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 六月一日。

 今日は、テレティと呼ばれる七歳の子供を祝う儀式が行われる日。


 六歳になったがディミータとルギオスにはまだ関係の無い話だ。


 この日は祝日となり学校や会社(一部除く)が休みになる。

 それは、テレティと並行して夜に行われる雨呼び祭──インベルが関係している。


 インベルは五柱の一柱 空間の(ぬし)に雨乞いをし、農作に必要な雨を降らしてもらう大事な伝統祭りだ。


 テレティは、生命の(ぬし)(みや)で行われ

 インベルは、空間の(ぬし)(みや)で行われる。



 そんな日でもディミータは、朝の鍛錬を忘れない。専属騎士のフェデルタと共に体を鍛える。

 細い腕や脚にはうっすらと筋肉が付きつつある。

 一汗かくと風呂に入り王族らしい服に着替える。


「ディミータ様。ディミータ様には、魔法の才能もあるのですから魔法の鍛錬もしてみてはいかがですか?」


 朝食を取っている時にふとゼムが話しかけてきた。


「でも、ゼム。僕には、不適合魔法が多すぎる。そんなもの鍛えてどうするんだ?」


 授業では、火、水、風の三種類の基礎魔法をためしてみたがどれも出来なかった。


「ディミータ様の適合魔法は、動植物に関する魔法だと伺いました。この手の応用魔法はある意味最強なのですよ」


 ゼムが柔らかく微笑む。窓から射し込む光がゼムの深緑の髪を照らす。


「詳しく聞かせてくれないか」

「御意。古い話ではよくある事なのですが、動物や魔物の声を聞き難解な事件を解決する話がございます。

 ディミータ様も魔法の鍛錬をなされば彼らの意志を聞き取ることも可能でしょう。動物たちを従え、情報を集めることもできるかもしれません」


 確かにそれはとても魅力的だ。情報は、あって損することは無い。


「ゼム、魔法の鍛錬の方法を教えてくれないか?」





「なあ……ナサル。ルギオス坊ちゃんは、あんなに勉強熱心な子供だったか?」


 ガリガリと音がするほど上等な羽ペンを動かすルギオス。

 机の上に広げられた教科書や参考書、問題集には大きく歴史という文字。


「いいえ、デニー。ルギオス様は、勉強はあのクスリの次に嫌いなものでしたよ」


 その様子を心配そうに見守るデニーとナサル。


「なあ……やっぱりクスリの副作用じゃ……。だって、今日は祝日だぞ? いくら、こないだの事件のせいで外出禁止が出ていてもさ……勉強に打ち込むことはないだろう……」


 ルギオスもディミータも学校からは一歩も出ないように言われている。

 今頃、他の生徒は、街に出かけて出ている屋台を回っているだろう。


「勉強嫌いなあなたとは違うのですよ。きっと」


 ナサルは自分を納得させる為にも呟いて仕事にもどった。

 デニーは、ふぅと肺に溜まっていた息を吐き小さな背中に向けて言葉を投げた。


「ルギオス様、休憩がてらに少し散歩に行きましょう」




「なあ、デニー。吸血鬼は、どうして生き血を吸うんだ?」


 部屋を出て数分。いつか、ディミータが魔法を見せてくれた中庭に来ていた。

 ルギオスは焦げ茶色のベンチに座りデニーに問いかける。

 デニー自身も吸血鬼だが、なぜ吸うのかなんて考えたことが無かった。


「誰かを守るために必要なことってなんだ?」


 答えに迷っているとこれまた難解な質問をルギオスは口にした。


「…………わかりません。でも……答えはひとつじゃないと思います」


 色々迷ってデニーは、そう答えた。


「魔法で守る方法もありますし俺のように剣で守る方法もあります。他にも知恵で守る方法もあります。

 けど、一番大切なのはやっぱ……勇気じゃないでしょうか?」


 上手く言葉にできないものがしさからデニーは頭をかいて誤魔化す。


「あれ? ルギオスじゃん。どうしたの? こんな所で?」


 振り返るとニコニコしながらディミータが歩いてきた。後ろには、気配を消した仏頂面のフェデルタもいる。

 そしてもう一人、ルギオスのあったことの無い人物がフェデルタの横にいた。


「ディミ……!」


 少し驚いた声だがどこか嬉しそうにルギオスは名前を呼んだ。


「僕、今から魔法の練習をしようと思ってたんだけど……良かったら一緒にどう?」


 この発言が後に語り継がれる事件に繋がるなんてこの時誰も思っていなかった。

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