第三十四話 ボンボ村にやって来たけど……
ボンボ村の位置は王都より北にあり、リルに乗せてもらってもサルサ村から3日も掛かった。
特産品がジャガイモと聞いていたので、密かに作っていた菜種で絞った油と、途中王都でコショウを買ってボンボ村にやって来たのは良いが、サルサ村から着てきた服では肌寒く感じ、早々に魔法で防寒をすることにした。日本で言うと晩秋の様相かな。
今回も役場に行く前に村の中を視察する。すると牛とニワトリを飼っているのか、放牧している場所を見つけ、近くに居た人に話を聞きに行くことにした。
「こんにちは。この村は牛とニワトリの家畜をしているのですか?」
「おう? 見かけない顔だな。どこから来た」
「はい。サルサ村から来たノゾミと言います」
「あぁ~ もしかして国から派遣されてくる奴がいると聞いたけど、お前さんか」
「たぶんそうです。で、この牛は飼ってるんですか?」
「そうだよ。この牛を使って農家の畑を耕しているのさ」
「ねぇ~ この牛から乳は取れる?」
「おう、取れるぞ。俺は毎日のんでおる」
「教えてくれてありがとう」
お礼を言ったあと役場へと足を進めた。そう言えば名前を聞くのを忘れたな……
「まぁ~ ノゾミ様ですよね。お待ちしておりました」
「ちょっと…… いきなり抱き着かないで……」
「私は村長のササリンです。どうぞよろしくお願いします」
これはフレンドリーなのか? それとも……
「お話は聞いて頂けていると思いますが、今回は村の特産品を考えて頂きたいのよ」
ササリン村長は話始めると止まることを知らないのか、マシンガントークへと変貌していき、すでに話の内容が頭に入って来なくなっていた。
やっとのことで村長から解放された俺は再び牛飼いの元に行った。改めて自己紹介をしたら名前はビースさんと分かった。
「この牛から絞る乳はどうしてるの?」
「俺が飲む以外は捨てちまうな」
「えっ!勿体無い、捨てるなら出来るだけたくさんその乳を分けてくれませんか?」
「おう。良いけど、なんに使うんだ?」
「後で教えますよ」
待つこと暫し。桶に2杯分の乳を持って来てくれた。これを使いバター造りを始める事にする。
場所はビースさんの家だ。幸いにも牛の水飲み場には沢から冷たい水を引いていたので、桶ごと沢の水で冷やしながらそのまま一昼夜放置しておくと生乳が分離して上部にクリームが浮いて来るからそれまで待つ。
分離したクリームだけを丁寧に取り集め、待っている間に作ってみた回転式の攪拌機にクリームとオリハルコン製のボールを入れ、ひたすら攪拌する。ボールを入れたのは、クリームの攪拌を促すためだ。
攪拌機の音に変化が出て来た。バシッバッシって音から、タンタンって叩かれるような音に変化した所で攪拌を止め、中を見てみると、塊と水分=乳清に分かれていて、乳清を取り除いた塊がバターだ。
出来たばかりのバターに味を確認しながら塩を少量加えて混ぜてたら加塩バターの出来上がりだ。
「ビースさん。これはバターって言うんだ。舐めてみて」と味見をさせたら、驚いた顔をして「こりゃうめぇ。本当に牛の乳から出来たとは思えねぇな」と感心しきりだった。
「この攪拌機はビースにあげるから、今度は自分で作ってみて。ただし、時々は俺にバターを分けてくれよな」
「あぁ~ もちろんだ!」
さて、バターを手に入れた事でこれから本題のジャガイモを使った特産品の提案だ。
ササリン村長に連れて来られたのは、集荷場の中に設けられている調理室。そこにはジャガイモ農家の世話役的な人が数人集まっていた。
その人たちに普段の食べ方を聞いたら、塩ゆでしてそのまま食べるのが主流で、あとはスープに入れて食べるだけだとか。
今回、俺は商品としても売れる菓子を2種類とコロッケを提案するつもりだ。
初めに、大量のジャガイモを茹でる。皮を剥いて茹でても良いが、俺は熱いけど茹でた後に皮を剥く。
この方が水っぽくならないからだよ。
茹で上がったジャガイモは急いで皮を取り、2つの入れ物に分けて、一つは荒つぶし。もう一つは完全に潰しきる。荒つぶしの方はコロッケ用だ。ここに炒めたひき肉とか色々な具材を入れても美味しいが、今日は純粋にジャガイモだけで作る。潰したイモに塩コショウで味を付ける。王都でコショウを買って来たのはこのためだ。
それを適当な形。今回は日本人には定番の小判型に整え、それからビースさんから貰ってきた卵を付け、パンを削って作ったパン粉をまぶし、持ってきた菜種油でキツネ色になるまで揚げれば完成。
次は油を使った定番のお菓子、ジャガイモチップだ。薄く切ったジャガイモをパリッとするまで素揚げして軽く塩を絡めれば出来上がり。とても簡単に出来る。もちろん櫛形に切って揚げても食感が違ったジャガ揚げが出来る事も実際に作って体感してもらうつもりだ。
最後は今回のメイン。ジャガイモのクッキーだ。これは多少の日持ちもするから売りに出す事も出来るはずだ。
先ほど完全に潰したイモの中に麦粉とバターと少量の塩を入れ、耳たぶより少し硬くなるまで良く捏ねる。柔らかいようなら、麦粉を硬いようなら水を加え調整する。甘みを加えたいときはハチミツを入れても美味しい。
こうして出来た生地を薄く延ばしたら、食べやすい大きさに切って焼くだけだ。今日は無駄が出にくい棒状にしてみた。
こうして出来たジャガイモメインのお菓子とコロッケの試食はアッという間に無くなった。
ササリン村長から菜種油とバターや卵の入手法を聞かれたときに、バターと卵はビースさんの所で手に入ることと、菜種を栽培し収穫の頃に改めて搾り方を教えに来ることを約束してボンボ村での依頼が完了した。




