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春休み

誕生日


誕生日は、七歳を迎えないと盛大に祝ってはいけないという掟がある。

ただし、

誕生祭(生まれたことを報告し、祝うこと)

世の子(一歳になったことを祝うこと)

魂の子(二歳になったことを祝うこと)

は認めている。


諸説色々あるがはっきりしてない。

 暖かい春風がレースのカーテンを揺らしながら開け放った窓から入ってくる。

 それは、窓辺に腰掛けたディミータの髪をなびかせる。膝をたて頬杖をつくディミータは、ため息をつく。


(暇だな…………)


 最初の三日間は、久しぶりに両親に会えたり、新しく入った宝物庫の珍しいものを見たりと楽しかった。

 しかし、四日目にはやりたいことを全てやり尽くしてしまった。


(つまんないの。父上も母上も会議だから仕方がないんだけど…………)


 甘えたい。


 昼間は、大きな木の下でピクニックを楽しみたい。

 二人に思いっきり抱きしめられたい。

 夜は、眠るまでそばにいて欲しい。

 そして大きな手で撫でられながら子守唄を歌って欲しい。


 そんなこと口にしてもどうにもならないことを知っているディミータは、考えることをやめる。


 変わりに部屋の中を見渡す。

 白を基調とした絢爛豪華(けんらんごうか)調度品(ちょうどひん)

 まさに、一国の王子に相応しい部屋。

 それから、窓の外に広がる城下町を見る。

 手前の家々は大きいが、遠くに行くにつれ少しずつ小さくなっていく。


(あのような狭い場所にどうやって住むのだろうか…………)


 街に行ったことのないディミータは、それが不思議でたまらなかった。

 あんな小さい所に自分の家族とメイドや執事が入りきるのだろうかと見るたびに考えていた。


 そう思うとある考えがディミータを何故か納得させた。


 両親に甘えることが出来ないのも生まれたときから人生が決められていたことも全てこのような裕福な暮らしの代償なのだと。


 目を閉じてその考えに深く頷く。


 目を開けると街から視線をはずし、真下に広がる庭を眺める。

 庭師が細部にわたって手入れをしているのでいつ見ても美しい。

 ディミータは、この庭の植物が好きだった。いつもきれいな花をつけて風に揺れている。

 特にこの季節は、花たちが一斉に咲くのでいつまでも見ていられる。

 中には、匂いがきついものもあり甘い香りが三階にあるディミータの部屋にも届くことがある。


(大きくなれ)


 ディミータは、少し手を動かし目に止まった黄色い薔薇に魔法をかける。すると、一輪だけスルスルっとツタを伸ばしてディミータの窓辺にやってきた。


「綺麗だね」


 花に囁くように言葉を漏らす。花や動物を見ているときは何故かとても心が安らぐのだ。

 辛いことも悲しいことも忘れることが出来る。 


 薔薇の棘は庭師が取ったのか上の方は付いていなかった。だから、ディミータは怪我をせず薔薇の茎を手折ることが出来た。

 折れたところから黄色い汁がポタっと落ちた。


「大丈夫。すぐまた、花をつけれるよ」


 王子の言葉が届いたのか薔薇は、逆再生ように小さくなっていき元の大きさに戻った。

 不思議なことに先端に一つ蕾がついていたが、ディミータはそれを見る前に窓を閉めた。


 ディミータは、手元に残った黄色い薔薇を花瓶に生きようか迷ったあと、スっと結んだ髪にさした。

 それから、絵が書かれた天井を見る。


(つまんないな…………。そうだ。本でも読むか)


 学園で文字を習ったので簡単な絵本ぐらいなら今のディミータは、苦もなく読めるだろう。


(たしか、母上がくださった本が…………)


 本棚に駆け寄り、目当ての本を探す。まだ、隙間だらけの本棚なのでそんなに苦労せずに見つけ出す。


(あった!)


 美しい装飾が施された本。

 中心には銀色で大きく【五柱(いつばしら)(ぬし)】と書かれている。


 上等な布が張られたふかふかのソファーに座る。

 ディミータの小さな体が重みでソファーに沈む。

 ゆっくりと厚手の表紙をめくる。その途端にむわっと紙の匂いが本の隙間から顔を出す。

 最初のページは、真っ黒な背景に無数の点が書かれている。それは、一件乱雑に見えるが角度を変えるとキラキラ反射する絵の具が使用されているためとても美しい。


(綺麗…………)


 その輝きは簡単に五歳児の心を奪った。

 ディミータは、文字を読む前に何度も何度も本の角度を変える。


(他のページもそうなのかな?)


 ペラペラと先に絵だけを見始める。

 大胆に使ってあったのはその最初のページのみだった。後のページにも使われていたが、ほんの一部だけだったので少し残念な気持ちになる。

 しかし、他のページは一つ一つの絵が細かくとても美しい。

 ディミータは、初めのページに戻り文字を目で追い出す。


 うん。

 しばらく暇になりそうだね。

 少し昼寝でもするか。

 大丈夫。

 彼が読み終わる頃にちゃんと起きるから。

 え? 眠らずに話せって? …………そうだね。そうしようか。


 じゃあ、彼の読んでる本に関することを話そうかな。

ミネルワ学園 四月行事予定


四月 始業式

春の遠足・春のサバイバル

(幼等は遠足)

マナー試験


四月・五月は予習期間といわれ行事が多い。

各一年生には、交流期間とも呼ばれている。

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