絆
あの事件から一ヶ月が過ぎた。
実行犯の裁判の判決はまだ出てないが罪状は殺人未遂。懲役は長くて十五年ぐらいだろう。
ちなみに裁判をするのは、スミレニー王国だ。
残念なことに裏で操っていた人物の証拠は何一つ掴めてない。
押収したはずの武器は森のどこを探してもなく犯人たちも持ってなかった。
「拷問でもして吐かせればいいじゃないか」
とディミータはゼムやフェデルタに言ってみたが却下された。
憲法というものに引っかかるそうでそういったことは出来ないらしい。
この一ヶ月は様子見のためディミータとルギオスは、それぞれ自室で授業を行っていた。常に部屋の中に三人、ドアに二人の厳重警戒で授業は進められた。
激しい運動は出来ないのでディミータは、フェデルタに頼んで部屋でできる筋トレを教えて貰っていた。
「ディミータ様。どうして、筋トレなどをなさるのですか?」
一週間ぐらいたったころに思い出したようにフェデルタが聞いてきた。
「強くなきゃダメだから」
そういった時のディミータの目は酷く冷たかった。
誰もルギオスがディミータの血を吸ったことは知らない。
しかし、ルギオスは分かっていた。目覚めたときに口の中に残っていた赤い液体の正体を。
そして、察した。
無意識とはいえ大切な友達を傷つけてしまった。
その事がルギオスの頭の中でグルグルまわる。寝ても醒めてもグルグルとグルグルと付きまとう。
(俺は…………友達失格だ)
大好きな甘いお菓子も喉を通らない。けれど、あの苦いクスリは毎日欠かさず飲み続けた。苦くて不味いのは変わりなかったが、そんなことなどどうでもいい。
(明日からディミとの授業になるのか…………)
学校の判断で明日から元の生活に戻る。
喜ばしいことだが、ルギオスの心は鉛のごとく重く沈んでいた。
(どんな顔して会えばいいんだろう…………)
ふかふかのベッドに身を沈め布団を頭まで被る。
────会いたいのに……会いたくない
「おにいちゃん?」
布団の外から幼い弟の声が聞こえた。
ちょっとだけ顔を出すと緑の瞳が心配そうに見つめている。
「どこか痛いの? よしよし」
元気ずけようと小さな手でルギオスの頭を撫でる。
堪えていたごちゃまぜの感情がその可愛さによって溢れ出す。
「アスラン!!」
ギュッとアスランを抱きしめてルギオスは泣き出す。
「俺…………俺……!! どんな顔してアイツに会えばいい!? 恨んでるよな……! あんな状況で俺に血吸われてさ! 下手したら二人とも死んでたかもしれないのにさ!!」
アスランは変わらずルギオスの頭を撫でる。どこか大人びた表情で。
「…………ルギオス」
いつもは、おにいちゃんと呼ぶアスランがそっと目をつぶってルギオスに呼びかける。
優しく開かれた瞳に宿る光は、真剣そのもの。
「でも、二人は生きている。生きていれば、壊れた関係の修復だってできる。
それに崩れてほしくない関係ほどたくさんの試練がまっている。一つ一つ乗り越えてゆけば、誰にも壊されない絆が生まれるものだよ」
まるで別人のようにアスランがルギオスの心に語りかける。その眼差しは幼児と言うよりも青年と呼べた。
内心驚きつつもルギオスは、その言葉に救われた。
ルギオスは、力を緩めアスランの姿を見る。
間違いなくアスラン、ルギオスの弟だ。
「いきていればなんとでもなる!!」
幼児に戻ったアスランが眩しい笑顔でルギオスをギュッと抱き締め返す。
優しい兄の顔でルギオスは、もう一度アスランを抱きしめた。
次の日。
「ルギオス!! 君を僕の事情に巻き込んで本当にごめん!!」
ルギオスが教室に入ってくるなりディミータは深く頭を下げて謝罪した。
「こ、こっちこそ…………! その……血のこと…………」
ルギオスも慌てて謝る。
「そ、それに!! あれは、ディミのせいじゃないよ! むしろ、ディミは僕と同じ被害者じゃないか!! 俺がディミに謝ることがあってもディミが俺に謝ることなんて一つも無い!!」
ルギオスの言葉にディミータは顔を上げる。すっかり伸びた前髪は、右眼を隠している。
「ルギオス…………。その……僕たちはまだ、友達だよね……?」
問いかけるディミータの声は震えている。
「俺たちは親友だ。だから、どんな困難も乗り越える」
長かったけど…………やっと描きたかったものが書けた。