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サクラメント  作者: 九条ヤヤ
第一章
5/8

4頁目 「路次」

「天暦659年 4月23日


こんにちはメアリー。

昨日は日記書けなくてごめんね。

アイリス城壁都市に行く途中でモンスターに襲われちゃって結局辿り着けなかったの...

でもスフイドさんっていうソレイユの兵士さんが助けてくれたの!

命を助けてもらったから何か今度恩返ししないとね。

じゃあまたあとで、メアリー。

今日も良い一日でありますように。」









朝日が木々の隙間から溢れ森の中を少しずつ照らして行く。

鳥たちがさえずり、一日の始まりを告げる。

そんな中、スフイドという名の男兵士はただ一人首を傾げていた。

何故なら就寝時に横にいた彼女、フェルトの姿が見えないからである。


「(荷物と寝袋はあるが、自分が持ってきた鍋と食器が無くなってる...)」


過去にも寝ている間に金品を奪うという事件が野宿をする旅人達の間で多発した事があるらしい、が

「(それにしては盗る物が貧弱過ぎるだろ...)」


しかしまだそうと決まったわけではない。

スフイドはとりあえず顔を洗う事にした。

昨日のキノコ探しでここの近辺に川が流れているのを発見したのだ。


川に行くためだけにちょっと離れたスキに別の輩に物を盗られてはたまらない。なかには兵団の備品だってある、が


「...別に大丈夫か。」


フェルトの荷物を念のため自分の荷物に寄せて置き、最低限の貴重品と長く使っている両手剣を持つと、川のある方角へ歩き始める。







「ふぅ...」

一方、フェルトはその件の川の浅瀬で自分の身体をタオルで拭いて身を清めていた。

身につけているのは下着一枚。着替えは先程洗った食器と共に河原に置いてある。

「それにしても綺麗な水ね。まるで水晶みたいだわ」

両手で水をすくい、顔を洗う。寝ぼけていた意識が段々と覚醒していく。









...水音がする。スフイドは背負っている両手剣の柄に手をかけた。

この音は水が自然を流れる音ではない、だからといってそこに居る奴が人間とは限らない。

相手にバレないようスフイドは木々を転々としながら音のする所へ近付いていく。これはもし相手がモンスターだった際に先手をとる作戦でもある。

そうしているうちに対象との距離は約5メートルを切っていた。

人だったら交渉、モンスターだったら斬る!


スフイドは木から飛び出し

「動くな!」

剣先を向け、対象を確認する。


バッ!とこちらを振り向いたその顔は昨日森の中で出会った少女、フェルト。

その白っぽい肌が露わになっておりその手は胸部に...


「うわっ!」

「キャアアアア!!」

フェルトの周辺に落ちていた石がストレートでスフイドの腹にめり込む!

鎧を装着していなかった彼は膝をつき、そのまま崩れるように大地へ倒れ込んだ。





その後、目が覚めたスフイドを待っていたのは頬を膨らました彼女とその日の朝食作りだった。


「本当にすまない…」


スフイドは朝食(ハムとサラダを挟んだサンドイッチと水)をフェルト(着替え済)に渡し、頭を下げた。下げまくった。


「...はぁ、もう過ぎた事だからいいですけど次はソレイユに通報しますからね」


「そ、それだけは、ご勘弁を...」


「...冗談ですよ。でも次はありませんからね」


彼女はサンドイッチを口にし美味しいと声を漏らす。

スフイドも同じくサンドイッチを頬張りながら本日の予定を頭の中で描く。


「フェルト、お前さんこの後どこへ行く予定だ?」


「あ、はい。アイリス城壁都市に行く予定です」


「そうか...ちょうど俺もそっちの方に用があるんだが、そこまで一緒に行かないか?」


フェルトはそこで食事をする手を止め、考える。

ここからアイリス城壁都市までに行く間に昨晩の様なモンスターの襲撃に遭うという可能性はゼロではない。ましてやフェルトの持つ精霊剣術式は一種類しかないのだ。次ああいう事態が起こったら命はもうないだろう。


ここはプロであるソレイユの兵士と一緒に行動するのが得策だ。


「...じゃあ、お願いしますスフイドさん」


「分かった。じゃああと10分ぐらいで出発しようか。」

行動は早い方がいい。フェルトは水を喉に流し込んだ。




アイリス城壁都市

そこは全部で12個存在している城壁都市の中で最も医療が発達している都市だ。

この世の中、精霊術式だけが医療の全てを担っている訳ではなく、相性が合わない、使用できないという人も存在する。

しかし、アイリス城壁都市は精霊術式だけでなく、常人でも使える薬や医療技術を提供し精霊剣術式同様、後世へ伝承している。


フェルト達は現在そこへ向かう為に森の中にある道を進んでいる。

しかしずっと無言でいる...というのももどかしく、フェルトは彼に話を振った。

「スフイドさんはどうして、ソレイユエレメントに入ったんですか?」


「ん?あぁ、それはな。家族を守る為だ。」


「家族を、ですか?」


「そうだ。俺には嫁と息子が居るが、二人が何も不自由なく暮らせる世の中にしたいと思ってな。その為には分離した〈ストロングソウル〉の魂…ソレイユは《パーティングソウル》と呼んでる。それを消さなきゃいけないと思ったんだ。」


「パーティングソウル...」


「そう。ストロングソウルが生み出したパーティングソウルは7体いる。そのうち倒したのが3体だ。世間ではパーティングソウルの事を“福音”と言っているが、正確にはパーティングソウルを倒した時にやつが落とす、証拠の事を“福音”と言うんだ。」


「はぁ...」


「それを全て集める事がソレイユの目標だ。パーティングソウルはそれぞれ違う能力を持っており今までの戦闘でも何人犠牲が出たか...」


そこでハッと我に返り


「つい喋り過ぎたな...すまない」


「い、いえ!気にしないでください!それよりアイリスまであとどれくらいですか?」


「そうだな、あと...」

スフイドが答えようとした時、向こうから何かが走ってきて正面で止まった。

その正体はフサフサしてそうな黒い毛と鋭い爪を持つ、熊を連想させるモンスターだ。

名前を《ウルスリ》という。


「おっと、話は後だ。フェルト、バックアップよろしく。」

「は、はい!」


兵士でないただの道具屋のフェルトがどうバックアップすればいいか分からなかったが、ひとまず剣を抜き身体の正中線に構える。

そこでフェルトはある事に気づいた。


「(あのウルスリ...怯えている...?)」


二本足で立てば3メートルほどの高さにもなるあのモンスターが怯えるなんて、信じられない。

ウルスリはこちらを睨み唸っているが、それでもその中に何かしらの恐怖を感じる。

あのモンスターは何に怯えているの...?


「せぁぁあっ!」

そんな事を伝える間も無くスフイドはウルスリに突撃していく。

そして精霊剣術式を使い、斬り捨てた。

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