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みんなビョウドウになりましょう

作者: 成浅 シナ

他人から見た自分の評価、とか。正直どうでも良かった。



長いものに巻かれていれば、最低限必要なポジションはキープ出来るし平穏無事な生活が保証される。

クラスのボス、中心的存在、リア充。そんな代名詞を持つ絶対的存在、神前(かんざき)月夜(つくよ)


彼女が一声上げるだけで周りの人間は彼女の奴隷と化す。

校則に触れないギリギリの程度で気崩された制服。生まれ持った黒に近い茶髪は一つに結えられている。その垢抜けた容姿に加え成績は学年でもトップクラス。

だから歯向かう人は誰もいない。もしクラスに除数順位があるとすれば月夜(つくよ)は間違いなく一番だ。


『女王様』。


そんなあだ名が陰で囁かれている事を私は知っていた。誰かに与えられた高い地位を持っていているべきポジションに収まっているだけの『姫』ではなくまさに傍若無人、自分の気に入らない事は自分で変えてしまうような行動的人物『女王』。そのあだ名を聞いた時、思わず笑ってしまった。上手いことを言ってるな、と。


その女王様は今私の『トモダチ』。

そして私はその取り巻き一号、二号のどちらか。



私の学校は地元でそこそこの進学校だ。

現役での大学進学率は八十パーセントを超えているし毎年有名大学への合格者が何人も出る。

だがその一方で周りからのプレッシャーや期待は重い。

だから私の学校は進学率が良い=日頃のストレスが溜まるというのが常にあった。

時にはストレスと上手く向き合えずに表に出して発散させようとする人物が出てくる。つまりいじめだ。


その標的となったのはーーー



昼休み。

購買に行って教室に戻るとやけに静かだった。

教室の真ん中前方の辺りがポッカリと穴が開いたように人が()けている。

穴の中心で一人俯いて座る人物を見て全てを察した。


このクラスになって三ヶ月、直接話した事はないけど私は彼女を知っていた。

パッと頭に浮かんだのはたまたま耳にした一つの噂。昨年の初めに受けた検査の結果だ。


『幸せ度数システム』。


数年前に導入されたそのシステムはその人の人生の幸福度を示すパーセントだ。どうやってその数値を出しているのは機密事項らしく私は知らないが同時に残りの寿命もわかると言うのだからその数値に疑いを持つどころかもはや感嘆するしかない。それに加えこの前授業で見た最新の資料ではその照合率は九十パーセントを超える。

その数値は個人にしか知られないはずだが何かの拍子に他人に知られてしまったらしい。ただ最重要と書かれた封筒を渡されるだけなのだから人に知られないようにするには確実に自分で守り抜くしかないところがまだこのシステムの難点なのかもしれない。一応家に持ち帰ってから中を開けるように言われるのだが結果が気になるあまり学校で開けてしまう人も結構いる。


彼女もその一人なのだろう。

そして彼女はその時点で現在の高幸福を知らされた。



だったらそれを見た周りはどうする?



(だからって自分より幸せな人を落とそうとするのはどうかと思うけどね。上に上がりたいなら上の人を落とすんじゃなくて自分が上がれば良いのに)

もちろんそんなこと声に出して言えないけどさ。


「おーそーいー。ちょー腹へったんだけど?」


「あはは、ごっめーん。超混んでた」

周りの空気なんてお構い無しに月夜は声のボリュームを抑える気などなくいつも通り声をあげた。その声は私に向けられたものなのに周りがビクッとこちらを(主に月夜の方を)向いたのが背中越しにわかった。

なるべく明るくそれに応えると近くにある椅子を月夜の机に持っていく。

座って買ったばかりのパンの袋を開けつつこっそり周りを確認する。


先程までの静かさなんて嘘のように教室はいつも通りだ。


ガタッ


その小さな音は私にはやけに大きく聞こえた。

先程まで俯いていた彼女は胸元に鞄を抱え早足に教室から出ていく。

彼女が出ていったかと中央近くに座っていた女子のグループがクスクスと笑った。彼女たちが加害者なのは誰の目にも明らかだった。

だけど誰もがそれに気づかないフリをしている。巻き込まれたくない、自分も被害者になるかもという漠然とした不安をみんな持っているのだ。


「やー、マジでないわー」


いきなり月夜が少し大きめの低い声を出しすっかり油断していた私は肩が少しビクッとなった。

油断さしていたのは私だけではないらしくクスクス笑っていた彼女のグループも笑いを止めビックリしたようにこちらに勢いよく顔を向けていた。

「な、ないって」

何が?

