悪魔の転職
ある日、悪魔が面接に来た。
前職は人間を惑わし、魂を拝借していたらしい。
転職理由を尋ねると、ネットの普及から悪魔の手口が知れ渡り、騙される人間が減少。
ただでさえブラック企業だった魔界がさらに酷くなる一方で、耐え切れずに逃げ出してきたのだと、悪魔は涙ながらに語った。
続けて悪魔は自分の能力を生かし、営業をさせてほしいと訴えた。
わが社は布団や化粧品、そして健康食品などを訪問販売形式で行っている会社である。
世間一般に思われている悪徳業者ではなく、ちゃんとした商品を正規の価格で販売している。
確かに悪魔の能力を使えば、すぐに営業成績はトップになるだろう。
それに・・・正直なところ、わが社の販売方式では情報に疎いご老人をターゲットにしているとはいえ、高齢者にもスマホが普及していることから、ネット販売に押しも押されているのが現状である。
経営状態もよろしくなく、好調に転じる気配もない。
悪魔が入社してくれれば、わが社もV字回復は夢ではないだろう。
悪魔は私の表情から採用を察したのか、満足げに会社を後にした。
採用しようと考えたが、ふと思いとどまる。
悪魔の能力を使うなど、悪徳業者と同じではないか?
不採用としたら、悪魔に報復され、地獄に連れていかれるかもしれない。
しかし被害者を増やすわけにはいかない。私一人が犠牲となろう。
面接官は、涙ながらにペンを握った---
悪魔のもとに不採用通知が届いた。
怒りに身を震わせ、あの面接官をなんとしてでも地獄に連れて行ってやると考えながら、手紙を読んだ。
「弊社にご関心をお寄せいただいたにも関わらず不本意な結果となり、大変恐縮ではございますが何卒ご了承いただければ幸いです。
末筆ながら、悪魔様の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます。」
祈られた悪魔は、霧となって消え失せた。




