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サクラメント  作者: 九条ヤヤ
第一章
7/8

6頁目 「別れた魂」

今から約80年前。


精霊剣術式を持った人類と、この世界を創造した神『ストロングソウル』との戦いで人類が勝利し、神は「私を全て倒しその証を示す事ができたら、災いを消す力を与えよう。」と言い放ち、その魂を7つに四散させた。


分離した魂は世界のあちこちで活動を再開し、人類にモンスターが現れた時以上の災いを与えた。

その分離した魂、それが《パーティングソウル》である。


〈ストロングソウル〉がモンスターを生み出したように、〈パーティングソウル〉もモンスターを生み出す事が可能であり、〈ストロングソウル〉討伐前よりも世界にさらなる被害をもたらした...


フェルトはそういう知識を持っていても実際にその姿を見たことはなかった。

なんせほぼ神出鬼没の敵をスケッチする時間もないし、何より姿を紙に写す余裕が無いからだ。

唯一、姿が描写されているストロングソウルも100年以上前の古い壁画しかない。


だからフェルトがそこで初めてパーティングソウルの姿を見た時、最初に感じたのは


...興奮だった。


しかし、すぐにその感情が間違いだった事に気づく。


なぜなら“それ”に上がってる声が感嘆ではなく悲鳴だったからだ。



場所はアイリス城壁都市、中央病院前。


そこに着いた時にはすでに戦闘が始まっていた。

自分達から見て左側の病院にはアイリス城壁都市の衛兵達。

そして視界の右側にいる、ソレイユエレメント兵団の兵士と対峙しているのは、身長が約5メートル程の灰色の鉄防具らしきもを身にまとった人型の生物だった。


左手には巨大な盾。おそらく木製だろう。

そして右手にはスフイドの全長と同じぐらいの大きな曲刀を装備していた。

あのサイズとなるともはや曲刀ではなく大剣である。


顔は甲冑の兜の様なモノを頭に被っており、バイザーに阻まれ表情は確認できない。


スフイドはその姿を確認した瞬間、両手剣を抜剣しそいつの懐に飛び出していた。


別のソレイユの兵士に振られようとしていた巨大な曲刀を寸のところで弾き、軌道を逸らす。


曲刀が地面を穿ち、派手な土煙をあげる。

スフイドはそのまま兵士の襟首を掴み後ろへ大きく下がった。


「大丈夫か?」

兵士に声をかけるスフイド。


彼はスフイドの顔を確認すると

「スフイドさん...!援軍が来たんですね!」


「いや、残念だが俺だけだ。本部に連絡は?」


「仲間が早馬で向かっています!」


スフイドはそうか、と呟いた。

彼の額から汗が滴り落ちる。


「(少なくとも本部からここまで早くても30分はかかる...)」


一つの城壁の兵団支部にいる兵士の数は約40人程度。

その全員がここに集結している訳ではなく、それぞれの役目を果たすために都市内に散っている事だろう。


「俺が前に出る。お前らは援護を頼む!」

スフイドは兵士にそう叫ぶと地面を蹴り、前へ飛び出した。


直後にスフイドの精霊剣術式、《ウインドミル》がパーティングソウルに弾かれる音が二回響く。


後ろから別の兵士が飛び出し精霊剣術式を叩き込むが巨大な盾で防がれる。

その間に左に回り込み、先程と同じ精霊剣術式を繰り出したスフイドの攻撃も、パーティングソウルの右手にもつ曲刀で難無く弾かれる。


「?!」


刹那、パーティングが切り上げを放ち、寸の所で防御したスフイドは10メートル以上宙を舞った。


「がはッ?!」

地面に叩きつけられ、強制的に肺から空気が出される。

もう一人の兵士も盾で殴り飛ばされ建物の壁に全身を強く打ち脱力する。


「(畜生...本当にここの戦力だけで援軍まで保つのか...?!)」


そうパーティングソウルを睨みつけるスフイドを柔らかい光が包みこんだ。

フェルトの精霊術式による治療だ。


「フェルト?!避難したんじゃないのか?!」


「私にも応急処置ぐらいできます!協力させてください!」


「ダメだ!さっきのを見ただろう?!ヤツは危険すぎる!」


「でも...」


その時、病院の方から悲鳴が上がった。

振り返るとヴォルグなどのモンスターの群れが病院の入り口前で衛兵数人と対峙しているのが見えた。


おそらく城門を守る者が居なくなったために都市内に入ってきたのだろう。中にはここへ来る前に戦った〈ウルスリ〉や別のモンスターの姿もある。


スフイドはフェルトに顔を向けると

「さっき応急処置ぐらいはできるって言ったよな?!中央病院に負傷した人が大勢運ばれて来ている筈だ。そっちの方を手伝ってやれ」

立ち上がり、再びヤツに向かって飛び出し


「こっちには来るんじゃないぞ!」


そう叫ぶと精霊剣術式 《バグラー・バン》をパーティングに叩きつけた。


返事をする暇もなかった。

彼は市民を守る為、自分の使命を果たしに行ったのだ。

いや、市民や自分の家族を脅かす根源を潰しに彼は圧倒的力を持つパーティングソウルに向かって飛び出した。


知識や経験の差はあるが私にもこの状況の中でも何か出来るはずだ。

…なら私は、私に出来ることをしよう。


フェルトはパーティングソウルに背を向け病院へと走り出した。



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