雨。
私は雨が嫌いだ。
ジメジメしていて、一緒にいてくれるヒトはいなくて、ただ濡れるだけ。
ひとりバス停でバスを待ち、前を通る相合い傘のカップルを傍観するだけ。
私に声をかけてくれるヒトなんていないのに、ただバスを待ちそこに立つだけ。
でも、このバス停からの景色は好きだ。
脇道に並ぶように生えた、そよ風に揺れるアカツメクサの群生。
田んぼで楽しげな鳴き声の大合唱を歌うカエルたち。
ときどき空を切って力強く飛ぶ飛行機雲が、私の唯一の楽しみだった。
しかし、雨はそれら全てを奪ってしまう。
滅多に使われないここのバス停に、いつしか植物の蔓が伝いはじめ。
置いてあった花瓶は原型を失い、朽ち果てた雨よけは崩れ落ちて。
やがて私が待っていたバスも来ることはなくなってしまった。
あるとき、バス停の前で車が停車した。
降りてきたのはきちんとヒゲを剃り、スーツに身を包んだ男のヒト。
彼は傘もささず、雨に濡れることも厭わず、湿るアスファルトに手をつき。
「ごめん… 僕のせいで、キミは…」
私は彼の背中を優しく摩り、バス停を出ていった。