第四十話 リケアさんの奥義炸裂事件
ゼノールさんとリケアさんは20代の若い夫婦でとても仲が良い。あまりの良さに保護区の住人も時折目を覆いたくなるような事が有る。
二人がサルサ村に移住してきてからケンカをしているところを誰も見たことが無いほど仲睦まじい。
そんな二人がまさか険呑な状態になっていたとは誰も思いもしなかった……。
その兆候を感じたのは、農耕作業中以外はいつも一緒にいた二人がここ数日一緒に居る処を見た記憶が無い。初めはお互い仕事中なのかな?って、気楽に思っていたが、でも3日・4日・5日と二人揃ったところを見ていないとさすがと不思議に思う。
しかも、作業中に惚気話すら聞かなくなったと言うから重傷かも知れない。それはゼノールさんだけでなく、リケアさんからも聞かないと言う。
保護区の住人はみんなで力を合わせて作業をしているし、みんなが同郷で顔なじみだから親兄弟のような付き合いをしていて遠慮が無い。それだけに二人の異変が新鮮な出来事……じゃない。心配な出来事だった。
女性陣は原因が知りたくてウズウズしているし、男性陣はその内に治まると無関心を装っているがその実は気になって仕方がない。
海千山千の先輩夫婦は「ケンカして絆も強くなる」とか「ケンカもスパイス」などと言ってはいるものの、なんとか仲直りをさせたいとお節介を焼くことにしたらしい。
女性陣は一番年長者のミランダさんが、男性陣は一番仲が良いスコットさんがそれぞれから話を聞き出すことになった。
女性陣の話……
「リケア。最近どうかしたの?ゼノール君と何かあった?」
「いえ……別に……」
「そう? 何も無いなら良いけど、一人で考え過ぎても良いことないわよ」
「…………」
「話せないことなら無理には聞かないけど、人に話すことで気持ちの整理が付くこともあるし、私も力になれることが有るかもしれないわ」
「そうなんですけど……」
「もしかして……夜のお話し?」
「…………」
「そうなのね。まさか浮気って事はないわよね?」
「それは無いです……」
「なら安心ね」
「あの……実は、お酒なんです」
「お酒??」
「はい。村の子供たちを見てたら私もそろそろ欲しいなって思って、恥ずかしいけど私から誘ってるんです……」
「そう。それで?」
「ゼノール君ったら、先日貰ったワインや日本酒が気に入って、毎日飲んでするんです」
「ダメなの?」
「ダメじゃないけど……、お酒が弱いみたいで直ぐに寝ちゃうんです。朝まで起きないんです」
男性陣の話……
「ゼノール。お前リケアちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「いえ……俺もなんで怒っているのか分からないんです……」
「ちゃんとリケアちゃんに聞いてみたか?」
「聞いても教えてくれないし、最近では口も利いてくれないから……」
「わかった。なら俺らに任せておけ」
ミランダさんとスコットさんがお互いの話を整理した結果、やはり意思疎通をさせなくてはいけないと言う事になり、二人だけでは話も進まないだろうと、4人で俺の家にやって来た。
なんで俺の家なんだって思ったけど、このところ本気を出して来た女性陣が怖くて小心者に成り下がった俺には言えるはずもなく、居間に通したのだった。
「ノゾミさんごめんなさいね。集会場だと落ち着かないし、二人の家より環境が違う方が良いかと思ったら、ここしか思いつかな無かったのよ」
「いえ……構いませんよ……」
あぁ~ ヤな予感。巻き込まれたくない……と思いながらもお茶を出した。
切り出したのはミランダさんだ。
「ゼノール君。リケアちゃんが怒っている訳、判ってるわよね」
「おいおい。初めから威嚇かよ」
「スコットは黙ってて!」
「こえぇ~~な……。穏やかに話そうぜ」
「私は穏やかよ!」
「いや……怒ってるだろ……」
「だから、スコットは黙ってて!!」
「はいはい」
「ゼノール君。リケアちゃんの気持ちは知ってるわよね」
「気持ちですか…… どんな?」
「どんな~~~?? なに? 知らないとでも言うつもり??」
「だって……怒ってる理由も教えてくれないし、口も利いてくれないもん。判らないよ……」
「……あのねぇ~ リケアちゃんは子供が欲しいって事は知ってるわよね」
「はい。それは……」
「じゃ~なんでお酒飲んで寝ちゃうの?」
「ゼノール……それは不味いぞ」
「スコットは黙っててって言ったわよね……」
「すいません……」
なんでミランダさんが激オコ?? やっぱ嫌な予感が拭えない……
「で、なんでお酒を飲んで寝ちゃうのよ!」
「…そ……それは……ですね……」
「お姉さん。もういいから……」
「良くないわ! それでなんなのよ!!」
「じ…実は……俺……」
「はっきり言いなさい! 男でしょうが!」
「俺……まだ経験なくて、勢いを付けようとお酒飲んだら飲み過ぎて寝ちゃったんです」
「はぁ?? 今何て言った??」
「量を減らしても寝ちゃうみたいで……」
「ゼノール君も……いいから……」
「俺…… シたことないけど、頑張ろうとはしているんです」
あまりにもの衝撃的な告白に、この場に居た全員が固まった。
「ゼノール君ゴメンね。ゼノール君に恥をかかせる気は無かったのよ」
「リケアちゃん。良いんだよ。俺が情けないから……」
「違うの……私が待ってってお願いしたのがいけなかったの……」
「リケアちゃんは悪くないよ…… 俺がいけないんだ」
なんか二人の仲が戻ったみたい。善かった。と思ったが、事件はこれで終わらなかった……
ゼノール君に恥をかかせたとリケアちゃんが怒りだし、その矛先は当然ミランダさんに向けられたけど、怒りのコントロールが出来なかったのか、それとも感情か、まさかの氷結魔法が炸裂!
「あっ……」俺の家は氷の世界へと変貌した。
氷結魔法はリケアちゃんも知らなかったようで、怒りが潜在能力を引き出した形となり、ゼノール君の童○宣言より衝撃的な結末を迎えたのであった。
夫婦ケンカは犬も食わぬ。 一番の被害者は………… 俺でした。




