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Roman is the Future  作者: 浪漫古参
3/4

2章

 「俺はC空間がどんな物なのか、それを使い絶対機関が何を成そうとしているのか知っている。それは…」


 「いつか、お前に直接教えてやるよ」


 あんた…誰だよ?

 …嫌な夢だ。


 「気が付きましたか?ロマンさん」


 ここは…看護室のようだ。どうやらサラさんに看護されていた様子。


 そうだ…俺はあの巨大ウイルスに撥ね飛ばされて…その後は?


 「サラさん、俺は一体…」

 「驚きしたよー!ロマンさんがあんなに強かったなんて!隊長が太鼓判を押していたのも納得出来ました!」

 「え?」


 あれからの事、全く覚えていない。


 「強かったって…俺が?」

 「何言ってるんですか?C空間とはいえワームの攻撃をまともに受けたのに、本体にはかすり傷ないんですから。これは本当にロムさんの才能ですよ!」


 全く身に覚えがない…確かに身体は何ともなく、むしろ調子が良い方だ。


 「いや…とにかく、ありがとうございました。またお世話になってしまって…それじゃあ俺は仕事に戻ります」

 「いいえ。これからもお仕事頑張って下さいね」


 看護室から廊下に出て仕事場に向かうまでの間、今朝見た夢の事を考えていた。

 登場人物や場面は前と同じ。ただ、あの男が最後に言った台詞、まるで俺に言ったかのようで気になる。

 あの夢は、ただの夢ではない…?誰かが寝てる俺に映像を見せてたり…そーんな訳ないか…。


 とりあえず、俺が気を失っている間に何があったのか。まずは、隊長に話を聞いてみよう。さて、隊長はどこに…。


 「隊長さん!私のお兄さんがこの機関に所属していたっていうのは本当なんですか!?」


 突然何かと思えば、大声を張り上げて隊長と隊長と口論を交わすメロウの姿がそこにあった。


 「今から説明する。だから朝から大声で喚くのはよせ。そういうのは昔から苦手なんだ…」


 ヒステリックになったメロウの前でも相も変わらず冷静な隊長である。


 「昨日あいつらが言った通り、ノエル・メロー、お前の兄は半年前まで絶対機関に所属していた」


 昨日?


 「そんな…私、今までそんなこと…」

 「知らなかったのも当然だろう。絶対機関に所属している事を周囲一般に公表してはいけない規則だ。それが例え身内でもだ」


 俺も以前、親族には以前のまま情報課に勤務している事にして、この機関に関する情報は一切口外しないよう、隊長に釘を刺された。


 「なぜ隠す必要があるんですか?」

 「絶対機関は…政府直属の諜報機関、ありとあらゆる情報が集まる場所だ。情報の漏洩は出来る限り避けたかった」

 「………」

 「ノエルが隊員だった事を隠していた事は謝る。だがそうしたのは、お前達を相対機関から護る為でもあるんだ。…悪く思わないでくれ」


 空気は最悪だが、流石に隊長の目前を素通りする訳にもいかないよな…。


 「隊長、おはようございます」

 「…ロマンか。身体の方は大丈夫か?」

 「はい、何ともありません」

 「あれだけの攻撃を受けておきながら、よく無傷でいられたものだ」


 しかし、C空間内で怪我したことないから、何とも言えん。


 「ロマンさん…」

 「おはようメロウ。どうしたの?なんかすんごい隊長に怒ってたみたいだけど…」

 「………」

 「メロウ?」

 「………元はと言えば、ロムさんが悪いんですよ?」

 「え…?」

 「もう何なんですか!?なんで何もかも似ているんですか!?」


 そう吐き捨て、走り去っていくメロウ。

 え?なんで俺怒鳴られたの?



