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第二十三話 ラベルさんの独り言

私はフルール・ラベル。メルテナ王国、陛下直属の諜報部に所属している。

任務は主に内紛を起こしている貴族の領地に潜り込み、内情を探るのが任務。


このサルサ村に派遣される直前は、第二王子殿下より報告が有ったマルマン商会の内定調査に着いていた。不正の物証は殿下が目視しているので間違いはないが物が、本物である以上、王宮内の誰かが関与している疑いが濃いという事で、その関係性を調べていた。


無事にマルマン商会とつながる貴族を見つけ出し不正も暴くことが出来た。これでまた一つ手柄を立てたことで、一歩昇進に近づいたと内心思っていた。まさか未開の辺鄙な村に派遣されるとは思ってもいなかった。その原因はこれまた殿下の一言にあったのだ。


「陛下。私の管理下に置かれましてもイーカン様の案件にも携わっており、目が届かぬ事がありますので、私の代理として信用が置ける者をサルサ村に常駐させることをお許しください。すでに人選も考えてあります」

「ふむ。よかろう。して、その者は誰だ」

「はい。此度の件の内偵に当たりましたフルール・ラベルを推したいと考えております。この者は私が一番信頼を置ける者でもございます」

「フルール・ラベルか。良い人選だな。国務大臣、早急に辞令をだし、サルサ村に派遣せよ」


確かに私と殿下は騎士学校で出会って以来の親友であったことは確かで、私も殿下を一番信頼している。何度も背中を預けながら難局を乗り越えてきたはずなのに、私は出世コースから外された。まさか殿下からこんな仕打ちをされるとは思いもしていなかったし、友情もこれまでと殿下を恨んだのも事実だ。


事件解決の翌日、私は部隊長に呼び出され辞令を受けた。


「辞令。フルール・ラベル。貴殿の此度の活躍見事なり。本日付けを以って、ここに2階級特進の少佐を命じる。また、勤務地はサルサ村特別保護区の常駐勤務とする。即刻勤務地に向かうように」


その後、詳細を記した書類に目を通したが、戦死者に送る殉職特進をされた気分だった。



サルサ村に着くと即座に村長に面会を求め、任務に就いての説明と、現地への案内をお願いした。

保護区に入ったとたん私は言葉を失った。そこには整然と広がる畑と道路。それに水路までもが整備されていたのだ。村長の話ではすべてノゾミとか言う開拓者が行ったものだとか。しかも、水路はこの先の畑にも延ばす予定で、現在その経路を策定中だとか。しばらく歩いていくと変わった畑が見えて来た。水田と言うらしく私も初めて見る物だった。


更に歩いていくと、集落が見えて来た。そこにノゾミという開拓者は居た。

昨日新しい入植者が入って来たので住居を建てていたらしいって、昨日の今日だぞ。こんな短時間に家を作れるはずがない。しかも住居3軒に集会所一棟を作っていただと。信じられなかった。

外見から判断しても一時凌ぎの掘っ立て小屋とは違い、立派な家だ。ここまで出来るノゾミと言う男に私は興味を抱きだした。


私を含め、新規入植者たちを出来たばかりの集会所に集め、特区での約束事や注意事項などの説明を受け解散となり、私はノゾミ殿の家に泊めてもらうべくお願いを申し出たら、即答で良い返事を貰たことに安心しながら移動することになったが、なぜだか他の者まで付いて来た。


ノゾミ殿の家でも更に驚いた。それが水車だ。横に流れている川から水を汲み上げ水路に流していたからだ。ここまで綿密に設計された開拓地は初めて目にした。また、この水車を利用した製粉所にも驚きを隠せなかった。石臼を水車の力で回していた。こんな水車の使い方が有ることを私は知らなかった。この国での水車はせいぜい麦の脱穀位にしか使ってなかったからだ。これは報告書に上げようと密かに考えていた。しかし、この特区は驚かされることばかりだ。陛下が私有地にして特区にしたことが分かって来た気がした。


翌朝、ノゾミ殿は日課だと言う聖霊さまへのお供えをしていた。そのお供えが消えた時には驚いた。

話には聞いていたが本当に消えるとは……聞くと目にするとでは大きな違いを改めて感じていた。

ノゾミ殿は森に入る直前でもお供えをして、森の中での安全を願いっていた。もちろんそこでも消えた。聖霊様が住まわれる村。まさにその通りとしか言えない出来事だった。


森に入ってもしっかりと整備された林道。大抵は雑多な感じなのだが、この森は綺麗だと感じた。見た感じでは薬草らしきものもかなり生えていた。そこでノゾミ殿に聞いてみたら「結果的に……」と言いながら笑っていた。


林道は海まで整備されていた。そこでも塩田だのサトウキビだのとこの国では革命的と言える開発がされていた。しかし、ノゾミ殿の思いは開拓では無く、この森と森に棲む動物達といかに融合しながら生きていくかという事だった。その話を熱く語るノゾミ殿。私は出世が大事としか考えず、自然に生かされているという発想は思いもしなかった。


殿下が良く言っていた。「王族は国民が豊かになるように苦心し、有事には守る。その為に民から税を集めている。王族たるもの威張るのでなく、慕われてこそ国が豊かになり繁栄していく」

私はここに来て殿下の言葉を思いだしていた。


あっ~~ この私としたことが何たる失態…… ワインに触れることを忘れていた! 


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