そう聞きたいのは私だけではなくクラスメイトのほとんどが耳を傾いて固唾を呑んでいる。

「いやー、五限小テストじゃん?あれ点数落としたら課題追加で出されるっしょ?」

あー、そういう事ね。

私は気持ちを切り替え声のトーンを高く、出来るだけバカっぽい話し方で、空気を読まないような声を出す。いつも通りに。


「いやー、マジそれ。『あたし』もちょー心配なのよねー。でも今更勉強する気も起きないっていうかー」

「まじそれ」

「でも月夜(つくよ)はヨユーじゃない?めっちゃ英語ペラペラじゃん」

「んなわけないっしょ。あたしアメリカンじゃないしー」

「アメリカンってなんだし(笑)!」

いつも通りの意味の無い会話。リア充で、クラスの上位カーストだと認識された私にふさわしいような。

それはもう一人、いつも一緒にいる子が戻って来ても続いた。

教室は先程までの嫌な空気はもう感じられない。



「それで?」


放課後。特別教室棟四階。現在は物置になっている場所に私は呼び出された。

目の前には腕組みをして仁王立ちの月夜(つくよ)

その目は細められ口はへの字に曲がっていた。

ご機嫌ナナメな事は明らかだった。ここに第三者がいれば萎縮してしまうだろう。


だが怒っている訳ではなくこれが彼女の普通なのだ。


「ミナコから聞いた話ではもう八割がた終わってるみたい」

「そっ」

一言そう言い月夜はスマホに視線を落とす。

「あ、今データ届いた」

スマホを手に月夜は笑う。


「もうすぐ、だね」

私たちの計画を実行に移す日が。


正直躊躇う気持ちは、ある。これからしようとしているのは、最低で、最悪な行為だ。

だけど私たちはそれをしなければならない。

単なる正義感かと言われればそうなのかもしれない。

偽善者?ヒーロー気取り?

言いたい奴には勝手に言わせとけ。


だってこれは『私たち』の革命だから。


「ミナコから。もうデータは揃った」

月夜はスマホを見ながら笑う。

ニヤリと口の端が釣り上がり、目は輝き、頬は興奮からかほのかに赤く染まっている。

傍から見れば不気味とも取れるが私はとても


ーーキレイだと思った。


「実行は明日。準備はいい?」

私の答えは初めから決まってる。


「ここから始めよう。革命を」



計画は成功。


もうあれから半月。『いつもの』昼休み。教室をこっそり見渡し私はほくそ笑む。

半月ほど前まで教室前方にあった穴はもうない。

半月前と変わった事といえば独りで昼休みを過ごす女生徒が増えた事と以前より教室内で騒ぐ人が減ったくらい。


一人で俯いて彼女は今では教室の済で他のクラスメイトと仲良さげに席を囲っていた。


このご時世情報なんてあっという間に広がる。その上一度根付いた噂はそう簡単に消える事もなく徐々にその形を変えて広まっていく。


ミナコは超高校生級に情報機器を取り扱う力に長けている。

月夜(つくよ)はその存在そのものが周囲に影響を及ぼす。


私は二人に依存し、くっついているだけの寄生虫。


周りから見ればよく一緒にいる仲良し三人組。

だけど少なくとも私だけはそう思っていない。

この関係は友達とは呼べないもの。私は運良く革命を起こそうとしていた二人の間に入っただけだ。


他人からの評価とかどうでも良かった。友達?引き立て役?それとも下僕?

言いたい奴には言わせとけ。だって本当の事を、気持ちを知っているのは世界でたった一人、私自身だけなのだから。


生きる目的も、幸せかどうかも、自分がどうしたいのかも分からない。考えない。考えたくない。


頭に浮かぶのは昨年の政府の通知書。


私の幸せ度数は『✕✕%』。


でもそんなのどうでもいい。

他でもない、私だけが決める私の幸せ。それさえ常に100%ならいいじゃないか。


それならいつ死んでもいい。

これ以上の幸せなどなく今が最高のときなら、そうだと思っていればきっと後悔なく生きていけるから。


二人が笑い、私も笑う。周りだって自分たちの時間の中で時を楽しむ。人間が創った世界の中で。それを創ったのが自分たちだと言う事に気づかずに。



私たちは正義の味方の革命軍。人に勝手に決められたパーセンテージを無くしこのシステムが導入される前の世界を取り戻す。


そしたらきっと私の存在価値もきっと分かると思うから。


前作とは違った観点の作品。

視点が変われば考えも違うし、人は見かけ通りのキャラではない、そんな人間性の陰の部分に着目しました。

また新たな視点から楽しんで頂けると幸いです。

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