助けてくれたのは
流血注意
吸血鬼 本領発揮
口にくわえていたルギオスのリュックをそっと地面に降ろしてやった。
向こうは、当然のことながら覚えていないので不審者を見る目でこちらを見ている。
でも、運んできたものをて表情が変わった。何を運んできたのか理解してくれたようだ。
鍋を取り出してる間に適当に葉っぱと枝をちぎって集め山をつくる。
ロウソクを吹き消すように優しく山に向かって息を吐く。
ぼうっと赤い火が揺れ動いた。
ディミータは驚いた顔を一瞬だけしてすぐさま鍋をセットする。
久しぶりに実体化──しかもこっち姿だから加減が難しいな。かといってあちらの姿だと余計にややこしくなるからな…………。
続いて鍋に息を吹きかけ綺麗な水を入れる。
口から火を出したり、水を出したり……こっちの体はやっぱり使いにくいな。
もう、何が起こっても驚かないようでゴルミスの枝を水に入れる。
アイツらにいたずらしている間にこんなことになってるとは。
ルギオス君がいるから大丈夫かと思ったけど……そこまでして命を奪いたいのか。
子供相手にいい度胸だよ。
…………ルギオス君の容態が悪化する前に大人を呼んでるくか。
あの大きな獣は枝が煮える前に消えてしまった。
一体なんだったのだろう。
けれど、ルギオスを助けるために道具や火や水を与えてくれた。
ありがとうの一言を言い忘れてこんなに後悔したのは生まれて初めてだ。
ルギオスのカバンには鍋と一緒にコップが二個入っていた。恐らく、ルギオスのと僕の分だろう。こぼれないように煮汁を注ぐ。
熱いのでもう一個のコップに移し替える。四、五回繰り返して煮汁を冷ます。
だいぶ湯気が消えたのでルギオスの頭をそっと持ち上げてコップを口元に付ける。
「ルギオス。これ飲んで」
紫の唇を無理やり開いて流し込む。唇の隙間から鋭く尖った犬歯が見えた。
ゴクッと喉が動いてルギオスが煮汁を飲んでくれた。
緊張の糸が緩む。これでひとまず安心だ。
まだ、顔色の悪いルギオスのおでこをそっと撫でる。
大粒の汗で濡れた前髪をみて心が痛くなる。
「ごめんね……ルギオス」
僕のせいで……僕のせいで…………。
後悔してもしきれない。
己が憎かった。
ふとルギオスを撫でている自分の手を見た。
薄く白い皮膚が荒々しくたっており、そこから滲み出ている赤い血。
たぶん、ルギオスが突き飛ばしてくれたときに擦りむいたものだろう。大した怪我ではないので気にすることは無い。
それにしてもこの異常に成長したこの植物たちはなんだろう。
ルギオスの背中に矢が刺さってるの見たあとからどうなったっけ?
僕を殺しに来たアイツらはどうなったんだろう。見つけたらタダじゃ置かない。
生かさず殺さず…………生き地獄を味あわせてやる。
「…………」
声にならない声でルギオスが何かを言った。上手く聞き取れなくてルギオスの口元を見る。
紫の唇がぱくぱくと動いている。
「…………う……」
「え? ルギオスなに?」
僕はルギオスの口元に耳を近づける。
「…………う……ま…………そう」
絞り出したうめき声にも似た声が生暖かい吐き出された息とともに耳に入ってきた。
「ルギオス?」
戸惑ってルギオスの顔を見る。ゴルミスの効果かだいぶ顔色が良くなっている。
うっすらと開いた潤いのある赤い瞳がこちらを見ている。
辛そうな呼吸が支えている手を通して伝わってくる。
もう一度ルギオスの口が動いた。
聞こえなかったので耳を近づける。
ガバッとルギオスが体を起こして僕を乱暴に強く引き寄せる。
「え?」
子供とは思えないほど強い力が僕を拘束する。
ルギオスの暖かい息が左の首元にかかりくすぐったい。
けど、それは一瞬。
激痛が僕の首元に走った。