、大きく広げられた。


 蚩尤の目の前に現れた大きな烏から、たゆたが飛び立った。ハッとして先程までライムが倒れていた場所を見れば、そこには折れた矢と破れた服があるだけ。



『武継分通 “罪花さいけ”』



 右手に現れた、ライムとの武継分通で現れた赤い剣を手にしたたゆたはそれを迷うことなく蚩尤に振るった。咄嗟に後退した蚩尤の額を掠めた一太刀。傷は浅かった、とてもじゃないが致命傷とは成り得ない小さな傷。


 だが、紛れもなく初めて与えることの出来た傷だ。無敵とされた最強の敵の概念を剥がすには、それだけで十分。


 蚩尤の額から溢れた血が、すれ違ったたゆたの白い花と髪を赤く染めた。それに気づいたたゆたが、手を花に添えた後で悲しげな表情を浮かべる。落ちるたゆたを烏が拾うと、すぐに白呪の元へと降下していく。



【たゆたっ……! 全く、君はすぐにそうやってとんでもないことを! ああ、でも本当に目が覚めて良かったっ……身体中痛いでしょうが、感動でどうにかなりそうなのでハグをしても?】



『ハグはいいけど……花が濡れちゃった。それに、顔面切り離す勢いだったのに額を割っただけだった。


 まぁ、一発入れてやれたから良いか。我儘はダメだよね』



 1人反省会を開くたゆたを他所に、ライムはその小さな体をぎゅうぎゅうと抱きしめている。2人してボロボロなのに、まるで怪我の心配なんてしていない。


 息が合いすぎるほど。かっちりと嵌まるところに嵌まったような、呼吸が合う2人。



『取り敢えず蚩尤に飛び掛かってみたけど、もしかしてあれからまだあんまり時間経ってない?』



【ええ。ほとんど。


 あ。あの4人とは同盟を組みました。あなたのお仲間のお陰で波風立てずに穏便に。そして、聖天大聖の分身体がいます。恐らく……彼の最後の悪足掻きでしょう】



 大聖と目が合ったたゆたは、珍しく動揺したように顔を強張らせると……暫くして、頭を深く下げた。大聖は気にするなとばかりにしっしっ、と手を払うようなモーションをするがたゆたの顔から陰りは消えない。



『……そっか。じゃあ……大分、良い経過を迎えられてるね』




 床が、揺れている。


 ガタガタと全体が揺れ、こんな時に地震かと思った時。それは間違いだと気付く。地震ではない、地団駄だ。何度も何度も床を踏みしだく、巨人の足。


 額を押さえる蚩尤には、明らかな怒りが込められていた。



『ライム。ここは私と白呪で保たせるから、どうにか蚩尤を倒す方法をみんなと考えてきて。


 大丈夫。今度はちゃんと、負けないから』



 何かを放り投げた後、たゆたは罪花を消して再び明星を取り出す。投げられたスマホをキャッチしたライムは、それに抗議する。



【ですが、兄弟……】



『君だって負傷してる。本当は一度戻してあげたいけど、一時でもライムがいなくなると崩れるんだ。少し休みながら作戦を。ちゃんと同盟を組んだ人たちも拾ってね。


 さぁ、行って。大丈夫だよ。凄く体が軽い気がするんだ。早くしないと私たちで倒しちゃうかもよ』



 ライムから視線をずらすと、俺たちに向かって満面の笑みを向けてくれる。いつもと変わらない幼さの残る可愛らしいもの。だけど、いつもならそのまま駆け寄って来てくれるたゆたは、今は白呪と共に怒りに震える蚩尤に立ち塞がる。



『専也君! よろしくね、私たち殴ることしか脳がないから良い作戦期待してる!』



『た、たゆたちゃん!? そそそ、そんな無理ゲーをっ』



 慌てふためく専也の姿を見て、たゆたは笑いながらも首を傾げる。何故と、呟いてからなんの迷いもなく言う。



『団結力なら最強の三組だもん。きっといつもみたいに、みんなで乗り越えられるよ』



 もしダメなら、やっぱり殴る。と……力瘤を作るたゆたの姿に懐かしさと嬉しさが込み上げる。


 何も出来ない俺たちを、いつものようにと信じてくれるのだから嬉しい他ない。



『任せろ、たゆた! だからたゆたも、絶対に死ぬんじゃないぞ!!』



 



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