 「ちょっ、そっちこそ何なんだよ…いったい」


 なんか、告白して思いっきりフラれた気分…。


 「許してやってくれないか?お前は、メロウの兄とよく似ているそうだ」


 俺の気持ちを察したのか、隊長が語りだした。


 「メロウの兄さん?」

 「あいつは兄を尊敬していた。事実、若干14歳で大学を卒業できたのも、彼の力でな。兄が亡くなって半年になるが、今でも兄に感謝しているそうだ」


 14歳で大学卒業…18歳で高卒の俺とは大違いだ。


 「その反面、極度に兄へ依存し過ぎ、少し前まで兄以外の人とコミュニケーションをとることが出来なかった」


 ブラコンか。


 「現に、ディアーヌは殆どの人間と話す時、必ず敬語や丁寧語を使ってくるだろう?」

 「そういえば…」


 まさかそんな理由があったとは。単にメロウが周りに馴染んでいない(=周りから孤立している)せいだと思っていた…。

 にしてもメロウの兄さんが俺に似ているなんて、なんだかなぁ…。


 「話が長くなってしまったな。俺は仕事に戻るとするか…。お前も用意が出来次第、仕事場に戻れよ」

 「あっ、はい…」


 隊長はいつもと変わらない。ただ、サラといいメロウといい、周りの接し方とかが昨日までとは全く違う…。

 まるで、俺じゃない奴に話しかけているような感じ。…いや、考えすぎかな?


 あっ、昨日の事を隊長に訊ねようと思ってたのに、結局、聞き損ねてしまった!


 「ロム!!」


 この声は…パールか?


 「ロム、もう大丈夫なの?」

 「あぁ…まぁ、体は何ともないよ」

 「よかったー。昨日のロムがあんなんだったから、もうロムがロムじゃなくなっちゃったのかと思ったよー」


 そうだ。パールも昨日C空間に居たのか。


 「実はその事について詳しく教えてほしいんだ」

 「C空間のハナシ?」

 「うん。ここで立ち話もなんだし…俺の部屋で話す?」

 「あ、ありゃりゃ?ロムからあたしを誘うなんて、珍しいコトもあるもんだ♪」

 「い、いや…そんな意味で言った訳じゃ…」

 「またまた~」


 勘違い甚だしいけど、誘ったってことでもいっか…。


 「えっと、昨日の話だっけ?」

 「そう、俺C空間でワームの攻撃を食らった後の事、何も覚えていないんだ」


 取り敢えず俺の部屋に来てもらった。C空間の事を本当に知りたいせいか、この日はパールの前でも全然緊張しなかった。

 いや、単に俺が慣れただけかな?


 「……ってことなんだけどー、どう?思い出せた?」


 一通り話を聞かせてもらったが、やはり解せない。相対機関は隊長や俺が追い返したらしい。


 「ゴメン、やっぱり思い出せないみたいだ。…少し一人にしてくれない?」

 「あ、うん、いいよー」


 本当は折角来てもらったのだから、帰らせたくなかったけど、頭の中を整理したかった。


 「俺から呼んでおいて悪いね。じゃあまた後で」

 「ん。じゃあねー」


 パールを見送り、数分考えてみる…が、やっぱり答えは出ない。

 ここは分からない物は分からない。と、割り切るか。…少し横になろう。ポケットに入れておいた帯を小棚の上に置く。


 !?


 以前に俺は全く同じ事をしている…?なんだこの既視感。


 前にパールから貰い、C空間に持ち込んだ後、帰って来た時も俺は小棚の上に置いたんだ。それからだ、それから帯は?

 それ以来、帯はここに置きっぱなしの筈。今日だってポケットに入れたのは携帯電話だけ…、まさか帯と間違えて入れるはずもない。


 いつ帯をポケットに入れた?


 何なんだ?さっきから気味が悪い…まさか本当に俺じゃない“誰か”がいるっていうのか…?

 頭が痛い。身体は何ともないけど…ひょっとしたら本当はとんでもなく疲れているだけかもしれない。

 そうだ、きっとそうだ。こんな時はさっさと寝よう。休めば多分良くなる…。



 「作戦決行まで後3時間。それとも得体の知れないその機関を護るのか?」


 「お前は…どうする?」


 知るかよ…。

 嫌な夢だ…。


 午後4時か…少し寝たら気分が落ち着いた。帯は…知らず知らずの内に俺が置いたんだろう。それを忘れていただけだ。


 それにしても本当に嫌な夢を観た。相対機関の連中が本部を直接叩いてやろうとか何とか作戦を立てていた。恐ろしい…。

 …いや、所詮ただの夢だ。気にしないことにしよう。


 「ロムー!そろそろ起きてー!」


 …パールか?


 「あぁ、いま起きるよ…ん?」


 目を覚まして1番最初に目に入って来たのがパールってのは、どういう事だ?


