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サクラメント  作者: 九条ヤヤ
第一章
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7頁目 「盾持ち」

スフイドの精霊剣術式が《パーティングソウル》の盾に刻まれ、火花が散る。

先ほどからこれの繰り返しだ。

複数人で精霊剣術式を繰り出して攻撃してるというのにヤツの持つ盾と曲刀に全て塞がれ、刃は全然届かない。


フェルトと別れてから10分以上経過しただろうか。


あれから事態はちっとも好転していない。

それもそうだ。

本当ならソレイユエレメント兵団の大部隊を率いてやっと互角に戦えるかというぐらいの相手に、その3分の1にも満たない人数で戦っているのだから。


スフイドは距離を取るため大きく後ろに下がった。

剣先を地面に置き、呼吸を整える。


「…やぁぁああっ!」

地面を蹴り急接近した後、瞬時に青い光に包まれた両手剣を後方に構え一気に身を捻る。

そのまま右へ強烈ななぎ払い、その勢いに任せ刃を叩きつけながらもう一回転。

そして左下から右上へと回転の遠心力の力を使って一気に切り上げる。

ガンガンガンッ!と連続して鈍い金属音が鳴り響く。

精霊剣術式三連撃技、《ストリーム》。


しかしそれも全て盾に阻まれ刃が届く事はなかった。

パーティングが盾を振り払い曲刀を真上に掲げる。


スフイドは無理やり足を動かしその場から飛び、間一髪で攻撃を避けた。


曲刀が叩きつけられ激しく土煙が舞う。


スフイドは冷や汗をかくと同時に、兵団で説明を受けたパーティングソウルの事について思い出していた。



『パーティングソウルはそれぞれ固有の能力を持っている』



講座で最初に先輩が発した言葉がそれだった。

《ストロングソウル》が人間に敗れ、その魂を四散させた際にストロングソウルはそれぞれの魂、《パーティングソウル》に自分が元から持っていた7つの能力を一つづつ引き継がせた。


渡された兵団の資料には過去に兵士たちが戦った経験から書かれた、それぞれ姿が異なるパーティングソウル達の特徴や推測される能力(もちろん討伐済みのパーティングソウルの能力は把握されている)が記載されていた。


今回の相手、兵団には『盾持ち』と呼称されているこいつも何かしらの能力を持っているハズだ。


過去にこいつと遭遇した時は逃亡を許してしまったが、今回こそは能力を突き止めてみせる!


スフイドはパーティングソウル-《盾持ち》-と相手をしながら仲間とコミュニケーションをとる。


「どうだ?これまでの戦闘で何かわかった事はあるか?!」


《盾持ち》の能力は兵団の資料には『詳細不明。盾に阻まれ攻撃を与える事は困難を極める。』とだけ載っていた。


「…ダメです。やつの攻略法がさっぱり分かりません…」


そこへ治療を完了し戻ってきた槍を装備した兵士が答える。


「スフイドさんがここに来る前からヤツの身体に攻撃を当てた者はいません。殆どあの盾に塞がれてしまいます…」


「そうか…」


パーティングソウルを睨みつけ

「…持っている盾を精霊剣術式で破壊するしかなさそうだ。前衛に攻撃を盾に集中するように指示を出す。君たちはヤツの気を引いてくれ。」


スフイドはそう言うと《盾持ち》に向かって走り出す。


「アイツ、攻撃を盾で防ぐ時と曲刀で防ぐ時があります。曲刀で防がれた時は反撃に気をつけてください!」

後ろから槍持ち兵士がそう叫ぶ。


盾を破壊するには少し強引だが威力の高い精霊剣術式を盾に叩き続けるしかない。

そのために斧槍や俺と同じように両手剣を持つ兵士を集めなければ…


目線の先では片手剣兵士の精霊剣術式を曲刀で弾いている《盾持ち》の姿があった。


やつの攻撃を塞いでくる曲刀も攻め続ければ破壊する事ができるだろうか…


…!!


スフイドはそこで先程の槍持ち兵士の忠告を思い出す。


攻撃を曲刀で防ぐ…

思い返してみれば、《盾持ち》の盾を持っていない方の手に精霊剣術式を繰り出した際、それぞれ異なる技の軌道の先に、ヤツはいつも曲刀を構えていた…



まさか…!



