第十一話 ワイン作り➀
果実園の山ブドウがそろそろ収穫時期を迎えそうだ。個人的にはメルーサで売られていると聞いた
ミーソンが気になるが、今からメルーサに行こうとすると収穫を逃してしまうから後に廻すことにして、ワイン作りを優先することにした。
今日も聖霊様達にお供えをして一日の初めを祝う。いよいよブドウの収穫だ。ミランダ一家とレノン一家にもお手伝いをお願いしたら、ボルトンさんも来てくれた。
接ぎ木で増やした200本の木はどこまで育つか心配だったけど、立派に育ち実をたわわに付け、園一杯に甘い匂いを漂わせている。
深紫色に完熟するまで待った山ブドウは仄かな酸味と甘さが融合して芳醇な香りが口いっぱいに広がって、とても美味しい出来だった。これはワインも期待できそうだ。
山ブドウは低い木なので子供たちにも摘んでもらう事にした。摘んだそばから食べ始め、あちこちから「美味しい~」「あま~い」と子供たちの賑やかな声が聞こえ、思う存分楽しんでいるようだ。一通り食べて満足したのか。やっと大人達と一緒に摘み始めた。
摘んだブドウは一か所に集めてもらい、ミランダさんとサリーさんが軽い洗浄と選別をしている。
傷みかけたものや葉が混じるのを防ぐためだ。それから大きな桶に入れていく。かなりの量が取れていた。昼頃には摘み取りが終わり、洗浄と選別作業も終わったところで食事休憩を入れる。
「皆さんありがとうございます。お蔭で摘み取りが早く終わりました。お昼ごはんを用意してありますから食べてください」と朝早くから作ったサンドイッチを出した。具はトマトにレタスにキュウリ。これも畑で獲れたもの。鶏舎で獲ってきたタマゴに魔獣の肉から作ったベーコンが主だ。もちろんパンも自作だ。
「このお肉の干したやつ美味しいね」とミランダさんの長女マリリンが喜んでいた。
「それはベーコンって言うんだよ」と教えてあげた。
「ベーコン大好き」といつもは遠慮がちなマリリンがたくさん食べている姿が微笑ましかった。
お昼休憩が終わったところでこれからはブドウ潰しだ。ここでも子供たちの出番かな。
温泉で綺麗に体を洗い、俺が用意した水着を着させて、ヘアキャップとゴーグルを付けたら桶に入ってブドウを踏みつぶしてもらうのだ。
初めは足で一生懸命潰していたが、いつの間にかビニールプールの如く全身で遊び……潰しだした。果肉からジュースが溢れて来て足元も不安定になって来て転んでしまった事が合図になった。1人が2人と飛び火して桶の中では笑い声が絶えなかった。
そのうち疲れて来たのか、だんだん静かになっていき動きも鈍くなって来たところで子供たちは退場だ。全力で遊んで……お手伝いをしてくれてありがとう。
さいど子供たちを温泉に入れたら、お昼寝タイムに入ったようだ。
潰し作業が終わったらココからは樽詰め。果肉や皮ごと樽に詰めて行き発酵をさせる。これには10日~20日位掛かるから納屋に入れて今日の作業は終わりだ。
「今日はありがとうございました。まだまだ完成にはかなり時間が掛かりますが、出来たらみんなで飲みましょう」
「楽しみだな」
「オレもワインは飲んだことがねぇんだ。なんせたけぇからな」
「いつ頃出来るんだ?」
「そうですね。発酵してから濾して熟成期間を設けるから……早くて半年位かな」
「そんなにかかるのか……」
「楽しみは先がいいさ」
「それもそうだな」
ランダムさんもレノンさんも待ち遠しいようだ。もちろん俺も楽しみだ
子供たちがまだ寝ていて、起こすのも可哀想だからと夕飯も皆で食べることにした。
石でかまどを作り薪で火を起こし鉄板を乗せたらバーベキューの準備が整う。
鉄板は鉱山で獲れた鉄を加工したものだ。でも鉱山の話は皆には内緒にしてある。
肉はリルと森の住人達が獲ってくれた獲物をボルトンとレノンさんが捌いて、サリーさんが畑から野菜を取ってくる。ランダムさんに火の番をお願いして俺は川に仕掛けた網を見に行く。
この川には鮎やイワナなど清流に住む魚が獲れる。網には鮎とサツキマスが掛かっていた。
準備が出来たところでミランダさんが子供たちを連れてきた。
「あぁ~なにこれ」
「ここでご飯たべるの?」
「そうだよ」
ここでも子供たちは大騒ぎだ。
今日の収穫とワインの仕込みが無事に終わった事を感謝するため、一番初めに焼けた肉や野菜を聖霊様達に捧げる。
『これ美味しい』『ノゾミ~ もっと頂戴』と聖霊様の声が聞こえてきた。
みんなでワイワイとバーベキューを楽しんでいると森の住人達もやって来た。
「リル。どこに行ったの? レッドも肉ありがとうな」
『我らは森の巡視だ。このところ魔獣が増えておるからな』
「そうなのか? 俺たちも狩りに入ろうか?」
『今は我等だけでなんとかなっておる。手に負えなくなって来たら頼む』
「いつでも言ってくれ。ほら、みんなもこっちに来て食べな」
『いつもすまんな』
「リル達が獲ってくれた肉だ。堂々と食えばいいのさ」
俺はいくつものお皿に取り分けると下に置いてやると、リルの一声でみんなが来て食べ始めた。
もちろん聖霊様達にもどんどん供えて行った。