 「どしたの?まじまじと見つめちゃってー。そんなにあたし可愛い?」

 「いや、それよりも…まぁ、可愛いと思ってるけど…」

 「それ、ホント?」

 「えっ?」

 「へ?」


 まともに受け答え出来ん…。どうやら俺はまだ寝ぼけているようだ。いや、パールはぶっちゃけかなりタイプなんだが…。


 「……で、どうしたの?勝手に部屋入って来て…ってかどうやって入ったの?」

 「隊長がねー、ロムが仕事をサボっているから呼んでこいってー。隊長がマスターキー渡してくれたよん」


 …しまった、まだ仕事が残っていたんだ。


 「忘れてた…すぐに仕事場へ行かないと…」

 「あたしも一緒に行くー」

 「んじゃ待ってて。直ぐに支度済ませるから」


 慌ただしくパールと部屋から出ると、丁度レティシアと鉢合わせになった。


 「二人で同じ部屋から出て来るなんて…」

 「あれー?なんでレイティがこの階にいるのー?」

 「私はレティシアよ…パールがロムを呼びに行ったまま戻ってこないからって探して来いって隊長さんに頼まれたの。で、あんたロムの部屋で40分も何やってたのよ?」

 「んふ~。そりゃーあんなコトやこんなコト~」

 「ちょっ…パール!?」

 「ふ、不潔っ!早く隊長の所へ行きなさいよっ!」


 レイティはそう言って、そそくさと立ち去ってしまった。一体どんなコト想像をしたんだろ…。

 あっ、ってことはもしかして、パールは俺が起きるまでずっと待ってたんじゃ…。


 「遅いぞ?ロマン」


 ようやく仕事場に到着。隊長は若干ご立腹のようだ…。


 「すみません、少し休息をとるつもりが寝過ごしてしまって」

 「パールも何やってたんだ?マスターキーも渡しただろう?」

 「すみませーん…」


 「…まぁいい、話は接続室でする。付いて来てくれ」


 いつもは時間に凄く厳しい隊長だが、今日は大目に見てくれたようだ。


 今日の接続室には誰も居なかった。こうして見ると随分ここも無機質な所だな。


 「隊長、大事な話ってなんですかー」

 「実はC空間の新たな機能がようやく使えるようになったんだ」

 「システムー?」

 「早速説明したい所だが…」


 …所だが?


 「…話は変わるがロマン、お前は音楽を聴くか?」

 「えっ…?」


 実を言うと、俺は大の音楽好き。三度の飯より好き。

 洋楽・邦楽は勿論、クラシックからIDMまで幅広く聴いているつもりだ。特にシンセサイザーをふんだんに使った曲は大好物である。

 が、そんなノイズを聴いてニヤニヤする奴がそこらじゅうにいる筈もないので、最近は大人しくパールとロックを聴くだけになってきていた。


 「え?は、はい一応何でも聴きますけど…」


 本当は音楽について隊長にも超熱く語りたかったが、ドン引きされるのがオチなので、頭の中だけでやめといた。


 「でも、なぜ急に音楽の話なんかを?」

 「それは、C空間で力を引き出す鍵となるのは、その音楽だからだ」


 音楽を聴いてパワーアップ!?。まるでゲームみたいな要素だな…。



 「それってどういうことですかー?」


 「C空間は元々『1.4 Swatch Beat』、通称1.4という最新のサイバー空間を利用したゲームだった。

 敵の攻撃をかわしつつ、ヘッドフォンから流れる音楽を上手く聴き取ってタイミング良く音を入力、又は身体を動かし敵を倒していく。

 ダンサー等の音楽マニア層に大ヒットを記録したそうだ」


 あぁ、元々ゲームなのか。


 「その後、1.4は政府に改修され、その後もここで開発・研究が進められていたという訳だ」

 「でも、そんな機能がある事を分かっていたのに、どうして今まで使えなかったんですか?」

 「今までC空間のデバッグの方法がどうしても解らず、使えなかったんだ。これでようやくC空間の機能が掌握出来る」


 「なんか楽しそー!さっそくあたしの部屋からMDを…」

 「…いや、まだ調整が済んでいないんだ。それにまず、どの様な音楽が高い戦闘力を引き出せるのか、それも合わせてテストしたい」

 「えーっ!じゃあ、なんであたし達を呼んだんですかー!」


 そういや、調整中にしてはメロウ達の姿が見えないな…。


 と、その時!突然大きな警報が鳴り響き、それと同時に接続室のゲートが開いた。メロウとサラさんだ。


 「な。なに?何かあったの??」

 「隊長!機関本部内に何かが侵入し、次々とデータを奪われています!」


 侵入者!?しかも隊員を襲う訳でもなく、データを?


