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第三十話 ククク村のお酒作りが始まりました

今日はククク村の田んぼ状況を見に来ていた。もう直ぐ稲刈りを迎えると言う事で、研修を受けた人が中心になって稲架の作り方を村人たちに教えていた。村長のクダンさんも率先して田んぼ仕事を覚えようとしていた。


村長は俺を見つけると手を振ってやって来た。


「ノゾミ殿。今日も来て頂いてありがとうございます」

「初めての稲作にしては見事な出来だと思いますよ。綺麗な黄金色に輝いています」

「これもサルサ村の方のご指導があったからこそです」

「いえいえ、頑張ったのはククク村の人たちですから」

「そう言って頂けると村のみんなも喜びます」

「本当の事ですよ。しかし、見た感じだとそろそろ刈り入れですかね」

「はい。3日後には刈り入れをする予定で、それまでに稲架(はざ)作りを終わらせるつもりです」


このまま村長と話をしていると長くなりそうだったので、忘れないうちに本題の要件を済ませておこう。これから使う脱穀機や唐箕(とうみ)。酒作りで使う桶やその他の道具を持って来たのだ。倉庫と酒蔵にそれぞれを置いて帰ることにした。脱穀作業をする時にでも改めて来よう。


稲刈り当日は村人総出で行われたらしく、乾燥も済んだことで脱穀とゴミ分け。水車小屋での籾摺りと作業を見守ることにした。時折使い方を説明する場面も有ったが、村の人たちは主食として食べる事も出来るし、酒の原料でもある米をとても大切に扱っていて、村の生き残りが掛かっているという思いが滲み出ていたようにも思えた。




サルサ村では酒作りの研修が終わりに近づいて来きていた。今日は最終工程の搾りから瓶詰め。加熱処理を行う。これが終われば研修も終わりだ。


ポロン君とデカド君の二人も初めての酒作りをとは思えないほど杜氏としての才能を開花させていて、鑑定通り見事期待に応えてくれた。自信を持ってククク村に帰すことが出来る。



別れの時がやって来た。出来上がった酒をお土産に持たせ、酒作り組の研修生を見送ることになった間際にサム君がククク村に応援に行く約束をしたようようで、少し心細かったのかポロン君もデカド君もかなり喜んでいたのが印象的だった。




ククク村で初の酒作りが始まった。ポロン君とデカド君は精米作業に立ち会っていた。

サム師匠から言われたように米粒を壊さないように杵の強さを確認しながら慎重に作業を進め、粒の大きさも均等に出来ているかを確認しながら……。



精米は数日かけて行われ、まもなくその作業が終わろうとしていた時にサム師匠が来てくれた。

挨拶もそこそこに精米した米を確認してもらう。


「うん。とても良い出来だよ」

「ありがとうございます。これから麹造りに入ります」

「麹造りでの注意事項はなに?」


サム師匠からの質問を丁寧に答えて行くことで、これからの手順を再確認していった。

洗米から吸水、麹造りと師匠が見ていてくれるだけで心強く、迅速かつ丁寧に作業を進めて行くことが出来た。それを見ていたサム君も安心して弟子の動きを見守っていた。それもノゾミさんから「作業前の確認はしても、あとは見ているだけで手伝わないように」と言われていたからだ。



2人の弟子を見ていて、自分に教えてくれていた時のノゾミさんの気持ちもこうだったのかなと少しハラハラしながら見ている自分に恥ずかしい気持ちにもなりながら見守っていた。



酒母作り、仕込みと作業が進んでいき、あとは発酵の状態をこまめに管理する段階になって、サム君はサルサ村に帰ることを決めた。これもノゾミさんに言われたことだ。「いつまでも傍にいると自立が出来ないから、自分が安心出来た所で帰ってくるように」と。


最後まで見届けたい気持ちもあるが、それより弟子に負けないよう村に帰って酒作りをしたくなったという気持ちが強くなっていたんだ。


余談だが、サルサ村とククク村で造られた酒はこの国が誇る輸出品になって行くのであった。




サム君が村に帰って来てから4か月、ククク村で初めて作ったお酒を持ってクダン村長がお礼を言いに来てくれた。


「この度はノゾミ殿をはじめ、サルサ村の方々には感謝しきれない程のご協力を頂きまして、予想以上の成果を残すことが出来ました。村を代表してお礼を申します。本当にありがとうございます」

「いえ、私はほとんど道具作りしかしていません。頑張ったのはサム君とニト君。それから村の人たちです」

「初めは子供で大丈夫かと思いましたが、ノゾミ殿が言われた通りあの兄弟に任せて良かったと思っています」

「はい。子供の吸収力は侮れませんからね。あとは大人がその才能が伸びるように手伝ってあげるだけ。それはうちの村の二人の杜氏も同じことです」

「そうですね。では、我がククク村自慢の杜氏が作ったお酒をぜひ味わってみてください」


クダン村長の自信に満ちたお酒の味は、悔しいけど俺が作った物より良い出来だっだけど、サム君・ニト君のよりは若干劣るくらいで、売りに出しても十分通用する出来だった。


何度か経験を積めばどちらも甲乙付け難い物になり、良いライバル産地になるだろう。


こうしてククク村での俺の役割は終わった。


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