スフイドは進路を《盾持ち》の曲刀を持つ手の方に変更すると、両手剣を後方に構え突進する。


「離れろ!」


攻撃が弾かれた片手剣兵士にそう叫ぶと俺は極限まで身を捻り、助走の勢いも上乗せして精霊剣術式三連撃技、《ストリーム》を放った。


先程も使用したこの精霊剣術式は、自身が回転しながら中段、下段、上段と異なる部位に刃を叩き込み、相手のバランスを大きく崩す技だ。

これまでの経験でも、この精霊剣術式の攻撃に突然対処できた者はいない。

だが、俺の推測が正しければ…


青い光の帯を引きながら、その刀身が《盾持ち》の腕に迫る。


その瞬間


《盾持ち》はその場で的確に、曲刀の角度を変えて最初の一撃を受け止めた。


「う…らぁっ!」


俺はそのまま二連、三連と精霊剣術式を腕に目掛けて叩き込んだ。

が、それも全てちゃんと真っ正面から受け止めるように、角度を変えた《盾持ち》の曲刀によって阻まれた。


「(それなら…っ!)」


スフイドは身をひるがえし、精霊剣術式四連撃技、《バグラー・バン》を発動させた。

袈裟斬りをした後右に払うが、どちらも先と同じように弾かれる。


そして三連撃目の刀身を殴打する攻撃で、《盾持ち》はしっかりと両手剣を曲刀で受け止めると、強制的に精霊剣術式を打ち消した。


殴打をした格好で静止するスフイド。


その体勢のまま、《盾持ち》の顔面を睨みつけ、そのバイザーの隙間から輝く赤い瞳と目が合う。


「(間違いない、こいつは、こいつの能力は…)」


そして、確信する。


「(一度俺たちが使用した、精霊剣術式の技を判断し、完全に軌道を理解している…!)」




※※※※※※※※※※※※※※※※



大きな歯形がつき、血がダラダラと流れる足に向けて手のひらを向け傷口が塞がる様子を想像しながら祈る。

すると、まるで傷なんて無かったかのように足の皮膚は元どおりになり、流れていた血もそこで止まった。


「ありがとう、助かった!」


アイリス城壁都市の衛兵は傷が治った足に装備をつけ、前線に戻る。

その後ろ姿を見送りながらフェルトは立ち上がり「ふぅ…」と白い息を吐いた。


「(衛兵さん達はすごいなぁ…あんなモンスター相手に立ち向かえるなんて…)」


次に自分が出来ることを探そうと踏み出した途端、足がもつれてつい転びそうになる。


…やはりいくら自然界に漂う精霊の力を【精霊術式】で借りるとはいえ、使い過ぎるとどこか疲労感を感じる。精霊剣術式を使った時もそうだ。

昔、学校で精霊や精霊術式について習ったけど、どうも目に見えないモノを扱うというのは実感が湧かない。


…喉が渇いた…


「二匹抜けた!そっちに向かってるぞ!」


衛兵さんの声でハッと気づく。

今は、集中しないといけない。


幸いこちらに向かってきているのは過去に相手をした事のあるモンスター、《ヴォルグ》だ。


このモンスターは助走をつけて攻撃する際、初めに飛び上がる癖がある。

あとはそれを打ち落とすように精霊剣術式や斬撃を喰らわせれば素人でも倒せる。


フェルトは抜剣し、刃を左に水平に構え、内で祈る。

精霊がその刀身をやさしい黄色の輝きで染めていく。


先頭の《ヴォルグ》が急接近し、大きく飛び上がった瞬間


「やぁぁぁぁっ!」


フェルトは掛け声と同時に精霊剣術式単発技、《エザラント》を放った。


うまく命中しヴォルグは灰となって消えて行く。


「(よし!もう一匹…)」


その途端、フラっ…っと力が抜け、フェルトは地面に倒れ込んでしまった。

膝がガクガクしていてうまく立ち上がる事ができない。


「(…っ!足に力が入らない…!)」


原因はすぐに分かった。

精霊剣術式と治療で使った精霊術式によって溜まった疲労がここに来て限界に達したのだ。

凍てつくような気温の影響もあってか、手も小さく震えている。


「グルァァァァ!」


もう一匹の《ヴォルグ》が牙を剥き出しにして前方から大きく飛び上がった。


咄嗟に落下地点に剣先が来るように、剣を持ち上げようとするが

「(駄目…間に合わない!)」


身体に襲いかかってくる衝撃を覚悟した、その時


ドスッッ!っと音を立ててヴォルグの額に一本の矢が突き刺さった。

宙に浮いていたヴォルグはその場で落下し、フェルトの目の前で灰になった。


「(病院の方向から!?)」


バッ!と振り向き確認する。

現在位置から約20メートル後方、一階のフロント前の入り口に“彼”は居た。


黒い短髪の少し細い鼻にゆるやかだがどこか鋭い瞳を持つ、フェルトと同い年ぐらいの青年。

病院の患者衣を着ており、手には大きな弓を持っていた。

片方の足には包帯が巻かれており、足元には松葉杖らしきものが転がっていた。


私は、彼を知っている。


「レイ…」


名前を呟くと同時に、遠くから地響きのような音が耳に届いてきた。


次の瞬間、衛兵たちが歓声を起こした。


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