第三十八話 念願のしょう油作り
サルサ村の現状は日本酒とうどんの原料である米と麦を中心に蕎麦や各種野菜を作っている。後はほんの少しだけ大豆かな。これは俺が個人的に栽培をしている。それは味噌としょう油を作るためだけど、1つずつ確実に成果を出すために後回しにしてきた案件だ。
日本酒はサム君とニト君が杜氏として育ってくれたし、うどんも女性陣の役割といつの間にかなっていて、共にサルサ村どころか国の貿易品となり利益を上げている。すでに俺の手を離れたと言っても良い状態だ。そこで次に取り組むのをしょう油に決めた。今は魚醤が主流だが、しょう油の爽やかな?香りと癖のない味を知ったら必ずヒット間違い無し! と確信している。
だがしかし……その前にやることが有る。それは大豆の栽培。貯めてある大豆を使っても出来ないことは無いが、失敗した時用の予備が欲しい。なんせ初めて作るのだから用意して置くことにこしたことはない。それにしょう油作りでも麦を使う。麦は玄麦で殻から取った精製前の麦のことだ。
そんなこんなで計画を進めるだめ、現在、大豆と麦用の畑を開墾中である。
場所は俺の家の近く。搾乳用の牛の為に作った放牧場のとなり辺りだって言っても分からないよね。
放牧場に触れたのが初めてだから。とにかく。俺の家の近くだよ。そこに5町分を広げている最中だ。
このしょう油計画が上手く行ったら次は味噌も作るから、その分も大豆も居るし……ついでだから一気に開墾して置くんだよ。合理的だろ。
まぁ~ 土の精霊様にも手伝って貰っているし、土魔法を駆使して作業をしているからそんなに日にちは掛からないだろう。当然だけど水路の延長もしているぞ。
新しい畑も出来上がったところで大豆の種まきだ。計画では全部を大豆にと保護区の住民には説明してある。しかし、玄麦を使いたいと申し出たところ、うどんの売れ行きが良く麦が足りないと逆に言われた。そこで、女性陣と交渉して新畑の2町を提供する代わりに玄麦を分けてもらう交渉をした。
もちろん、初めから麦用に2町は回す予定だったから卑怯かもしれないけど、掛け引きの材料にさせてもらった。ところが、向うが一枚も二枚も上手で「畑が足りなければさらに開墾しなさい。ノゾミなら直ぐ出来るでしょ」と3町が麦になってしまった。
決まった事をグダグダ言ってもしょうがない、畑に大豆を植えたら収穫までに時間がある。この間に手持ちの大豆と玄麦も手に入った事でしょう油の仕込みをして行くことにしよう。
場所は、旧酒蔵。サム君とニト君が杜氏をするようになった時に新しく居住区の近くに作り直したからだ。
しょう油作りの手順はお酒に似ている。材料が違うだけだ。
大豆は一晩水に漬け戻したら柔らかくなるまで蒸かす。茹でても良いけど、蒸かした方が大豆の旨味が多く残り美味しくなる気がする。
玄麦は乾煎りして細かく砕き、蒸した大豆と混ぜ合わせ麹菌を加えて40度から50度程で麹菌を繁殖させる。ほんとここまでは酒作りと同じだ。この後、樽に移し塩と水を加え良く攪拌し、醪を作っていく。後は時折攪拌して発酵を促してやり、約一年寝かせたら絞って出来上がりなのだが、このまま一年待つか時送りの魔法を使うか思案の最中である。
自然に任せて発酵させた旨味凝縮のしょう油は美味いけど、時送りを使えって早くみんなに味を知ってもらえば今後の協力も得られやすい。酒の時に感じたが魔法で強制的に熟成させたのと、自然に熟成させたのとでは微妙に違いがある。やはり自然発酵の方が素材の成分がしっかり旨味に変わるんだろう。どうするか……
いろいろ試案した結果、これはいわゆる試作品だという事で、時送りをして仕上げることにした。
やはり本格的な仕込みを目指すならみんなの協力は必須だ。ちゃんと味を知ってもらう事が重要だ。
少しでも自然発酵に近づけようと、時送りで一月送り10日程休んでまた一月送るを繰り返して三か月掛けて発酵熟成させた。
途中、しょう油の香ばしい香りが蔵の外まで漂って来て「この匂いはなに?」とか聞かれたが、出来上がるまで内緒って流していた。楽しみは最後まで取っておいた方がインパクトは有るからね。
これも興味を引き付ける作戦なのだ。なにせ日本の伝統食品は発酵させた物が多い。事実、大豆と藁が有ったら一番先に浮かぶ朝食のお供が有るけど、あの匂いを考えると慣れない人には紹介できないから我慢してる。
話が逸れたが、それだけ匂いが伴う発酵食品だ。慎重に事を進めないと……
実を言うと、味噌よりしょう油を先にしたのもこの匂いが原因だ。味噌の方が発酵中の匂いが弱いのだ。それだとみんなの興味を引き付けられないという事態も起こり得る。だから香ばしい匂いを出すしょう油は最適なのだ。と自負している。
そろそろ搾りに入る。綺麗なサラシに醪を包み数段重ねたら上から重力魔法で圧を掛けて絞っていく。
ゆくゆくは水車を利用した圧縮装置を作る予定だけど、今回は忘れていたから重力魔法を使っただけだ。
搾り上がったしょう油は綺麗な琥珀色で今すぐに味見をしてみろと言わんばかりに自己主張していた。
このまま「生搾り」の状態でも良いのだけど、これも発酵食品だから火入れをして発酵を止めてやる。
出来たしょう油で早速うどんを食べてみる。茹で上がったばかりのうどんに生しょう油を掛けただけ。
美味い!
癖の強い魚醤と違い、あっさり爽やか。香ばしい匂いも加わり初めて作った割に上出来の味だった。




