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If If If

もしも もしも もしも

「肉って焼けるのに時間かかるんだな……」


 ルギオスは火の近くに刺した肉が焼けるのを今か今かと待っている。

 そのままだとさすがに大きかったので手ごろな大きさにして枝にさしている。


「待ってるときってそんなものだよ」

「なんかさ、こんな雰囲気って怖いけどワクワクしない?」


 既に日は暮れあたりは闇。あかりは、二人の前の焚き火だけ。


「そうだね……。怖いけど」

「だからさ、ディミ。怖い話しようよ」

「え……いいけど」


 いいよと言いつつディミータの顔は引きつっている。

 逆にルギオスは、目をキラキラさせている。


「じゃ、じゃ! 俺からな! これは……俺のじい様がいとこのおじさんのお兄さんの友達からきいた話なんだけど……」


 声をひそめてルギオスは語り出す。

 日が顔にあたっているせいで、闇の中にぼおっとルギオスの顔だけが浮かんでいるに見えてようで気味が悪い。

 結局、ルギオスの話は特に怖くはなかったがなにせ森の中に子供二人。

 ディミータは、夜中にトイレに行くことがないように心から願った。

 それでももやもやした気分をまぎらわせるためにディミータは程よく焼けた肉にかぶりついた。

 口の中に広がる肉汁のおかげでそのもやもやは吹き飛び幸せな気持ちで心が満たされた。


「そうだ、ルギオス。ゴルミスの木を取りに行こうよ」


 ほとんど肉を食べ終えてたときにふと思い出してルギオスに話しかける。


「ふぇ? あぁ……そうだったな。松明でも持っていくか」


 ルギオスは、残っていた肉を三口で食べ終えて太めの枝に火を移した。

 ディミータも肉を食べ終える。


「よし! 行くか!」


 ルギオスは怖くないのかサッサと歩き出す。


「ま、待ってよ! ルギオス!」


 ピタッとルギオスの後ろにくっついてディミータも歩き出す。

 ルギオスは、少し違和感を覚えながらも普通に歩く。


「ねえ、ルギオス。どうして、夜なの?」

「ヒント! 吸血鬼の特徴は?」


 キュッとディミータは、小さな手でルギオスの服の裾を握りながら考える。


「夜行性だから?」

「ほとんど正解」


 ルギオスは突然くるっとディミータの方を振り返った。

 赤い目がらんらんと不気味に光っている。


「吸血鬼は複数の魔物の伝承が混ざりあって生まれた存在。生き血を吸い、闇に生きる者」


 ルギオスの背中から黒い霧が濃紺の空に向かって溢れ出てくる。


「昼間はクスリの影響が強くて本来の力が出せないけど……夜なら……ね」


 ルギオスの赤い目が細くなりフッと口が歪む。

 霧は意思を持っているようにぐねぐね動きながら何かを作ろうと大きくなる。


(……翼?)


 ディミータの金の目に移るのは黒いコウモリ型の翼。

 大きすぎる折りたたんだ翼は、地面についている。


「これなら上に行けるだろ?」


 可愛らしくウィンクしてルギオスは翼を伸ばした。

 バサッとぐぐもった音がして翼が開かれる。


「ディミはここで待っててよ。取ってくるから」


 ルギオスは持っていた松明をディミータに渡して数歩下がる。

 そして、思いっきり翼を動かした。

 突風がルギオスを中心に巻き起こる。

 ガザガサっと近くの草木が揺れる。葉っぱが舞う。

 松明の火が消える。


「うっ…………」


 顔を手で覆いグッと踏ん張る。少しでも気を抜くと飛ばされそうだ。

 風が止んで目を開けるとルギオスは消えていた。

 ディミータの頭上でパキ……パキ……と枝を手折る音が聞こえる。


(素敵だよ……ルギオス!)


 翼の生えたルギオスの姿は恐ろしかったがそれ以上に美しかった。

 黒い髪と翼。その闇に浮かぶ赤い二つの満月。

 一瞬でルギオスの姿に虜になった。


「ほらよ。ゴルミスの枝だよ。あ……松明消えちゃったんだ。でも、俺今結構見えてるから大丈夫だよ。戻ろうか」


 すぐにルギオスは戻ってきてディミータに枝を差し出す。

 ディミータは満面の笑顔で受け取りありがとうとお礼を言った。

 松明の火が消えたことなどもうどうでも良くなっていた。

 何もかも一つの夢のような感覚になっていたからだ。 


 ちろりと二人の後ろの草むらから弓矢の矢じりがディミータを捉えた。

 黒い影が矢を放った瞬間、ディミータが動いた。


 シュッという音とトンっと矢が木に刺さる音が同時に聞えたような気がした。

 ルギオスとディミータの間に矢の羽が揺れている。


 っち。と悔しそうな舌打ちをしてもう一度ディミータを正確に狙う。


 身の危険を感じたディミータはとっさにテントの方へ駆け出した。

 ルギオスもそのあとを追う。


 ──っち。


 ルギオスは舌打ちと何かが動く音を聞いた。

 先程の矢は間違いなくディミータを狙ったもの。

 なら……。


(守らなきゃ!!)


 ルギオスはディミータの背中を守る位置に移動して走る。

 そして、思いっきり突き飛ばした。暗いので地面に伏せて動かなければ安全だと思ったからだ。


 もし、ルギオスがもう少し早くディミータを突き飛ばしていれば。


 もし、ディミータがゴルミスの木に行こうと言わなければ。


 もし、“奴”がディミータから目を離さなければ。


 最悪の事態を招くことはなかっただろう。


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