魔法特訓
ディミータがルギオスにゼムを紹介してから二人の特訓が始まった。
ゼムは魔法を教えるのが上手く幼少期は執事ではなく先生になる夢を抱いていたそうだ。
「そうです。ルギオス様。眉間の間、ちょうど第三の目と呼ばれる場所に魔力を貯めてみてください」
二人は今、透視魔法の練習をしている。
黒い目隠し、ベンチに座っており二人の前には、白い箱が置いてある。
この中身を当てることが出来れば成功だ。
透視魔法は、無属性魔法と呼ばれ誰でも使える魔法だ。
例えば、お化け屋敷に入ったときこれを作動させれば仕掛けが丸見えになり彼女(または友達)にいいところを見せることができる。
鍛えれば病気の早期発見に関わることも出来る。直接内臓の様子を見てれば一目瞭然。かなり昔から医学に応用されてきたそうだ。
「魔力の流れをしっかりコントロール出来ればどんな魔法にも応用がききますよ。
魔力を一箇所に集めると熱が発生します。眉間がだんだんと暑くなってくれば上手くできている証拠ですよ」
う〜ん……と唸りながら二人は眉間に意識を向ける。
視界を塞がれているので本当に何も見えない。
対象である箱すら見えてない状況でどうやって中身を見るのか。
「では、お二人ともわたしの声で想像してくださいね。
お二人は今、中庭にいます。青々とした草が生え、美しい色とりどりの花々が咲いています」
真っ暗な世界にぽつ……ぽつ……と緑が現れる。だんだん広がっていきやがて緑の中に赤や黄色の点が生まれる。
「そして、その空間の真ん中にある白いテーブルの上に置かれた白い箱」
スポットライトのような光の中に小さな白テーブルが浮かび上がる。
(ポット?)
ディミータが想像した空間には確かにテーブルがある。しかし、その上に乗っているのはゼムが使っているポットだった。
「ポット?」
横にいるルギオスが不思議そうに呟いた。
どうやらルギオスにも同じものが見えたらしい。
「ディミータ様。テーブルの上には何が見えましたか?」
「ゼムがいつも使ってるポットが見える」
「正解です。おめでとうございます」
どうやら二人とも成功したようだ。
アイマスクを取るとゼムが二人分のお茶を入れたようで湯気がたつティーカップが置いてある。
「では、この中身はなんでしょう。
①ダージ
②キーン
③ウーバ
この中からお選びください」
「…………それ、全部紅茶の種類じゃないか」
「おや、さすがディミータ様。バレてしまいましたか……」
楽しそうにゼムが頬をゆるます。
「今あげたのは、三大紅茶の名前です。覚えておいて損はありませんよ」
と言ってカップを二人に渡す。
「ちなみに今入れたのは、東方の国より取り寄せた緑茶と言うものです」
(紅茶じゃないのかよ!!)
心の中でルギオスは、つっこむ。紅茶じゃないことに少しがっかりしつつもカップの中のその緑茶とやらを見る。
薄い黄緑色をした見たことの無い飲み物。
ゴクンッ
一口飲んでみた。
紅茶とは違う茶葉の香りが口の中にふわーっと広がっていく。どこか苦味を感じる甘みが香りのあとに顔を出す。
「へ〜…………初めて飲んだけどなかなか美味しいね」
満足そうに微笑んだディミータが感想を述べる。
「ゼムさん、言われたもの持ってきました」
若いスミレニー王家の家紋が入った護衛兵が細長く丸めた布を持ってきた。かなり大きく長さは人の背丈ほどある。
「ありがとう」
ゼムは笑顔でその布を受け取った。
「ゼム、その布なんだ?」
「これは、使い魔を召喚する模擬体験が行える道具です。まあ、おもちゃのようなものでして主に低級魔物を呼び出すことができます。魔力の流れをよく感じることができていい練習に鳴るんですよ」
魔物!! その言葉には、なぜかワクワクする力が込められている。
平然を装っているディミータでさえ顔にはしっかり“早くやりたい!!”と書かれている。
「低級魔物で扱いやすいのは、やはりスライムでしょうか。成体になってもあまり大きくなりませんし、雑食なので食費もかかりません。
ペットとして飼うのには向いているかと」
うんうん。と頷きながらディミータは、どんな魔物を召喚しようか考えていた。
「質問!! 主にってことは、頑張れば上級も召喚できるってこと!?」
珍しくディミータがノリノリなのにルギオスは驚く。今までこんなにノリノリなディミータは見たことがない。
「理論上は可能ですが、難しいでしょうね」
ゼムは笑顔を崩さず答える。
その答えにディミータはさらにワクワクする。
(ドラゴンとか面白そう!!)
「ゼム!! やりたい! 今すぐやろうよ!!」
この時のことを後にルギオスは、“好奇心は周りを巻き込む”と語っている。