第七話 リルに連れてこられた洞窟は…
今日は朝から林道作りをしていた。森の向こうに海が在ると聞いては繋がない手はない。
上手く行けば海の魚が食えるし、第一は塩だ。ボルトンさんの話によるとこのサルサ村は月に一回行商が来るが、値が張ると言っていたからだ。
作業しているときにふと気が付いたことがあった。それは空間魔法で運ぶから、道幅はそんなに広くなくても良いんじゃないかという事だ。それからは道幅を半分にしたため、距離が倍に伸びた。
そのせいもあって、一月ほどで海まで道が繋がった。そこには岩場と砂浜が広がっていた。
ちょうど干潮時とあって岩場には取り残された魚が数匹いた。鑑定してみたら食用可と出たので、その場で〆て持ち帰ることにした。
魚も獲れて気分が良くなり帰ろうと思ったが、大事な実験を忘れていた。
それは、魔法で塩を作ることが出来るかどうかだ。イメージは事前に考えていたので実行をすることに、魔法は創造魔法で抽出。要は塩だけを取り出すイメージだ。普通なら海水を濃くしながら水分を蒸発させるのだけど、一人では無理だ。なんせ体力がない。だから魔法で塩だけを取り出すイメージをしたんだ。持参してきた木箱に塩が溜まるイメージも加えて、魔法発動。
5分位で10キロの塩が木箱に溜まっていた。成功だ。
しかし、俺が使う魔法はマンガやアニメみたいに瞬間に出来るのと違い、少し時間がかかる。これは俺の問題か、この星の特徴か知らないけど、研究の余地がありそうだ。
ついでだからと、一時間ほど作業をして100キロの塩を取り出した。これを村で安く売れば喜んで貰えるだろうとほくそ笑んでみた。
出来たての塩を使い魚を焼いていると、匂いに釣られてか森の住人達がわらわらと集まって来た。
『お前はリル様が認めた人間か?』とその中にいたリーダー的なオオカミが声をかけて来た。
「認めたかどうか知らないけど、俺の家に居るな」
『そうか。泉の件もお前が解決してくれたんだな。感謝する』
「もう過ぎたことだ。いつまでも感謝しなくていい」
『そうはいかぬ、ここに住む者達の救世主だからな』
「それより、一緒に焼き魚を食わないか」
『ありがたく頂きたいと言いたいが、これだけの者が集まって来ておるからな。無理だろう』
ほぉ~ みんなの事を考えているってことは、このオオカミさんが次期主の候補かな?
「大丈夫、獲ってくればいいだけだからな」
俺はそういうと岩場で追加の魚を獲って来てひたすら焼いた。みんなお腹一杯とはいかないけど、なんだか森の住人達との距離が更に縮まった気がして楽しかった。
『御馳走になった。私はレッド。森の主の候補者の一人だ』
「俺はノゾミ。よろしく」
『こちらこそ。よろしく頼む』
家に戻るとリルが待っていた。
『レッド達が世話になったようだな。感謝する』といきなり言われた。先ほどの事がもうリルの耳に入っていたらしい。ただ魚を一緒に食べただけなのに……
『ノゾミ殿。泉のお礼と今日のお礼だ。案内したいところがある。ついて来ると良いぞ』
案内された場所は森の奥に入った洞窟だった。中に入ると先日もらった金とミスリルの鉱石が転がっていた。
「ここは鉱山?」
『ここは千年ほど前にミスリルドラゴンが巣にしていた処だ。今は居ない。ここに有る鉱石は我々には無価値なものだ。ノゾミ殿が好きにするが良いぞ』
好きにって言われても……どうすんのよ。とりあえず鑑定だ。[金45%とミスリル40%その他15%の混合石。推定埋蔵量530t]見なかったことにしよう……
『気に入ってもらえただろうか』
「あっ…あぁ~ 凄く。凄すぎてビックリしちまった」
『何度も言うが、ここはノゾミ殿の物だ』
俺の物って簡単に言うけど、誰かに見つからないようにしないと大騒ぎになるな…… 対策を考えると同時に、塩で使った抽出で金とミスリルに分ける事が出来ないかとも考えが閃き、少量の鉱石を空間にしまった。良い対策も思いつかないから、この場所自体を誰も入れないように結界を張ることにした。
職業を魔導士にチェンジして、結界をはったあと、念押しで人間には見えないように幻影魔法を掛け、洞窟の存在を分からなくしてみた。
再び家に戻るとさっそく持ってきた鉱石をテーブルの上に置き、金の抽出魔法を掛けた。ミスリルとの同時抽出は魔力だけが取られる感じだけで捗らなかった。
抽出の結果は金が約3キロ・ミスリルが2,7キロを取り出し、純度の鑑定を掛けたら両方とも純度の高い99,99%だった。実験は成功。念のため、残りの鉱石も再度鑑定で調べてみたら、鉄と銅共に5%ほど混ざっていることが分かり、これも抽出した。
実験に成功したはいいけど、こんな量をこの村では捌けないし、人にも言えないから、空間にしまう事にした。