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職業が決まるとそのままゲームが開始された。
「あれ?キャラメイクはないのかな?」
多くのオンラインゲームではキャラメイクが出来るはずだ。
自分に似せた姿や自分の理想の姿、もしくは受け狙い等選べるはずなのだが………。このゲームはキャラメイクがないのだろうか。
『職業が無職の場合は容姿はランダムになります。選べません。』
マジか………。
そうならそうと先に言ってほしかった。
どうか、無難な見た目でありますように。
その願いは無事に届いたのかごくごく普通の見た目だった。
☆☆☆
無事にチュートリアルを終えたオレは早速マコトに友達申請することにした。
『優斗ってばおっそーい。今日はもうインしないのかと思ったよ。』
マコトに友達申請するとすぐに承認されてマコトからのメッセージが飛んできた。
このキャッティーニャオンラインでは、ゲーム内で友達になればチャットで話すことができるのだ。
友達以外とは、同じフィールドにいる人物に直接チャットするしか方法がない。
『ごめんごめん。職業の選択に迷って時間くった。マコトは何の職業にしたの?』
『え?鍛冶師だよ!鍛冶師はスタミナもあるし力もあるからね!ある程度の冒険は出来るんだよ。優斗は?』
『あー、無職。』
『はあ!?無職なんて職業は選べないでしょ!?何言ってるの?』
どうやらマコトも無職が選択できることを知らないようだ。
………やっぱバグじゃないよな?
ちょっと心配になった。攻略サイトとかには記載あるよな?
『今からそっち行くからステータス見せて!!』
そう言ってマコトからのチャットは途絶えた。
このゲームでは友達になれば、相手がどこにいるかわかるらしい。それを頼りにこっちにムカッテイルのだろう。
待つこと5分。
「マコトのやつ遅いなぁ。」
「優斗!………じゃなかったエンディミオン様お待たせ!」
いきなり黒髪ロングをツインテールにしている巨乳美少女に声をかけられた。いや、美少女というより美幼女?
背丈が低いし大きな目をしているから幼女にも見えなくはない。
「あー、マコト………か?」
「うん!そう!今はマコッチって呼んでね。エンディミオン様。」
マコトことマコッチはそう言ってにっこりと笑った。
どうも現実のマコトと見た目に差異がありすぎて違和感しか覚えない。
「っていうか、エンディミオン様って地味な見た目してるよね?もっとキャラメイク頑張ればよかったのに。っていうか、ランダムにしてても、その見た目になることはまずないよ。どうしてそんなに地味な見た目にしたの?逆にゲームの中で目立つというかなんというか………。」
そうマコッチの言う通りに、この見た目は地味すぎて逆に目立っていた。
このキャッティーニャオンラインのキャラは もれなく皆美形なのだ。
オレみたいに地味な容姿は一人もいない。
そうマコッチを待っている間に街を眺めていて気がついた。
「無職は容姿が選べないそうだ。」
オレは説明されたことをそのままマコッチに伝える。すると、マコッチは大きな丸い目をさらに丸くして驚いた。
「ええ!?そんなこと聞いたことないよ!それに無職だって聞いたことないよ!攻略サイトにも載ってなかったよ?」
聞いてないと言われてもなぁ。実際に起こったことだし。
っていうか、攻略サイトにも乗ってないのか。
あれ?本当にオレ無職で大丈夫なんだよな?ちょっと心配になってきた。
「やっぱバグかな?このキャラ消して作り直した方がいいかな?」
「………エンディミオン様、このゲームキャラリセ出来ないんだよ。」
「なっ!?」
マコッチの言葉に絶句する。まさかキャラリセ出来ないゲームがあるとは………。
やっぱり職業は無職ではなくきちんと選ばなきゃいけなかったな。これで転職機能が実装されなかった日にはオレはこのゲームを去ることになるだろう。
「ま、隠しジョブなのかな?だとしたら他の職業よりも強いかもしれないし。とりあえず頑張ってみなよ、エンディミオン様。」
マコッチに励まされて、丸めていた背中をあげた。そうして、マコッチを見るとマコッチの身体に後光が射しているような気がした。
「マコッチよ、エンディミオン様って嫌がらせか?」
さっきから「様」をつけられる度に気持ち悪かったんだ。
「え?だって優斗ってばエンディミオン様って、名前にしたんでしょ?もともと様がついているから敬称なしで呼ぼうとしてもエンディミオン様になってしまうんだよ。」
「はあ!?オレはエンディミオンしか入力してないのに!!」
「………バグかなぁ?」
グスッ。せっかく面白そうなゲームだと思ったのに、まさかのバグとか。
名前のつけなおし出来ないのかな。
「あ、名前の変更は出来ないからね!」
マコッチの発言が胸にグサッと刺さった。
自分で名前に様をつけるだなんてどんな痛いやつなんだよ。オレ。
「エンディミオン様、そんなに落ち込まないで!とりあえず冒険しようよ。まだ武器や防具も揃えてないでしょ?買いにいこう!お勧めを選んであげるから。」
「あ、ああ。」
マコッチに言われて頷いた。
そうだな。まだゲームは始まったばかりだし楽しむか。ここは現実の世界ではないのだから、エンディミオンが優斗だってしってるのもマコトだけだし。
名前くらいでそんなに困らないよな。
だけどこの後オレは発狂することになる。
何故ならば所持金0だったからだ。通常だと装備品とプラス回復薬一個か二個くらい買うだけのお金が運営からプレゼントされているはずなのにそれがないのだ。
どうもこれも無職だからのようだ。
武器も防具も所持金もない。
これからどうしろと言うのだろうか。
マコッチがいなかったらオレはゲームをやめていたことだろう。