1章 新日常
はい。科学側です。
流石に魔術側だけじゃダメだよねってことで科学側です。
「さて、今日も一日頑張りますか」
最近の朝のルーティーンになっている言葉を口にし、ベットからからだを起こす。服を脱ぎ、そして着替える。朝食は買いだめたパンで済ませて身支度をしたら準備完了。
「よーし準備おっけー。んじゃいってきまーす」
こうして【川越 渡】の一日が始まる。
学生である渡は毎朝学校へ行くため街中を歩いている。電車や自転車でもいいのだが、一人暮らしをしている身からすれば、親からの仕送りは登校なんかのために使うのは勿体無いと、少し早めに家を出て節約している。
街の様子はここ数年でめまぐるしく変わった。元々この周辺はビニールハウスが多く建っていたらしいが、周りを見てもそんな様子はない。あるのはビルと大きな電光掲示板、リニアモーターカーの線路だけ。
ではビニールハウスの中身はどこに行ったのか、その答えはビルの中だ。ビルの中は科学技術の発達と能力のサポートによって、自由自在に環境を変えることが出来る。しかもこの中では、人参や芋のような野菜から、リンゴやブドウのような木に生るものまで全て管理しているのである。
そんな摩訶不思議な事を可能にしたのは、一人の天才である。その人物のしたことは単純で、人類は皆【能力】という不思議な力を使えると言った。最初は誰も信じなかったが、実際に使ってみせると会場は騒然となり、すぐに特集が組まれ、使い方が普及した。今では当たり前の光景だが、当時は戦争や略奪の激化などが危険視され、人類史初の全国家代表が集結した世界会議が行われた。そして法案も同時進行で考えられるという、今までにない速度で物事が進んだらしい。
そんな激動の次に来たのが今の激動、言うなれば第三次産業革命だ。能力を使えば圧倒的なスピードで物事が進む。材料の確保、加工、運送など、経済を回すために必要なものが全て揃っていた。
能力には五種類の属性がある。
【風】【雷】【地】【距離】【虚無】である。
【風】【雷】【地】はその名の通りの現象を引き起こす。風を吹かせ、雷を起こし、大地を動かす。
【距離】も名前の通りだが、距離そのものを変えるのではなく、指定したエリアに異空間の距離を作るというもの。移動する距離を減らすことはできないが、トンネルの要領でのショートカットは可能である。逆に、他の能力を消滅させる程の距離を作り被害をなくすことも可能である。
こうなると【距離】の能力が一番暴力的になりそうだが、そうはいかない。【虚無】は特殊で実態のないものを無に還す。【距離】は異空間という特殊な実際には存在しないものを用いているため、【虚無】の能力が触れると消えてしまうのだ。しかし、【虚無】では【風】【雷】【地】は無効化出来ないこれらの三つは一度発生したら実体化するからである。
そんな因果関係のある能力だが、使い方はいたって簡単で、そうしたいと思えば能力に見合った事ならばほとんど可能である。ただし、気力と体力が規模によって減り、どの能力が使えるかは素質による。そして一人一種類しか使えないという制限がある。そのため、今の就活生達は自分の能力と【能力】を踏まえてアピールしないといけないため、ちょっとした社会問題だったりする。
渡はというと、何故か能力が使えない。何度も試したがつむじ風のひとつ吹かなかった。【虚無】の可能性もあったが、見事に異空間にち閉じ込められた。代わりといってはなんだが、渡には前世の記憶がある。母親のお腹の中に居たことしか分からないうえに、急な眠気と倦怠感に襲われそのまま目が覚めなかったのだが。
「今日の昼何買おうかな~」
と登校中に考えいる渡だが、電光掲示板からニュースが聞こえてきた。
「最初のニュースです。各地で発生している突然死について新たな見解が発表されました。
突然死の起きた人の多くが、前日に過剰なほど能力を使用していたことが判明致しました。この事について専門家は…
一瞬世界が戻ったかと思った。能力を使用していた人達が能力を切ったからだ。流石に能力の使用がトリガーとなって突然死が起こるのであれば使うのをやめるだろう。その事を事前に察していたニュース側も、念を押して、
「あくまでも過剰な使用です。普段の使用量では危険性はありません。ですが、念のため体力には余裕を持たせておいてください。」
と警告を促していた。
「ようは使いすぎなければいいんだろ?」
誰かがそう言うと旧日常は新日常に戻った。
そして、渡は
「自分は関係ないか」
と鼻唄混じりで学校へ向かった。
主人公は渡くんです。
世界設定の説明会が続いて申し訳ない。
でも設定作るのが楽しいんじゃ。