 「隊長さん。きっと、例の『実体ヴァイラス』ですよ」

 「来たな…。恐らくこのC空間のデータが目的だ。…ロマン!パール!協力してくれ!」

 「は、はい!」


 「今から上に戻って、実体ヴァイラスの殲滅にかかる」

 「現在のところ、まだ大きな被害は出ていません」

 「今回の実体ヴァイラス、人には危害を与えない様です……あの…ロムさん…」

 「ん?」

 「…あ、いえ。何でもないです」


 明らかに何かある様子で言われた。


 「1番持って行かれるとまずいのは此処、C空間のデータだ。接続室は俺達が上に戻り次第隔離しよう。サラ!ディアーヌ!此処は任せたぞ」

 「は、はい。わかりました」


 俺もすぐにエレベーターへ乗り込む。最近分かった事だが、接続室は地下100mの所に位置しているらしい。

 そういや、普通にこうして接続室から上へ戻ったのは初めてだ。


 一階に到着すると、隊長は早々とエレベーターの電源を落とす。


 「まずは武器保管室に向かい、そこで剣なり銃なりを調達しよう」

 「武器保管室はどこですかー?」

 「一階の北西にある。ここから直ぐだ」


 と、隊長は言い終わる前に走り去ってしまった。


 「隊長、焦ってるのかなー?」

 「そうは見えないけど…とりあえず追いかけよう」


 急いで隊長の後を追おうとしたが、既に隊長の姿は見えなかった。なんて足が早いんだ…。

 そういや、スポーツテストがこの前あったけど、隊長は殆どの項目で1番になってた。普段から身体の鍛えてるのか?


