第四十一話 こっそりチーズが見つかった……
領主さまから、交配が出来るようにと雄2頭を含めて贈られた10頭の乳牛で俺は毎日ミルク絞っている。初めは搾乳の手付きがあまりにも下手くそで牛も嫌がっていたが、この頃は腕を上げたのか嫌がらなくなってきた。
だけど、10頭の搾乳作業は結構な重労働だ。生乳は美味しいと聞くが、雑菌も多いので60度位まで加熱して殺菌したのを飲んだりしているが、残りはすべてバターを作っていた。乳清は肥料にもなるから捨てる処が無いと重宝もしている。
それにボンボ村の件もあり保護区の住人の間でも利用範囲が広がっていた。特に、パン生地に混ぜ込む手法を教えてからは特に多用されている。
しかし、バターばかり作っていても味気ないと思い、こっそりチーズを作ることにした。
なぜか? それは俺の好物だからだ。チーズをツマミにワインなんて最高の組み合わせと思っている。
それを密かに楽しむのが密かな楽しみだ。
一番注意を払わなければいけないのはラベルさんだ。ここに住んでいると言う事も有るが、とにかく目聡い。隠しカメラで見ているんじゃないかと思うほどの目聡さだ。
だから俺の部屋から入れる地下作業所を作り、そこでチーズ造りをしようと思っている。
地下は気温と湿度が最後の熟成保管場所に最適な環境でもあるからね。
今日からラベルさんが王宮へ定期報告に出向いている。鬼の居ぬ間に……ではないが、絶好の作業日和だ。早々に搾乳を終らせバターを作り、地下に潜る。
大きな鍋で搾りたての生乳を温め殺菌した後、少し冷まし酵素の凝固剤を入れしばらく待つと固まって来るので、それを専用のカッターで細かく切り、ゆっくり攪拌をしていると乳清が出てくるから、半分以上の乳清を取り除き、そこにお湯を加えて更に攪拌する。こうすることで更に水分を抜くことが出来るんだ。それからザルにサラシを引いて水切りし、重しを乗せて更に水分を出したら、型に入れ替え重しを乗せて形を整えながらここでも水気を取っていく。
固まってきたら、型から抜きカビないように一晩塩水につけて、後は時折塩水で表面をふきながら熟成させたら出来上がり。だけど、今回は時送りを使って熟成させた。
なぜか? ラベルさんが居ないうちに食べたいからにきまっている。
いつも王宮に行くと1週間程は戻ってこないから、あと5日は戻ってこない。誰にも見つからず、気兼ねすることなく、ゆっくりとチーズをツマミにワインを味わえる。
深紅のワインと薄茶色に黄色い切り口のチーズ。早く私を口にして~って誘っている気がしてならない。
チーズを一切れほおばり、香りと弾力のある歯ごたえを楽しむ。そしてワインを一口。
あぁ~~ 至福。
手作りチーズの味は格別。(日本で)市販の物など足元にも及ばない。
「なに一人でブツブツ言っているのですか?」
なんでラベルさんが????????
「お……王都じゃ無かったのですか?」
「いえ、今回はククク村の視察だけですが、そう言いませんでしたか?」
「はっ? えっ?? 王都にって……」
「では伝え間違いですね。ところで、ワイン片手に何を食べているのですか?」
「へっ? あっ……これ?」
「そうです」
「こっ…これは……」
「一切れ頂きますね」
言うが早いか、一切れじゃなく2切れもくっ付いてラベルさんの口に入って行った。
「ちょっとクセが有りますが、美味しいですね。ワインと良く合います」
って、いつの間にかワインも飲んでいるよ……
「で、これは何という食べ物ですか?」
「チーズ……です……」
「はい? 何と言いました?」
「チーズです」
「チーズですか。まさか一人だけで食べるつもりだったのではないですよね?」
「まっ……まさか……1人だけなんて……」
「では、他のみなさんもご存じなのですね?」
「えぇ~と……さっき出来たばかりで……公表はまだしてなくて……」
「なるほど。試作の試食をしていたと言う事ですね」
「そ…そうです。試食です」
まさか、初日で見つかるなんて…… 昨日の氷結事件と言い三隣亡かよ……
「みなさん。ノゾミ殿が新しくチーズの試作をされましたので、試食会を開きます」
ラベルさ~~~ん…… もう泣きたくなってきたよホント……
ラベルさんがチーズはワインに合う事と、俺が一人で楽しもうとしていたことを暴露して、みんなからブーイングを受ける羽目になり、散々な目にあったよ。
だけど、チーズもバターと同じ牛乳から作ったと説明した時の驚いた顔は面白かったけどね。
「牛乳から出来るのはバターだけじゃなかったんですね。チーズでしたっけ……これも売れそうですよ」
だけど、問題があるんだよね。10頭からの乳だけでは売るまでの量が作れないんだ。
「わかりました。陛下に伝えて乳牛を増やしましょう」
待って……世話が出来ない。出来ないから……
「ノゾミおじちゃん……」
はぁ~ おじちゃん……誰だ? 俺をおじちゃん呼ばわりする奴は……
声のする足元を見ると、レノンさんの娘キミーちゃんが居て「あのね。私がサトリお兄ちゃんと牛さんのお世話をするの」
それにつられてか、他の子ども達もお世話すると言いだし、大人たちが認めたことで、乳牛を増やし、チーズの製造をすることになった……