第二十九話 ハードは完成したけれど……
ククク村の開墾を引き受けて2週間。予定していた設備も完成した。後は湧水塔から水が湧き出て、水路を満たしてくれたら完成だ。
湧水塔の前にお供え物をして、大地の精霊様と水の精霊様に通水のお願いをした。
「スイ。この塔の一番上から水を噴き出させてほしいな」
『分かった。ちょっと待っていてね』
待つこと数分。噴水のように天高く吹き出る水に歓声が上がったが、余りにも高く噴き出したせいで辺り一面がビショビショになり、俺も頭から水を被ってしまった。
「スイ。もっと勢いを弱くして」
『わかった。これ位で良い?』
想定していた水量まで湧水を抑えて貰い、時間と共に満たされていく水路の様を見ていた。
保護区より入り組んだ水路は所々で流れを止めたり、溢れたりと不具合を見つけては修正をしていき、田んぼへの導水・排水も問題が無いことを確認して行った。
水車小屋もうまく作動していて、これでククク村から依頼されたハードの面は完了した。
後は人。つまりソフト面での育成だ。特に酒作りは手間暇がかかり、しかも温度管理など繊細な感覚も必要とする。
サム君かニト君をこの村に派遣するのが手っ取り早いが、それでは人が育たない。
子供に?って、侮れられないように俺がフォローしながら指導してもらう方法もあるが、出来るだけ自分たちで出来るように人を早急に育てるかだ。そこで予め鑑定を使ってククク村の村民の中で素質のある人を選んで見ようかな……。
後日、村長のクダンさんに酒作りの研修を受けたい人と集めてもらい一人一人を面接ではないけど、鑑定をして行った。その中でサルサ村の新米杜氏サム君とニト君の二人によく似た気質と素質を持った子供が2人も居た。ポロン君とデカド君の兄弟だ。ポロン君は11歳。デカド君は10歳と年齢的にもサム君とニト君とはほぼ同世代なので二人の指導を任せても上手く行くだろうと密かに感じていた。
他にも数名の研修生を選んだ。その中にはポロン君とデカド君のお父さんも入れてある。その方がこの兄弟も安心できると思ったからね。
村長から今回選ばれた人たちに今後の詳細と注意事項を伝えて貰った。酒作りの研修はコメの収穫が終わる3か月後に始まる事と、研修期間中の4か月程はサルサ村に滞在してもうことになる事。それとこれが一番大事な事で、酒作りの中心は杜氏が行い、仕込み中は杜氏の指示通りに作業をして貰う事を約束し徹底してもらったのだ。
現にサルサ村の杜氏はサム君とニト君の二人の子供で、ククク村の杜氏候補がポロン君とデカド君の兄弟とこちらも二人の子供であるわけで、子供だからと侮られ指示を無視されたら酒が造れなくなることを必要以上に念を押してもらったわけだ。これはサルサ村でも起こった出来事だから、事前に防ごうとの狙いから特に強くお願いをしておいた。
三か月後、サルサ村ではコメの収穫も終わったことで、田んぼの研修組と酒作りの研修組が入れ替わりでやって来た。
田んぼ組には種もみを渡しておいたので村に戻れば直ぐにでも米作りが始められる。酒作り組が戻る頃にはコメの収穫時期を迎え、酒作りへと繋がる収穫は村の将来も掛かっているから、期待も膨らみ希望に満ち溢れてくるはずだ。想像だけど……。
今回、杜氏を任された子供たちはお互いに自己紹介をして早々に仲良くなったようだ。サム君とニト君は二人から「師匠」と呼ばれ照れていたし、大人たちもまた交流を深めていた。
研修期間中は集会所に寝泊まりしてもらうことになっていたので、他の住人達からも歓迎を受け夜遅くまで賑わっていた。これは田んぼ組の時と同じだった。俺には単に宴会がしたいだけにも思えてならかった。
研修用も含めて仕込み桶3個分を造ることになった。その内の2桶はニト君をメインにして行われ、研修組で1桶を担当することになった。こちらはサム君が指導する。
作業は精米から始まり、サルサ村の人の作業をククク村の人が見ていて、その次は一緒に作業をする。最後はククク村の人だけでやってみると言う流れで、みんなが水車小屋に集まっていた。
臼に玄米を入れ精米していくのだが、杵つきが強すぎると米が砕けてしまうので、振り下ろす高さ調整が重要だから慎重に行う事。とか、どこまで精米をするのかとビフォーアフターで米の大きさを比較しながらサム君が説明をしていた。研修生と一緒に聞いていた俺もその論理性にビックリした。
洗米の時もしっかり糠を落とさないと出来上がりの時の香りに影響するとか、米の吸水作業も水を吸い過ぎても吸い足りなくてもこの後の蒸しの工程でムラが出来るから浸水時間にも注意を払わなければいけないと、傍目では分かり難い細やかな指示を出しながら作業を進めていた。ここで見ていた俺は「絶対サム君は前世で杜氏をしていただろう」と呟いていた。
そんなサム君の説明に大人たちも関心しきりで子供と侮る事無く、素直に指示通りの作業を進めて行ったことで、当初の心配も杞憂に終り、俺はククク村用の脱穀機や唐箕。酒作りで使う桶や道具の製作を進めることにした。