 隊長を追い掛ける途中、床に何かクラゲのような、5~6cm位の物がうごめいているのが見えた。


 「ロムっ!このクラゲっぽいのは何?」

 「さぁ?…もしかしてこれが実体ヴァイラス?」


 やけに大人しいな。確かにこっちを攻撃をしてくる様子はない。


 武器保管室の前に着くと、もう隊長が武器を用意してくれていた。


 「ロマン、パール。C空間でお前等が使ったバスタードソードとエストックだ」


 剣を手にするも、C空間で持った時より明らかに重い。


 「あたしの剣ってこんなに重かったっけー?」


 パールもか…。


 「C空間ではユーザーの能力が強化される。ロマン、C空間では視力が回復していただろ?」

 「はい、眼鏡で矯正してる時と殆ど変わりませんでした」


 本当は常に眼鏡を掛けなければならない視力だが、どうも眼鏡は昔から気に食わず、普段は掛けていない。


 「毎日ゲームやってるからだよー」

 「分かっちゃいるけどやめられない」


 最近、特に音ゲーは俺の生き甲斐だと思い始めている。俗に言う音ゲ廃人である。



 「あの透明な生物が実体ヴァイラスだ」


 さっきから気になっていたが…。


 「…その、実体ヴァイラスって何ですか?」

 「見たところC空間の三次元変換する仕組みを応用して実体化したヴァイラスの様だ。前回、C空間に侵入された際にデータを読み取られたんだろう」


 そういうと、隊長も武器保管室から剣を一つ手に取った。流石にC空間で使っていた大剣程ではないが、普通の剣よりは明らかに大きい。


 「奴らは此処の情報を根こそぎ取っていくつもりだ」


 廊下に設置してあるパネルを操作する隊長。普段は案内板や最新の情報を表示をしているものだ。


 「情報を易々と奴らに渡す訳にはいかない。今から一時的にこの機関を外部と完全に隔離する。その間に実体ヴァイラスを殲滅するんだ」

 「でも、肉眼じゃ確認しづらいしー」


 眼鏡をしながら動くのは苦手。眼鏡がズレてくるからだ。というか、眼鏡は俺の部屋だ。しまった。


 「二人共、携帯電話は持ってるか?」

 「あたしは持ってませーん」

 「俺は…持ってます」

 「今から実体ヴァイラスの位置をこの機関の地図に表示させる。絶対機関のHPにアクセスしろ」

 「は、はい…」


 絶対機関のHP?いつ作成したんだか知らんが、ブックマークから検索してみると、確かにそれらしいページが出てきた。


 「そこの『本部案内』の図だ」


 クリックしてみると、機関本部の地図が出てきた。何かうじゃうじゃと赤い点が表示されている。


 「その赤い点が実体ヴァイラスの位置を示している筈だ」

 「こ、こんなに居るんですか?」

 「た、隊長ー!あたし達だけじゃ、全部は倒せませんよぉー」


 ざっと数えて100体はいるかもしれない。


 「そこで、緊急用回線でライナスをこっちに向かわせた。が…」

 「…が?」

 「エレベーターも停止しているからな、17階からここまで来るのには少し時間が掛かるだろうな…」

 「隊長!お待たせしましたっす!!」


 …相変わらず間が悪いというか、こう、空気の読めない奴だな。


 「上層にも、ヴァイラスが入り込んでいるっすよ」

 「上は問題ない。個人PCのデータもすべて地下のデータバンクへ転送してある」


 俺の卑しき画像フォルダも、今はデータバンクにあるようだ。


 「そうなると、むしろ上階にいた方が安全だ。此処の隊員も皆、上に避難させた」

 「さっすが隊長!じゃ、地下にこのヴァイラスが入り込まないようにすればいいっすね?」

 「早速手分けしてヴァイラスをー…」


 「待て!」


 …急にパール呼びとめる隊長。思わず俺もビビってしまった。


 「…な、なんでしょお…?」

 「バラバラにはならずに、ここは3人まとまって動くんだ」

 「隊長、ロムやパールでも流石にこいつらには負けないっすよ!多分」

 「緊急用回線ももう使えない。互いに連絡が取れない状況だ。お前達は慎重にまとまって動いた方が良い」

 「でも、2階や3階はもうパニック状態っすけど…?」

 「そっちには俺が行こう。この階のヴァイラスはお前らに任せる。頼んだぞ、ロマン」

 「え?あ、はい」


 このクラゲ野郎をいきなり任されてしまう俺。隊長もそれだけ言って足早に階段を駆け上がっていった。


 ………はぁ。



 取り敢えず立ち尽くす俺。


 「さて御二人さん。ここのヴァイラスを何とかするっすよ」

 「でも、隊長抜きのあたし達で全部倒せるかなぁ」

 「大丈夫だよ…多分」

 「ちょっと何すか?二人とも弱気になって」

 「ライコウ…」

 「僕が付いてるじゃないすか!余裕っす」

 「………」

 「………」


 そのよくわからない自信はどこから溢れてきやがるんだ?


 「それじゃあ、手分けして倒すっす」

 「え?でも隊長がまとまって動けってー?」

 「心配ご無用っす。何かあったら僕が助けるっすよ」


 どこが心配ご無用なのかさっぱりだ。


 「僕はエレベーターの辺りを殲滅するっす」

 「んじゃ、あたしはエントランスの方ね」

 「え?じゃあ俺このへん」


 ライコウの提案で俺達は散り散りに。隊長はああ言っていたけれど、確かに数は半端無いし、ここはバラバラになって倒していった方がいいかもしれない。


 にしても、ただえさえ半透明で見づらい上に眼鏡がないから全く見えないぞ。このクラゲもどきめ。

 俺は左に携帯を握りしめ、クラゲの位置を確認しつつ、右手の剣でちまちまと攻撃することにした。これ自体はとっても楽チン。


 しかし、殲滅開始から5分後経つと、そうも言ってられなくなってきた。


 「…なんだよ、こいつら…」


 コイツらは剣で真っ二つに斬っても、すぐに元通り。試しに叩いてみたけど、それも駄目だった。

 おまけに、ヴァイラスの位置を示すレーダーも、さっきから全く機能しない。地図自体が表示されないのだ。


 倒せないし、位置も分かりにくいし…俺は一旦、剣を壁に立てかけておいて、一休みすることにした。…サボってる訳じゃないぞ。


 にしても、こいつらって攻撃をしようが何をしようが全く動じずデータ収集に勤しむようだ。ご苦労なこった。


 …ライコウやパールはコイツらをどう相手をしてるんだろうか。


 ……。爆発?何かが破裂する様な音がした。エレベーターの方からだ。エレベーターの辺りは確かライコウが向かったけど…。


 「ロム!早く逃げるっす!!」


 噂をすれば、というやつか。いきなりライコウがエレベーターの方から慌てた様子で走って来た。


 「何だよ、ライコウ」


 ふと辺りを見渡すと、周りのヴァイラスが赤く光っていた。なんだこりゃ、いつの間に?


