第八話 月日が流れたら変化も起きるさ
林道整備もそれなりに済んだ。鉱山の位置もリルが教えてくれて、魔法による精製方法も確立したことで、改めて田畑の開墾に打ち込んできた。開墾した分が自分の物になることが楽しくて後先も考えずに広げていたら、いつしか田んぼが50町歩、畑が100町歩にもなっていた。もちろん用水も延長し、荷車が通りやすいように区画整理をしながらの開墾だ。
森も田畑の肥料にと腐葉土を取って来たりしていたので、結果的に森を手入れした感じになり沢山のキノコが生えて来たり、色々な草花が増えたりと森が豊かになったようにも思えた。実際、リルも『以前より森の住人たちの食糧が増えた』と喜んでいた。
家に近い田畑には蕎麦と大豆を植え、それなりの収穫量が有ったが、米は所詮素人。水張と水抜きのタイミングなのか結構難しくて収穫量も伸びずに次回の種と自給用で消えて行き、売るまでにはならなかった。
ここに暮らし始めて5年。悪戦苦闘をしている内になんとか売れるまでの量を収穫出来る様になってきた。そこでふと気が付いたのだが、どうやって大量に精米や製粉にするのか? 出来なきゃ売れない。それこそ骨折り損になってしまう。
良い方法が無いかネットで調べてみたら、水車を利用して脱穀や製粉をしていたと書いてあった。だからそれを参考に創造魔法を駆使して、杵と臼を備えた水車小屋を作った。だって既に水車はあるからそれを利用したら手間も省けると言うもんだ。
ある日、ボルトンさんが二組の家族を連れてきた。要件は畑を貸してやって欲しいと言うことだった。
「ノゾミ。こいつらはわしの娘のミランダ一家と甥っ子のレノン一家なんだが、すまんが畑を貸してやってくれんか」
「いいけど、こちらも条件があるよ。最低でも1町歩の田んぼで米作りを手伝って欲しい。それと、1日の始まりに大地の神様、水の神様、風の神様にお供えをして感謝の気持ちを伝えること。森に入る時もお供えをして恵みを分けてもらうお願いをすること」と言うと、「どうだ」とボルトンさんが返事を促してくれた。
「わかりました」と二家族とも快く引き受けてくれたことで、それぞれに3町歩の畑を貸すことにした。貸出料は収穫量に対する税プラス1割。だからあと5年は税金免除なので実質1割だ。
「そんなに安くていいのですか」と驚くミランダさん。
「その代わり、田んぼの分は全部こちらに頂くからそれで善しってことで」
「わかりました。それでよろしくお願いします」
レノンさんも「私どももそれでよろしくお願います」と契約が成立した。
「ところで、家はどうするんですか?良ければ畑の近くに用意しますよ」
「えっ? そこまでしてもらっても良いのですか?」再度ミランダさんが驚いていた。
まぁ~、材料は有るし、土地もあるから簡単に出来ると言うと、ボルトンさんが「頼む」と一言。
さっそく作り始めることにした。
家は創造魔法を駆使して2時間ほどで2軒の家が出来た。気合を入れ過ぎたせいか大き目の家になった。また、それぞれの家に納屋や厩舎も作り、農作業がしやすくしてあげた。家賃は畑の賃料に含めたことで。ボルトンさんからもお礼を言われた。
その後、ここで生活をするうえで守って欲しいことを説明した。それは森に入る時の心得だ。俺はリルを呼んで皆に紹介をし、森に生きる住人達はすべてが友達だから傷つけない事をお願いした。狩りをして良いのは魔獣だけ。それを守れば森が多大な恵みを与えてくれることも話し、これを守れない時は畑も家も返却してもらう旨を伝えた。それとオレの家の裏にある温泉は誰でも自由に入って良い事と森の住人達も使っていることも付け加えた。
要は、自然との共存共栄である。
数日後、森に入ったと言うレノンさんがキノコを採って来たからとお裾分けを持って来てくれた。
「初めて森に入りましたが、あそこまで歩道が整備されていて驚きました」
「いえいえ、リルに森の向うに海が有ると聞いて、ついつい繋げてしまいました」
「海が有るのですか?」
「はい、ありました。時折そこで塩作りをしています」
「塩作りですか? 良ければお手伝いをさせてください」
「ありがとうございます。人手が必要な時はお願いします」
それからレノンさんはミランダさんの旦那、ラムダンさんにも声をかけてくれて、畑仕事の合間を見ては一家総出で開懇の手伝いをしてくれるようになった。俺が土魔法で大まかに掘り起こし、大きな石を取り除くと、小石拾いや土地均しをしてくれた。その横でリルや森の住人達が穴掘りなどして遊んでいたけど、もしかしたら手伝っていたつもりだったのかな?
作業を共にしていくことで、ミランダ一家とレノン一家の人とも仲良くなり、人手も増えた事でいよいよワイン計画を実行に移す時が来たと判断し、山葡萄の収穫時期に間に合うようにネットで調べた醸造所を参考に建設を急いだ。まさか施設よりもワイン樽を作る方に苦戦を強いられたのは計算外だった。なにせ、樽に使える木を見つけることは鑑定を使っても見つけにくかったのだ……。 これでワイン作りの準備は整った。あとは収穫時が楽しみだ。