3頁目 「出会い」
日が沈みすっかり暗くなった森の中。
その中に生まれた小さな明かりを二人の人間が取り囲んでいた。
一人は先程の戦闘で疲弊した道具屋を営む少女フェルト。
そしてもう一人は身長170cmぐらいの鋼の鎧を身にまとう、見た目20歳過ぎの男だ。
男は精霊術式を使用し彼女の負傷した足を癒す。傷が消え、痛みが引いた頃、彼女は口を開いた。
「ありがとうございます...助かりました...」
「いや、どうという事はないよ。休暇中に立ち寄った森の中で君がヴォルグに襲われてたのを見つけたからね。間に合って良かった。」
「私フェルトって言います。あの、お名前は...」
「あぁ、スフイド。スフイド・ブラムって言う。見ての通りただの兵士だ。」
「兵士...」
彼の鎧の左胸に描かれているエンブレム、それは兵団の兵士である証だ。
その名を『ソレイユエレメント兵団』
通称、《ソレイユ》
対ストロングソウル用に結成された、この世界のモンスターに対抗する唯一の組織だ。
また、この世界の治安管理も行なっており何かしらの事件が発生した際も彼らが動く事となる。
盾とその中に描かれている太陽と沢山の花を象徴したエンブレムは、花々を十二もある各城壁都市に見立てており〈市民の安全を守護する〉という意味を持つ。
精霊剣術式を日々使いこなす兵士。
事実、先程の〈ヴォルグ〉との戦闘でスフイドが圧倒的だった訳にも納得がいく。
「ところで何故フェルトはこんな所に?」
「あっ、隣町にいる友人に会いに...お見舞いに行こうと...」
「うーん、隣町ってアイリス城壁都市だろ?今から行こうとしても恐らく城門が閉まってるだろうな...」
「はぁ...もっと速く街を出ていれば良かったなぁ...」
フェルトは深いため息をつく。
「とりあえず、今日は城壁都市には入れないし時間ももう遅い。今夜は野宿にしよう。」
城壁都市の城門前にある、門が閉まって外に残された人用に設置されているセーフハウスというのもあるが、流石にここからは遠いのでフェルトは彼の言葉に賛成する事にした。
「(でも、さっき知り合った男性と一緒に野宿なんて...)」
何かしらされるのではないかと不安に思っているとスフイドはフェルトの心情を読み取ったのか
「大丈夫だ。俺には妻と子供がいる。女を襲うなんて馬鹿な事はしないさ。」
そう背負っていた鞄から一枚の写真を取り出す。
そこには妻らしき金髪の女性と男の子、そして鎧姿じゃないスフイドが写っていた。
「とりあえず飯にしよう。君も俺も体力を回復しないとな。」
そうスフイドは小さな鍋を取り出すと目の前で焚いている火にかけた。
焚き木を追加し火力を少し高める。
ヴォルグは火が苦手だ。なので、この場にもしそいつが現れたとしても近づく事ができないだろう。
スフイドは鍋に水筒の水とあらかじめ切って保存しておいたのであろう野菜、そしてトマトの缶詰を取り出し中身を鍋に投入した。
「これはオマケだ」
一口サイズにちぎった干し肉を入れ、木製の杓子で回しながら煮込む。
「そういえばスフイドさんはどうしてこんな森の中に...?」
「あぁ、この森に生えているっていうあるキノコを取りに来たんだ。食材にも薬にもなるらしい。けど全然見つからなくてな...彷徨ってる内に日が暮れて、その後は先の通りだ」
「成る程...」
フェルトが納得している中、彼は鍋の様子を確認し頷くと器にスープを注いだ。
「ほら、完成だ。料理下手だからあまり味は期待しないでくれよ。」
木製の器とスプーンを受け取り、礼を言った後スープを啜る。
トマトの濃い味が口に広がる。
「...!美味しい...」
「そうか、それは良かった。」
彼は微笑み自分の器にスープを注ぎそれを口に運ぶ。
その後、二人は黙々とスープが無くなるまでスプーンを動かす作業を続けた。
「ふぅ...食ったなぁ」
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「いや、こちらも助かったよ。たまに多く作りすぎて残してしまう事があるから」
食器をスフイドに返して(明日鍋と一緒に洗うらしい)二人は就寝の準備を始める。
スフイドはハンモック、フェルトは寝袋を用意しそれぞれ横になる。
ただし敵に襲われた時に対処出来るよう剣は手に持ったままだ。
「おっと、いかんいかん」
スフイドはハンモックから降り、焚き火に土をかけ火を消す。
光が消え、辺りが一気に闇に包まれる。
「おやすみ、フェルト」
「おやすみなさい、スフイドさん」
ハンモックがギ...と軋む音、布がガサ...と擦れる音
そして静寂が訪れた。