 「このヴァイラス、どうやら一定の衝撃を与えると、自爆するらしいっすよ!」

 「げげっ、マジかよ!」

 「さっきヴァイラスが赤色に変わったんで、警戒して距離を取ってなかったら、今ごろ大火傷っすよ!」


 早口で喋りやがるんで、殆ど何を言ってるか聞き取れなかったが、取り敢えずヤバイ事は分かった。


 「ひとまず走るっす!」

 「よし!」


 どこに向かう事もなく、ひとまず此処を離れるべきだ。


 背中に熱気というか、熱風を感じる。さっき俺が剣撃を加えたヴァイラスも次々と爆発しているらしい。


 一定の衝撃を与えると爆発する?そんな話聞いてないぞ…あ、もしかしてパールもこの事を知らないんじゃ…?


 「ライコウ!あの…パールは?」

 「え?ああ!忘れたっす!」


 なんて野郎だ、コイツ…。


 武器庫からエントランスまで、大体100mはあるだろうか。



 パール…。



 エントランスの扉を開けて最初に目に入ってきたのは、驚いた様子で(たぶん)目を丸くしながらこっちを見るパールと、赤く点滅するヴァイラスだった。


 「どどど、どうしたの?ロム」

 「ひとまず、物陰に隠れた方がいいから」

 「へ?」


 とにかく必死だった。いや、パールには伝わらなかったけど、俺はパールの引いて、受付のカウンターに隠れようとした。


 その瞬間。


 凄まじい爆発。俺達はその凄まじい爆風に吹き飛ばされた。 と同時に、反射的にパールをかばう俺。気がついたらそうしてた。


 「………あいたたたたた」


 爆発は瞬間的な物だったらしく、すぐに収まった。

 何故、いきなり凄まじい爆発になったかは知らんが、どうやらおれもパールも生きているようだ。


 「あ…ありがとう、ロム…」


 ところで、とっさにパールをかばいながら倒れてしまったので、俺は、パールに覆い被さるような体勢になってしまった。

 何とも…アレな格好ではある。


 「でー…いつまであたしの上に乗ってるのかなぁ…?」

 「ご…ごめんっ!」


 立ち上がって受付のカウンターから顔を出してみると、ライコウがニヤニヤしながらこっちを見ていやがった。


 「すごい爆発で、二人とも、もう駄目かと思ったっすけど…ロムにとってはパールに抱き着くチャンスだったみたいっすねぇ?」

 「ち、違うって!これは事故で…」

 「ロマン!パール!ライコウ!大丈夫か!?」


 どう誤解を解こうか考える間もなく、隊長がやって来た。


 「お前等、怪我はないか?」

 「ああ…はい。何とか」

 「上でヴァイラスが爆発すると分かったんだ。まさか衝撃を加えられて1分後に自爆するギミックがあるとは…な」

 「隊長、その手に持っているの何すか?」

 「物資保管庫にあったさっき言った液体窒素を噴出出来る物だ。これで瞬時に凍らせる事で、爆発させることなくヴァイラスを破壊出来る」

 「あらまー」


 いくら隊長でもヴァイラスの機能を見破る事は出来なかったようだ。


 「それより、お前達に聞きたい事がある」

 「?」

 「何故、俺の言う通りまとまって行動しなかったんだ?」

 「あ…」


 思わずライコウに指を指す俺とパール。


 「ライナス…またお前か?」

 「ち、違うっすよ!僕はやっぱり手分けして倒す方が手っ取り早いと思って…」

 「ライナス、その勝手な判断が時に最悪の事態を招く事もある。現にパールは危うく命を落とす所だったんだ…分かったか?」

 「…分かったっす…今後は勝手な行動を控えるっす」


 いつもはクソ元気なライコウも今回ばかりはしょんぼりだ…。だが「控える」って所が、またやらかしそうな予感。


 「…だが、今回は三人共無事だっただけでも善しとしよう。さて、これはお前らの分だ」


 そういうと隊長はいつの間にか手にしていたアタッシュケースからスプレー缶の様な物を取り出した。


 「これは…」

 「さっき言った液体窒素を噴出出来る物だ。兵器ではないが、液体窒素は知っての通り常に摂氏マイナス150度近い液体だ。絶対に人に向けて噴射するんじゃないぞ」


 立派な兵器じゃないか…。


 「残りのヴァイラスは大体400体位だ」

 「げ、まだそんなに?」

 「一人当たり100体ってトコだねぇー」

 「でも、さっきからヴァイラスの位置が…」

