第三十六話 見合い話が来た事から大事に……
ラベルさんが局長の特別開墾事業部からメルーサ王国内をたらい回しされ、田畑の開墾や特産品の提案など多くをこなし、その内いくつかは国の重要輸出品目となり陛下が言っていたように村だけでなく国にも富を齎していった。
今日は田畑の肥料にすべく、森で落ち葉集めをしていた。取りすぎると森の土が栄養不足になるのでそこは注意をしながら集めて行く。ククク村に繋がる森からの道も整備した事で、管理する範囲が広くなったが、その分、森の恵みを沢山頂けている。
作業を終え自宅に戻って来るとラベルさんが待っていた。
「ノゾミさん、待っていましたよ。こちらを見ておいてください」
渡されたのは数えるのも面倒な程の身上書だった。
「ノゾミ殿の希望で今まで爵位は下されなかったが、これだけ功績を残されると、周囲からの声も無視できない程に高まり、この度、ノゾミ殿に爵位を与えられることになりました」
「えぇ~~ 要らないよ……」
「それは陛下も重々承知していますが、陛下の私有地を管理している者が平民という事も問題があるのではと指摘も出て居まして……」
「えぇ~~~ 何とかなりませんか?」
「まだ確定では有りませんが、伯爵当りが有力視されています」
「どうしてもって言うなら一番下の位で良いです」
「それは、陛下にお伝えしておきますが、それでノゾミ殿が貴族に推挙される話がでたので、国中の貴族たちが自分の娘を嫁がせて、自領の開拓に協力させようとの下心があるようですね」
「………………」
「では、見るも捨てるもご自由ですが、私はちゃんと渡しましたからね」そういうとどこかに消えて行った。
困った。平民の俺が貴族様の身上書を無闇に捨てれば問題になるし、だからと言って貴族様を嫁には迎え入れられない。どうしよう……
あっ、そう言えば領主様が困った時は相談に来いって言ってくれたよな……
よし! 相談しに行こう
村長を通じて面会を求める手紙を書いてもらったら、領主さま自ら視察を兼ねてサルサ村まで来てくれた。
「そなたとは王宮で会って以来だな。その後の活躍も耳にしている。我が領民の活躍に私も鼻が高い思いだ、」
「ありがとうございます。また本日はわざわざ足をお運び頂き恐縮です」
「そんなに硬くならずとも好い。間もなくそなたの方が上位になる」
「いえ、陛下には最下位の爵位をと願い出ております」
「最下位と? 準男爵か」
「すいません。無知なのでそこまでは知りません……」
「たぶん、陛下でもその願いは無理だと思うぞ」
「そうなんですか?」
本題に入る前に気持ちを折られてしまった気分だ。
あれから更に届けられた身上書を領主さまの前に置き、これをどう処分すれば良いかを相談した。
このまま放置して知らぬ顔をすれば良いのか、すべてにお断りの手紙を書くべきか……
領主さまが言うには断りの手紙は後に残るから、爵位を受けたのち断りの使者を立てるか、そのまま放置しておけという事だった。
要は、俺が平民の内に自分が有利な条件で取り込もうとしているのだから、爵位後の方が話がしやすくなると言うことだった。
一月後、俺の伯爵位の付与が決まったことをラベルさんから聞かされた。俺は直ぐに陛下への面会を求め、直談判をすることにした。
一通り挨拶を済ませ本題を切り出す。これは領主様と会ってから考えていたことだ。
「陛下、この度の私への爵位に付いてですが一つお願いが御座います」
「申してみよ」
「はい。私が貴族になっても領地もなにも持たない名誉位です。しかし、サルサ村領主ダストエアー男爵より上位の爵位ですと、これからの活動に支障をもたらします。そこで提案なのですが、私に下さる予定の伯爵をダストエアー男爵に。そしてその男爵位を私に頂けないでしょうか」
「なるほど、領主より上位と言うのが困ると言うのだな」
「その通りでございます」
「話は分かった。三日後に決定を下す。ダストエアー男爵と共に登城せよ」
三日後、ダストエアー男爵と共に再び国王陛下の前に控えている。
「ノゾミ殿の申し出についての決定を伝える。タカナシノゾミに一代限りの伯爵位を与える。また、ダストエアー男爵を候爵とする。これで見合い話も断りやすくなるだろう」
「ありがとうごいます」
「陛下。どうして私が候爵なのでしょうか?」
「ノゾミ殿が自領の領主より高位は受け入れぬと直談判に来よったわ。一番手っ取り早い解決策は上位にすることだからな。それとノゾミ殿に力添えをしていると聞いた。我が保護区もダストエアー侯爵領内にあるゆえな。今後もタカナシ伯爵と共に保護区を守ってくれ」
「はっ! 我が身にかえて。しかし、そんなお話がされていたとは知りませんでした」
「タカナシ伯爵の心遣いに感謝することだな。二人とも下がってよいぞ」
サルサ村へはダストエアー侯爵様の馬車で送ってもらえることになった。その中でひたすらお礼を言われたのと、お見合い話の断りを侯爵様が引き受けてくれた事でひとまず解決した。
「言い忘れたが、これも一時でまた来るぞ」




