第二十一話 歓迎会と新酒のワイン
大人たちがバーベキューの準備をしている中、子供たちはミランダさん家のレイク君とレノンさん家のサム君を中心に温泉で遊んでいた。泳いだり潜ったりお湯を掛け合ったり……と楽しそうだった。
俺は事前に準備していたワイン用の瓶に丁寧に移し替えていた。雑な作業をすると、沈殿している澱が混ざってしまうからだ。今日の所は今飲む分だけ有れば良い。ひとまず20本分にしておいた。
みんなの所に戻ると準備も出来上がっていたようで,、聖霊様達にお供えをしたら、パーティーの開始だ。
「新しい仲間にメリゼさん一家、フロンさん一家、ゼノールさん一家とラベルさんが加わりました。そして、このようにワインも完成したことを祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「おぉ~ この香り。山葡萄の香りと木の香りが相まって素晴らしいです」
「色具合も。深みのある赤紫が光って見えますよ」
「味もなかなかです」
初めて自分たちで作ったワインの感想は平凡だが、それぞれに思いが込められていた。
「これを作られたんですか……?」ラベルさんが驚いていた。
そう、実はこの国でお酒類はエールしか造られておらず、他は帝国から輸入している。だから値段もそれなりして、庶民には高嶺の花だった。しかし、自国で出来るようになれば安く流通させることが出来る。殿下の言っていた「あの地にはこの国の未来がある」まさに片鱗を見せて貰った気がしていた。
「さぁ~ お肉も野菜も焼けたわよ~ たくさん食べて~」
この一声に子供たちが一斉に群がった。美味しいだのうめぇ~だの楽しそうだ。
「ココに来るまで着の身着のままで食べる物もロクに無かったから子供たちには可哀想な思いをさせました」とフロンさんが言った。その一言にここまで逃げてくるのにどれだけ大変だったか……
「フロンさん達には新しい土地で新しい生活が始まります。過去の嫌なことも時間が経てば笑い話です。これからは楽しいことが一杯ですよ。さぁ~ 食べましょう」
景気付けにもならないけど、この地で笑って暮らしてもらうと言う気持ちが言葉に出てていた。
匂いに誘われて森の住人達がやって来た。見慣れない人がたくさんいるからか、なかなか近くに寄ってこなかったから、「この人たちは新しい住人だから安心して良いからね。こっちに来て食べよう」
『あのね、僕ね。スライム族のラムちゃんっていうの。よろしくです』
ラムちゃんもご挨拶していた。
「あぁ~ 森の動物たちだ……」
「すっげぇ~」
「可愛い~~」
子供たちの方が反応が良い。
「仲良くしてね~」
「一緒に食べよう~」
警戒していた住人達も恐る恐るやって来たが、時間と共に警戒心も解けていた。
元々が同郷の友達という事もあり、再会を喜びあい、森も住人達とも仲良くなれたところでパーティーもお開きとなった。明日は残りのワインを瓶に移す作業だ。貯蔵の為に地下倉庫も準備してある。
今朝は昨日使った竈で大鍋の半分ほどの湯を沸かしていた。温度にすると60℃。これはワインの殺菌処理に使う。
みんなが集まったところで作業開始だ。樽から瓶の9分目までワインを注ぎコルクの栓をする。それから湯煎に掛けて15分。殺菌効果とアルコールが抜けないギリギリの温度と時間だ。自然に冷ますのも良いけど、今回は横の水路で急速に冷ますことにした。
出来上がったワインは1325本。用意した瓶が少量余った事にホッとした。
みんなが居る内にとワインの仕込み樽もキレイに洗って次回の仕込みに備える。
全部の作業を終えたのはもう直ぐ日が落ち掛けるという時間だった。
帰り間際に大人一人に付き2本のワインを渡し、俺は一本だけ取った。ラベルさんには王宮への献上をお願いすべく、別に100本を預けた。
残り1200本。これをどう流通させるか……200本は村の分で残すとしてもあと1000本。
王都なら高く売れる。しかしそれだと庶民には回らないだろう。これもラベルさんと相談しよう。
ラベルさんは献上用のワインを持って王宮に来ていた。
「ほぅ~ これがわが国で作られたワインか」
「はい。ノゾミ殿のお話しでは新酒故、味に深みは足りませんが、スッキリした薫りと味わいを楽しんで頂けたらと申しておりました」
「ふむ。早速頂くことにしよう」
陛下は初の自国産ワインを口にした。
「これは帝国の物にも負けてはおらぬ。いや、勝っておる。量はどれ程出来たのだ」
「はい。1300本と聞いており、その内100本を陛下に。200本をサルサ村内で。残りは1000本だそうです。これを庶民にどう回すかを考えておられるようです」
「庶民にか!」
「はい。帝国のワインは高価で庶民が手に出来るのは一部の豪商だけ。それゆえ、庶民にも楽しんでもらいとの思いが有るようでございます」
「そうか。具体的な方策は有るのか?」
「まだそこまでは……。しかしこれを更に熟成させて出荷するまでにまだ1年は掛かるとの事。それまでには何か方法を見つけるのではないかと思われます」
「そうか。一年は長いようで短いぞ。引き続き力になってやれ」
「御意」
と、こんな報告がされて居ることを俺が知ることは無かった。