壁は、覚えているか?
ここは?
えーっと、俺…道成と涼華ちゃんと下校してて…。
あ、変な建物が目の前に現れたんだったっ!!
道成?!
道成は…?
ここ、どこだろう。
真っ白な世界?
夢の中ってことかな…。
振り返ると、さっき目の前に現れた建物が遠くに見えた。
取り敢えず、あれが気になるよね。
そう思って歩き出したはいいけど、近づく程に、心臓の鼓動が早くなって、なんだか息苦しくなってくる。
道成…。どこいったんだろう。
少し歩くと、その建物がとてつもなく大きなものだとわかった。
見上げた先のどこまでも続く建物は、威圧的に俺に迫ってくる。
なんだか、気持ち悪い…。心臓の音も体全体に鳴り響く…ほんと嫌な感じだよ。
はぁっと息を吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
道成を探さなきゃ。
そう思って進んだ先に、見慣れた後姿を見つけた。
____道成ーーっ!!
叫んだつもりが、声が出ないっ。
どうなってるんだよ!!
道成は、建物に向かって立っていた。
____道成!!だめだよ!置いていかないで!!
今度は、つらい気持ちが胸を締め付け、また鼓動が早くなる。
____俺を一人にしないでよ!道成ーーっ!
ふり絞る心の声も虚しく、頬に涙が伝った。
頭が痛い。
____っと、何が起きたんだっけ…。
ぼーっとした意識の中、いきなり飛び込んできたのは、
「道成!道成!目を覚ましてよー!道成ぃぃ!」
「野村先輩っ!!しっかりしてください!!」
うるっせぇ、大声出すなよ。
「道成?気が付いた?道成?」
重い瞼を開くと、泣きそうな雪近と、近藤の顔があった。
「あ。ああ。」
「よかったぁぁ!道成生きてたぁ!」
「勝手に殺すなっての。」
雪近は、だって…と言いながら、目じりをこすった。
「野村先輩!!大丈夫ですか?お怪我ありませんか?どこか痛いところは?」
近藤が心配そうに見つめてくる。
近い、近い。
「ん。ああ。どこも痛い所は…」
一通り、体を動かしてみて、
「おう、なさそうだ。」
俺のその言葉に、二人から安堵のため息がこぼれる。
「あぁ~、もうほんとに心配したんだからね!道成死んじゃったかと思ったんだから!」
「だから、俺を勝手に殺すなって。」
ぺたぺたと顔を触ってくる雪近を軽く払いながら、
「ごめん、俺、そんなに長い間寝てた?」
と尋ねた。
「そうですね…。私が一番最初に目を覚ましたのですが、野村先輩は随分長い時間、気を失ってました。私が目を覚ました時には、辺りはまだ明るかったのですが、今はすっかり日も沈んでしまって…。」
近藤が、ほっとしたのか、その場にへたり込みながら話してくれた。
相当、心配かけたんだろうな。近藤にも、雪近にも。
「そうか。心配かけたな。って、ここはどこだ?」
今まで、ぼーっとしてたのと、周りが暗いのもあって気にしてなかったのだが、
ここはどこだ?
学校の前の坂道の下じゃない。
俺は、改めて上半身を起こしながら、辺りを見回した。
「さっき、明るい間に少しだけ辺りを散策してみたのですが、ここ林の中みたいなんです。街灯も無くって。」
確かに、辺りはとても暗く、街灯はおろか、家や車のヘッドライトさえ見つけられない。
「ここ、どこなんだ?」
俺の言葉に、二人とも、う~ん?と顔を見合わす。
「俺たちにもわからないんだよ。道成を置いてどこにも行けなかったし。ここがどこなのかまだ俺たちにも全然わからないんだ。」
雪近が少し不安そうな声で話してくれた。
雪近も、近藤もここがどこかわからなくって、不安が募ってるって感じだな…。
確かに、こんなに暗いと不安になるな。
都会育ちの俺はこんなに暗い場所に来たことはない。
見渡しても、満月に照らされた、草木が揺れていることしかわからなかった。
俺は、はっとして、
「二人は、壁の世界に行ったのか?なにがあった?」
と、訊ねてみた。
二人は不思議そうに首を傾げながら、
「私は、学校の前の坂道から、ここで目が覚めた記憶しかありませんが、道成さんはどこかに行ってたのですか?」
「壁は、覚えているか?」
「はい、坂道の下で、急に目の前に現れた建物みたいなのは、覚えてます。」
そうか。俺だけ次元の境界だったかに、行ったのか。それとも本当は夢を見ていただけじゃないのか。まぁどっちにしろ、話した所で二人になんて説明すればいいかもわかんねぇし、黙っておくか。
「道成?黙り込んでどうしたの?」
心配したのか、雪近が顔を覗き込んでくる。
「ん、ああ。いや、俺、変な夢見てたみたいなんだけど、忘れてしまったなぁとな。」
そっかそっかと、雪近は立ち上がる。
「ねぇ。どこか、人が居そうなところ探しに行かない?ここがどこかわかるかもしれないし。と言うか、俺めちゃくちゃ腹へっちゃって。」
ぐぅぅぅぅ。
雪近の腹が鳴った。
へへって笑いながら、
「道成、立って。」
と、こちらに手を伸ばしてくる。
その手を掴んで、俺も立ち上がった。
少しだけ、肌寒い風が吹いたかと思うと、
ぐぅぅぅぅる。
俺の腹もなった。