2頁目 「出発」
結構時間がかかってしまった。
それはもう、家を出た時真上にあった太陽がもう沈みかけてる情景がそれを物語っていた。
がら空きかと思っていた城門が今日に限って何故か行商人の往来が多く長い行列が出来ていた。
始めはそこに並び続けていたが、お昼があの「串巻き」だけで足りるわけがなく追加で購入しようと列を離れたのがいけなかった。
結局12時に家を出て城門を潜ったのは3時ごろ。
隣町までは徒歩で3時間以上かかる。
前に伸びる道を歩く度に背負っているバックパックが揺れて音がなる。
道を進むにつれてレンガで舗装された道が段々と芝に覆われた道に変わっていく。
「段々暗くなってきた...急がなきゃ。」
やがて森の中へ入った。
風が吹き、木々が大きくざわめく。
一人というのもあり、段々と不安になってきた。
周りへの警戒を怠らず、歩く速度を上げる。
ここは城壁の外。当然モンスター達の縄張りの中であり、どこから襲ってくるか分からない。
それ以外にも盗賊などの脅威があるが流石にそれはないだろう。そうだと信じたい。
そして、日がすっかり沈みフェルトがバックパックから道を照らすためランプを取り出したその時
「グルアアァ!!」
突然、黒い塊が茂みから牙をむいて飛び出してきた。
「わっ!」
咄嗟に手に持つランプで牙を防ぐが相手の飛び出してきた勢いもあって尻餅をつく。
「このっ...!離れなさいよ!」
ランプをそいつと共に横へ流し、振り向きつつ腰の剣を抜剣。
硬質な音と共にその刀身が露わになる。
「グルルル...」
『ヴォルグ』と呼ばれる黒い毛を持つモンスターは唸りながらこちらを睨みつける。
ぱっと見たとき狼と見分けがつかない姿をしているが、その凶暴さは他の生物とは比べ物にならない。
その赤く輝く目を睨みつける私の後ろにもう二匹、茂みから現れる。
3対1。不利なのはこちらだけど...
私には、精霊剣術式がある!
「やあああっ!」
正面のウォルグへ剣を横に構え踏み込む。その刃をやさしい黄色の光が包みこむ
「グルァァァ!!」
そして飛び上がったヴォルグに向かって構えていた剣を一閃
精霊剣術式単発技、《エザラント》
腹を斬り裂かれたヴォルグはドサリと落ちるとその体を灰へと変えた。
後ろから攻めてきた一匹には袈裟斬りで相手をする。上手く急所に入りヴォルグは悲鳴をあげ灰になった。
残りの一匹へ垂直斬りを喰らわそうと剣を振り上げた時、ヴォルグはこれまではとは違う雄叫びをあげた。
が、それでも構わず降り下ろし最後の一匹にトドメをさす。
ふぅ…と、一息ついて鞘へ剣を納めようとした時、小さく草を擦るような音が耳に入ってきた。
少しずつ大きくなってきている。
この音は...
何かが近づいてきている音だ!
そう気づいた時には遅かった。
茂みから新たなヴォルグが数体飛び出し、再び剣を構えた時にはそいつは牙を曝け出していた。
何とか一匹の攻撃を塞ぎ《エザラント》を叩き込む。
しかし他のヴォルグから背面に飛びかかられ、フェルトはバランスを崩す。
間違いない、先程トドメをさした奴が仲間を呼んだのだ。
どこか違う雄叫びを叫んだのはそういう事か。
急いで体制を立て直すと背面の一匹へ向かって垂直斬り。
精霊剣術式ほどでは無いが結構なダメージが入った。負傷したヴォルグが後ろへ下がると同時に新たな一匹が前方へ出る。
そいつへ《エザラント》で斬り込むとまたその背後のヴォルグが入れ替わり、飛びかかる。
「(こいつら、連携がとれてる...!?)」
こういう相手は精霊剣術式を使って一気に倒したいが同じ技を連続して使う事は出来ない。
しかもフェルトが習得している精霊剣術式は《エザラント》だけなのだ。
「このっ!このっ...!」
剣を振るうが殆どが空を切る。
その隙を突かれて反撃され、段々とスタミナが減らされていく。
一匹、二匹、三匹、五匹、八匹...心なしか数も増えている気がする。
途端、群れの中から一匹が飛び出し私の脚に噛み付いた。
「痛っ!何するのよ!」
剣を突き立てそいつの命を止める。
流石に身の危険を感じそこから逃げ出そうとするが
「痛っ!」
傷が思いのほか深く転倒してしまった。血もダラダラと出ている。
「グルルルルルル...」
ヴォルグの群れが迫ってくる。
死を覚悟して目を瞑ったその時
ザンッ!!と風を斬る音がした。
......何が起こったのだろう?
恐る恐るフェルトが目を開けるとそこには紅い光がヴォルグ達を殲滅している光景があった。
紅い光、もしや新たなモンスター...?
いや、あれは精霊剣術式の放つ光...!
姿を確認すると鋼の鎧に身を包んだ男がヴォルグに端から斬り込んでいた。
刀身から放つ光幅はフェルトの使う片手直剣よりも一回り大きい、恐らく両手剣だろう。
その両手剣から放たれる様々な精霊剣術式がヴォルグをだんだん消し去っていく。
灰が宙を舞い、次第にヴォルグの姿が見えなくなってきた。
…そして全てのヴォルグがいなくなり、男が両手剣を背中の鞘に納めた。
唐突な出来事に放心状態になっていたフェルトにその男は
「大丈夫か?」
そう話しかけ手を伸ばす。
彼女はただ頷きその手を取る事しか出来なかった。