第十六話 日本人とこの国の王族に会いました
王都の宿でリルが近くに居た犬と話をしている。俺はその犬の飼い主らしき人に声を掛けた。
「すいません。うちの従魔が」
「いえ、どうやら知り合いみたいですね」
『ノゾミ殿。こちらは吾輩の叔父でフェンリルの長。ポーチン様です』
「えっ、そうなの? ポーチン様。俺はノゾミと言います。リルにはお世話になっています」
「なに急に挨拶してるの?」
「いえ、そちらのポーチン様がうちのリルって言うんですが、叔父でフェンリルの長だと教えてくれたので……」
「じゃ~ この犬。じゃない。リルもフェンリルなの?」
俺たちはリルとポーチン様を介してお互いに自己紹介をした。
「俺はサルサ村に住むタカナシノゾミと言います」
「オレはオオサキケンモ。そして、仲間のリーザさんにセリナさん。それからポタンさんにプラムさん
。あっちがユウゴ君とリョウ君です。後は従魔達です。メルーサの街に住んでるんだ」
オオサキケンモ……もしかして日本人かも?
「ノゾミさんは日本人ですよね?」
「そうです」
「オレもだけどユウゴ君とリョウ君もだよ」
驚いている俺にケンモ君は部屋で話をしないかと誘ってくれた。リルも久しぶりに会う叔父さんと話もしたいだろうと思い、誘いの言葉を受けることにした。
まさかここで日本人に3人も会うとは思いもしなかった。まず、俺がサルサ村で作っている米と大豆と蕎麦の話をしたら、米と蕎麦に食いついて来て、ぜひ分けて欲しいと3人から懇願されたので、空間からこれでもかって量の米と蕎麦を出した。もちろん蕎麦は麺にしたものだけどね。
それをケンモ君は空間にしまった。たぶんチートで使えるんだろうと思ってたので驚きはしなかった。
話を聞くと米は少量しか手に入らずに、主にネットショッピングで買っていると言っていた。日本のゴミはどうするのか聞いたら、スライムのジャルラちゃんが食べてくれるとか。「オレもスライムが欲しい」って思わず口走っていた。
「ジャルラ。ジャルラの仲間をノゾミさんの所に派遣することできる?」
『あるじ~ 派遣ってなに?』
「派遣っていうのは、ノゾミさんの所に誰か行ってもらう事が出来るかってことだよ」
『ちょっと待ってて…… あるじ~ 行ってくれる子が居たよ』
「聞いてくれてありがとう」
どうやらスライムを紹介してくれると言う事で、この後メルーサの街に行くことになった。
「ジャルラちゃん。ありがとうね」
あっ、でもマルマン商会の件があるからうかつに出歩けなかった……
「すいません。せっかくの話だけど、俺と一緒にいると迷惑を掛けるので残念だけど……」
「どうかしたんですか?」
俺はドメールの街であった経緯と王都に店がない事に疑問を感じている事を話した。
「ちょっと待ってて。リョウ君、プラムさんを呼んで来てもらえる」
「はい」
少しするとさっき一緒に居たイケメンさんが入ってきた。
「この人はこの国の第二王子のプラムさんです。さっきの話をもっと詳しくは話してみて」
王子を紹介されて驚いたけど、プラ…王子殿下が話を促されたので、王室御用の鑑札を見せられて信用した所から尾行されて逃げてきた話を全て話した。
「私もその商会の名は聞いた事がありませんね。王室の名が出ている以上放置もできません。この件は調べてみますのでお任せください」
そう言うと殿下は王宮に行ってきますと言って部屋から出て行かれた。
「ねぇ~ いま鉱石の話が出てたけど、まだ持っている?」
聞いて来たのはリョウ君だった。聞くと鍛冶職らしい。だから手持ちの延べ板、ミスリルとオリハルコンを出した。
「すげぇ~~ なにこの純度。こんなの僕も持ってないよ。ねぇねぇ……もっと持ってる?? 持ってたなら譲ってほしいな」
鬼気迫るくらいの形相で鼻がくっ付くかって位まで迫られた。とにかく近すぎて怖いんですけど……
少し落ち着いてもらって、希望の量を分けると言うとオリハルコンは全量。ミスリルも50キロって、個人が扱える量じゃないでしょ…… それに扱いが難しい金属だと聞いた事がある。
「大丈夫だよ。僕はどんな鉱物でも加工が出来るんだ」
なんと鍛冶特A技師の資格をもっていると教えてもらった。スゴイ子だったんだと感心してしまった。
だけど、一つ問題が……。お金をそんなに持っていなかった。だからこれからも交流を持つということで後払いで良いと伝えたら抱き着かれてしまった。それくらい嬉しかったらしい。
これは後日談だけど、リョウ君が作ったオリハルコンの剣を王宮が買ってくれたからと1月もしないうちにギルド経由で支払いがされて、追加の鉱物が欲しいと手紙が届いた。
それからは日本での話に花が咲き、時間を忘れて話をしているところに女性陣が来て夕飯はどうするのかを聞いてきた。ケンモさんは料理人だったって事から、ここで蕎麦パーティーを開くことになった。俺は空間からそば粉と麺打ちセットを取り出して蕎麦打ち。ケンモ君も空間から材料と器材を取り出して蕎麦に合う物を作り始めた。