 「ああ、機関のホームページにもコンピューターウイルスが入り込み、位置を感知するレーダーが働かなくなっていたんだ。だが、もう使える筈だ」


 携帯を見てみると、確かに地図にヴァイラスが表示されている…これまた赤い点がウジャウジャと…。


 「さて、あともうひと踏ん張りってとこっすね!!」



 ら、ライコウ…復活早いっすね…。



 「もう外部との隔離を解除しても良いだろう」


 ようやく、探知レーダーから全てのヴァイラスの反応が消えた。もうヘトヘトである…。


 「足が…痛い」

 「疲れたっす…」

 「ホント、もうくたくたー…もう帰りたいたいなー」

 「その前に、接続室へ行ってC空間の状態を見ておく」

 「そういえば、メロウもサラも放置プレイ状態だったねー」

 「何すか?その例え方…」


 俺はそんなことより、さっきのせいで何か今パールと居るのが気まずい…。


 地下へのロックを解除して、エレベーターに乗り込む俺達。


 「稼動するまで少し時間が掛かるな」

 「ところでパール。ロムに押し倒されて、どうだったすかぁ?」


 この野郎…。


 「お、押し倒してはねぇよ!」

 「だってパールの上に乗ってたじゃないすか」

 「………」

 「んー…あたし、ちょっとドキドキしたなー」

 「え?」

 「え?」

 「ち、ちがうよっ!?あやうく死んじゃいそうだったからドキドキしたっていうかー…」

 「何言ってんだ…お前達。接続室に降りるぞ」

 「は、はーい」


 パールが慌てふためくなんて、らしくないなぁ。…本当にドキドキしてたのかな…。うーむ…。

 …あ、隊長はどういう気持ちで今の話聞いてたんだ…?


 エレベーターを降りると、サラさんが忙しいそうに作業していた。何だか様子が変だな。


 「た…隊長…」

 「どうしたんすかサラさん。顔色悪いっすよ?」


 あー、顔色が悪かったのか…見えなかった。


 そういやメロウの姿が見えない。トイレ?…ってか、ここトイレ無いんじゃね?という事は漏(以下略


 「そんな所で何をしてるんだ?ディアーヌ」


 俺の妄想とは裏腹に、メロウは机の下に隠れていた。


 「あ…あ、隊長さんでしたか。私はまた変なおっさんかと…」

 「どどどう、どういうことっすか!?」


 …変なおっさん…おっさん?ライコウはメロウの前だからってアガり過ぎだ。


 「サラ、貸してみろ」

 「は、はい…」


 隊長は接続室のコントロールパネルを操作し始める。


 「この様子だと…C空間の情報を一部持って行かれたな」

 「すいません、あんな変なおっさんを中に入れたばかりに…」

 「私達は…どうすれば良いのでしょうか…?」

 「隊長、どういう事っすか?」

 「侵入者によって此処、接続室から直接、情報をコピーされたんだ」

 「侵入者?」

 「え?だっては外からは入って来れないはずじゃー…?」

 「別々の空間を繋ぐ装置…と話されておりました」

 「それはあくまでも比喩だ。恐らく量子テレポーテーションを行ったんだろう」

 「量子テレポーテーション?」

 「量子力学を利用し、物質の状態を精密に読み取り遠隔地に再現する事で可能とする瞬間移動だ」

 「そーなのかー」

 「しかし、相対機関が人間の量子テレポーテーションを可能にする程の技術力を手にしているとは…」

 「きっと、C空間の技術を応用したのでしょう」


 うむ、さっぱり分からん。後で調べるか…。


 「加えて、この情報を取得された事で、相対機関はC空間内で力を引き出す事が容易となる」

 「えーっ!?この前C空間に違法アクセスされた時、あいつら普通に強かったっすよ…?」

 「だが、今はどうしようもない。サラ、ディアーヌ、詳しい話は明日にしよう。お前達もひとまず今日は自室に戻って休むと良い」

 「は、はい。分かりました…」

 「そうっす、もう疲れたっす」

 「それじゃあ、お言葉に甘えてー」

 「あ、みなさん、おやすみなさい…」


 こんな危機的状況も尻目に、俺は量子テレポーテーションを使えば、パールやメロウの部屋にいつでも侵入が…なんて考えていた。

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