第三十七話 一年物ワインの試飲してみた
今年もワインの仕込みがやって来た。山葡萄の収穫も昨年より多く取れ期待が出来そうだ。
精霊様にお供えをして豊作の感謝を伝えたところで、保護区の住人全員で作業を始める。
メリーゼ一家とフロン一家。ゼノール夫婦は初めての体験で、特に子供たちのはしゃぎようは見ているだけでこちらも楽しくなる。
今回は人手が多く、早めに作業も終わったので恒例?の宴会だ。
昨年作って寝かして置いたワインを用意する。初参加組は初めてのワインらしく、深紅に輝くワインを見て興味津々のようだ。子供たちにはブドウジュースを作っておいた。
一年寝かせたワインは樽の香りも含んで鼻腔をくすぐり、出来立てのワインより一層豊かな香りとなり、滑らかな舌触りと微かな酸味が口内に広がってその味わいを楽しませてくれた。
「こんなお酒が有ったんですか……」とゼノール君が言えば、「俺らも去年は同じことを思ったわ」とランダムさん。ボルトンさんは「一年寝かすだけでこうも変わるのか……」と冷静?
村長なんか……って、いつ来たの?? 「一年でこれだと、2年3年と寝かせたらどうなるんですか?」
と聞いて来た。さすがに俺も10年物20年物など飲んだ事無く、味は分からないけどテレビで有名人たちが「香りが芳醇」とか「味に深みがある」とか言っていたのを思い出したが、説明できないのでどうなるんでしょうね?と受け流して置いた。
すでに去年買い付けて行った行商人から蔵出しをしたら売って欲しいと言われてもいたから数年も置いておくことは出来ないなと思っていたら、ラベルさんが「時送りで10年寝かせたものを作ってはどうですか?」と耳打ちをしてきた。
時使いの魔法は日本酒の時に知られているので公にはなっている。
ラベルさんの耳打ちが聞こえたのか、村長が「面白そうですな」と乗って来た。どんだけ耳が良いんだとツッコミたかったけど、止めて置いた。
ワインを10本持って来て、5年から10年、15年、20年、25年と5年おきに貯蔵ワインを作った。ってか、作らされた感が拭えないけど。みんなでこれも試飲した。
みんなの声は「違いが良く判らない」だった。正直、俺も飲み慣れていないので違いが分かり難かったが、20年物になると酸味み香りも薄れ、ほんのりとした甘みだけが感じられた気がした。気のせいじゃなきゃ良いけどと思いながら「うん。わからん……」と呟いた。
だけど、1年と5年では段ちに違いを感じたので、中間の3年も作り試飲して1年物と3年物を売りに出す事にした。
「しかし、日本酒以外にもお酒をつくっていたんですね」とゼノール君。どうもお酒が好きで気になるようだ。そう言えば日本酒の仕込みも張り切っていると聞いた事を思い出したながら、ワイン作りの経緯を話してあげた。ブドウも森の恵みだよ。木を移植させてもらったんだよ。それでこの収穫量でしょう。食べ切れないからとワインにしたんだよ」
「これ、個人的にも買えるんですか?」
「お酒と一緒。出来上がった時に出荷分以外を平等に分けるから。それが無くなったら村の販売店で個人的に買ってもらう事になるね」
「えっ、何本かは貰えるんですか? 楽しみです」
「そりゃ、労働に見合う分はね」
「はい。もっと頑張ります」
それからは俺も食って飲んでで、みんなと一緒はしゃいだのであった。
「ところで、伯爵さま……」
だれだ?? 俺をそんな呼び方する奴は!
「今年はどれ程ワインを売って頂けるのでしょうか……」
そこに居たのは、例の行商人だった。
「俺を伯爵と呼ぶ奴には売らん! 俺は平民のノゾミだ~~!」
「そんなぁ殺生な………… 伯爵さま~~ お願いです……お売り下さい。伯爵さま~~」
「まだ言うか! おれは伯爵で無い。ノゾミだ~~!」
横で見ていた村長が「この村でノゾミ殿を伯爵と呼ぶことは村の規則で禁じられましたから、普通にノゾミ殿と呼んであげてください」と取り持ってくれた事がみんなの爆笑を誘い、「伯爵さ……ノゾミ殿も扱い難いですな~~」と、行商人の一言でさらに大爆笑を誘い、みんなが笑いに包まれたところで宴会もお開きとなった




