第二十八話 ククク村の開墾を開始する
「ノゾミ殿。本当にこれで良いのか? 報酬を村が受け取るとか……」
「大丈夫です。保護区が永久免税になっていますので、その分の穴埋めに使ってください」
「すまんな。感謝するぞ」
「私も感謝いたします」
サルサ村とククク村の間で正式に覚書が交わされた。
ククク村の村長に米作りが始まるので研修生を数名。保護区に派遣するように伝え、俺は早速開墾の為にリルに乗せてもらってククク村に向かった。
いつものように精霊様にお供えをして作業を始めるが、今日は聞きたいことも有り土の精霊ドンを呼んでみた。
『何? ノゾミ』
「この土地から地下水は出るかな?」
『出ないよ』
「じゃ~ 水の精霊様は居る?」
『居ないけど、連れて来れるよ』
「そうなの? じゃ~ 連れて来て貰えるかな??」
『お菓子くれる?』
ドンにお菓子をあげると嬉しそうに食べた後、水の精霊様を連れて来てくれた。
『おいらが水の精霊でスイっていうんだ。ノゾミだっけ……何か用か?』
「はい。スイ様にお願いが有りまして、ここに来て貰いました。これは挨拶代わりです。食べてください」
『あっ、お菓子だね。ありがとう。いつもリハン様が美味しそうに食べてたから、おいらも欲しかったんだ』
「まだ有るからこちらもどうぞ」
ひとしきりお菓子を食べ満足したのか俺の話を聞いてくれることになった。
「この大地に井戸を掘りたいんだ。しかも湧き出るように」
『わかった。ドンと一緒に水が出るようにするよ。その代りお菓子ちょうだいね』
「ありがとう。水を湧き出させてほしい場所を作るから完成したらお願いしますね」
『わかった』
初めに海風を防ぐため、防風林を作ることにした。あらかじめ森の聖霊様から貰った松の木の種を多く海側に埋め。他にも落葉樹の色々な木の種も植えたら時送りの魔法で急速に成長させ、ちょっとした林をおよそ5キロに渡り作ってみた。塩田も海岸沿いに作り塩と砂糖の精製場も作り終えた。
さて、ここからが本格的な開墾だ。どれだけの村民が従事するか分からなけど、住める家を20軒と倉庫に厩舎、そして水車小屋と酒蔵を作り、そこから村の中心部に繋がる道を整備する。水車の位置に合わせて高さ5メートルの湧水塔を作り、その高低差を利用して水車を回す。また、生活用水の水汲み場と酒蔵にも水を引込む。とにかく湧水塔の水は無駄なく水路に流し、田畑に水を送る計画だ。
田畑共に100町を開墾するので、それにまんべんなく水路と運搬道を作らないといけないので、大体の配置をイメージして創造魔法で大地に区画線を引いてみた。基本的にはサルサ村と似たようにする。
イメージが完成したら精霊様にお供えをして作業開始だ。土魔法で掘り起こし、石を綺麗に取り除き、サルサの森から持ってきた腐葉土を混ぜて行く。大きな石は運搬道や湧水塔に使うために集めて置く。
海側にサトウキビ畑も含めて畑をつくり、道と水路を同時に作っていく。久しぶりの開墾だが、いくら魔法を使って楽に作業が出来るとはいえ、漫画のように瞬間に出来上がらないのが辛いところだ。
10町歩程を完成させた所で日が傾いて来たので今日の作業は終わりだ。リルにまた家まで送ってもらう。
翌日もその翌日もと同じ作業を繰り返し、一週間も掛かったがやっと田畑の開墾と水路の整備が終わった。しかし、まだまだ作業が残っている。運搬道の敷石が足りないからサルサ村から持って来くるとしても、建物用の材木は完全に足りない。明日は森に行って林道の整備を兼ねて木を貰ってこよう。
「凄いですね。もうここまで出来たのですか?」
声を掛けて来たのはククク村のクダン村長だ。
「はい。材料が足りなので明日から数日はこちらの作業をお休みして、材料の調達をしてきます」
「そうですか。しかし、一週間でここまで開墾出来るとは、ノゾミ殿の魔法も噂以上ですね」
「噂ですか……? って、どんな噂が流れているんですか??」
どうやら俺が魔法を屈指して広大な土地を開墾して小さな村を開拓していると噂が広がっていたらしい。それを聞いた村長がサルサ村に出向いてお願いをしたという事だった。
小さな村と言うのはオーバーだが、あらかた間違いじゃない所にこの噂が恐ろしく感じてしまった。
いったいどこから出たのだろうか? 噂の出元が気になる……。
「今後の進行ですが、ここで作業される方の家を20軒ほど作る予定をしていますが、少ないですか」
「20軒ですか? 多くないですかね?」
「田畑を合わせて200町ですからね。単純に言って一軒に付き10町を管理するのは多分ですが、難しいと思いますよ。きっと人手が欲しくなりますよ」
まぁ、ここに住まなくても村の中心部からはそんなに遠くないので問題が無いのかも知れない。
それに数軒は増築出来るようにスペースも少し開けておくつもりだし……大丈夫かな??
それから村長とは細かい部分を打ち合わせした。と言っても俺からの一方的な報告に「そうですか。わかりました。助かります」を繰り返すだけの村長に、ちゃんと話が通じているのか心配になった。
特に、精霊様のお供えは忘れないでやって欲しい。機嫌を損ねたらお終いだからね。




