吸血鬼
とくにお知らせないから後書き書いてくるね。
ギーっと重そうな木の扉がひとりでに開く。
中は、長机が一脚と椅子が左右に三脚づつ置いてある。無駄に広い部屋。
入口から遠い方の真ん中の椅子に誰か座っている。
ディミータたちに気付いたのか椅子から立ち上がろうと椅子を揺らした。
大人用の椅子なので一人では降りられず後ろにいたお付きのヒトらしき人物に降ろしてもらう。
(子供用を用意すればいいのに)
この光景はここでは日常茶飯事である。幼い子供しかいないここでなぜ大人用の椅子しか置いていないのかディミータは見る度に疑問に思う。
頭の隅でそのことについて考えながら挨拶をするため互いに顔が見える位置に移動する。
「お初にお目にかかります。レヴィンス王国 第一王子 ルギオス・ベネット・レヴィンスです。後ろに控えているのは、デニー・ザラ。私の専属騎士です」
先に口を開いたのは、黒髪に強い意志を宿した赤い瞳の少年だった。
自己紹介のあとに一礼する。
後ろでデニーと呼ばれた男も頭を下げる。
「スミレニー王国のディミータ・ディオニュソス・スミレニです。そして、専属騎士のフェデルタです」
同じように一礼したあとにニコッと友好的な笑みを浮かべる。
(とても五歳とは思えねぇな…………)
ルギオスの後ろに控えていたデニーは、その笑みに違和感を覚えた。
無邪気とはかけ離れむしろ邪気しか感じない笑顔。それは、彼の特殊な容姿だけではないということを本能的に感じていた。
かきあげた赤毛に茶色い瞳の騎士。歳は、フェデルタとさほど変わらないだろう。
「今年の王族は、我々だけのようです」
視線をディミータに固定したままルギオスが発言する。ルビーに熱く燃える意思が灯る。
「そうですか。これから長い付き合いになりますね」
堅苦しい喋り方をする若き王子たちは、とても五歳児には見えない。
「ところで、一つよろしいですか?」
目を細めるディミータ。
「なんですか?」
「この堅苦しい喋り方、やめませんか? これから、卒園まで……十年以上共に学ぶ仲間なのですからさっさと変な壁は壊しましょう」
意外な言葉だったのか、ルギオスの目が見開かれる。
「そうですね。そうしましょう」
その一言で場に張りつめていた氷が溶けだす。
「それから僕のことはディミと呼んでください。ディミータでは語呂が悪いでしょう?」
「では、そうさせてもらいますね。ディミ」
黒髪がさらっと揺れぱっと花が咲いたようにルギオスが笑った。
それを待っていたかのように始業を告げる鐘が教室に鳴り響いた。
「授業に遅刻しそうになったからって魔法を使うとは感心しないな。ディミータ王子」
授業開始から約十分後。
二人は椅子に座って先生を待っていた。が、いくら待っても先生は来ない。
いい加減呼びに行こうかと相談していた頃にその一風変わった先生は来た。
ようやく登場した先生は入ってくるなりディミータの整えられた金髪をぐちゃぐちゃに掻き乱したがら話し出す。
突然のことすぎてディミータは反応出来ずされるがままの状態になってしまった。
その様子を隣で目を見開きながらルギオスは見守る。
掻き乱す指には飾りのない銀の指輪が何個もついている。
髪に絡まることはなかったが、ゴツゴツと変な感覚が頭皮から頭蓋骨に響く。
「あたいの名前は、アンニャ。美術科の教員だ。よろしくな」
満足したのかアンニャはディミータを解放する。そして、今度はルギオスの顔をじっと見つめだした。
「へー。吸血鬼か……! ねえねえ、牙とか生えてるの? ちょっとお姉さんに見せてよ!」
「え!? あ、その!?」
ルギオスは隣にいるディミータに助けを求める。
しかし、乱れた髪を治すのに集中しているディミータは気付かない。
ルギオスは諦めてアンニャの方をもう一度みた。
短いオレンジの髪。その間から狼のような耳が生えている。
「あたい、人狼なんだ♪ 人狼にもほら、鋭い犬歯があるだろ? な! 吸血鬼の一族にもそんなのがあるのか!?」
ぐいぐいくるアンニャに対処しきれず困っているとルギオスの前に大きな手が現れた。
「まあまあ、落ち着いてください。アンニャ先生」
デニーが人の良さそうな笑顔を浮かべてアンニャの顔を抑える。
「ぐっ……よりにもよってあんたか……デニー。まあ、いいや」
パシッと手を払いアンニャは二人から離れる。
「それで、話は戻るが魔法はないだろ。魔法は。君はまだ授業で習っていないから使ってはダメだろ? ちゃんと生徒手帳の校則のところにも書いてあるだろ?」
「(遅刻するよりマシだろ……)」
ディミータは蚊の鳴くような声で反発する。
「聞こえてるぞ。まあ、あたいは見てないし、べつに破ったからって罰則もないから問題ないんだけどな」
なんのための校則なんだよとアンニャはヘラヘラと笑う。
「さて、気を取り直して今日の授業はこれだ! 題して『新学期に向けて交流を深めようの会』! 題を聞けば何をするんですか? なんて聞かなくてもいいよな?」
ディミータとルギオスは顔を見合わせてからこくっと首を動かす。
「よし! じゃあ、早速何をするかデニー! 考えてくれ!」
「え!? 俺!?」
バシッと指を刺されてデニーはビックリする。
「ねえ、デニー。デニーは、アンニャ先生と知り合いなの?」
彼らのやり取りを見たルギオスがデニーに問いかける。
「ええ。まあ、腐れ縁ってやつです」
「さあ!! 何か考えたまえ!! デニーくん!!」
「え、じゃあ、怪談話とか……」
アンニャに急かされ無理やりひねりだした答えにデニー自身も驚く。
「パス」
速攻でアンニャに却下された。
「んじゃ、そっちのカタブツくん」
アンニャはフェデルタに視線を向ける。
「わたしですか?」
ワンテンポ遅れて反応する。
無言でアンニャは頷く。
「そうですね……絵しりとりはどうでしょうか」
「お! いいね! 採用! じゃ、五人でやろうか!!」
いち早く反応したアンニャが教室内の落し物箱から丸い小さな消しゴムと先の丸い鉛筆を五本取り出した。
それからノートを忘れた生徒のために置いてある白紙の紙を一枚手に取った。
「ルールは簡単! 前の人が言った言葉の最後の文字から始まる絵を描くだけ! ただし、最後に『ん』が付いたり絵を認識してもらえなかったら負け! 負けたものには罰ゲームをしてもらう!!」
ルギオス・ベネット・レヴィンス
レヴィンス王国 第一王子 種族は吸血鬼。
周りの期待に応えようと頑張る五歳児。
弟思いで優しいお兄ちゃんでもある。
髪色:黒
虹彩:赤
身長:113cm
服装:基本、赤いシャツに黒いベスト。日によって変わる。
サンプルボイス
☆自己紹介
「はじめまして。ルギオス・ベネット・レヴィンスです。レヴィンス王国は、吸血鬼の国でワインが特産品です」
☆フリー
「毎日、毎日朝から晩まで勉強ばっかり! もう、嫌になる!! でも、立派な王になるには勉強しないとダメだから我慢しなくちゃ…………」
絵しりとり編は気が向いたら書きやす。