壁との対話
「雪近ーーっ!!後ろだぁぁ!!」
突如目の前に、現れた高い高い建物の様なそのものは、
ガラスの様に光り輝きながら、向こう側の景色を映さない、
青の様な、闇の様な、しかし綺麗な光を放っていた。
「えっ!えっ!!なに?なんなのこれーー?どっからきたのーー?」
雪近は振り返った、目と鼻の先にあったその大きな建造物に驚き
今にも、腰を抜かそうとするような、叫びをあげた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
近藤も気が付いたらしく、けたたましい叫び声が響き渡った。
そこで、俺の意識は、すっと切れた。
_____…頭がぼーっとする。これは夢なのか…
俺は、真っ白な世界で、さっきの壁の前に横たわっていたようだ。
____ここは、どこだ?雪近と近藤はどこにいった?
『ここは、次元の狭間と呼ばれる場所。』
____…っ、頭の中に何かが直接話しかけてきてる感じがする…。気持ちわりぃ…。
『あなたは、どちらかを選ばなければならない。』
____嫌な予感がした…どちらかって…。雪近と近藤って事か…
『そうではありません。ここから出るか、ここで朽ちるか、その二択です。』
____なんだ、予感が外れてほっとした。が、ここで朽ちる?!そんな事はごめんだ。
『ならば、選びなさい。』
____まずは教えてくれ。お前は誰だ?
『あなたがお前と呼ぶものは、思念の集合体であり、ひとつではない。』
____はぁ。よくわかんねぇな…。なら、ここはどこだ?
『先程も説明した通り、ここは、次元の狭間。元あなたがいた場所とは違う場所。』
____それもまた、意味がわかんねぇな…。どうやったら、ここから出られるんだ?
『それは、試練であり、また己の力を示すことなり。さぁ、探したぞ。見せてほしい。』
____試練?力?なんの話をしてるんだ…。探したってなんの事だ?
それを最後に、頭へと響く声は聞こえなくなってしまった。
俺は、取り合えず、状況を整理しようと、ふぅ~と長い深呼吸をした後、腰を上げた。
俺の横には、部活の鞄と、教科書の入ったクソ重たい通学バックが置いてあった。
って事は、ここは夢の世界ではなく、俺の体ごと飛ばされてきたと考えていいのだろうか。
そう考えつつ、体をポンポンと触ったり、痛むところはないかと探したが、
いつもの制服に、いつもの俺だった。
さっきのやつが言ってた通りだとすると、ここは、俺が日頃いる、所謂三次元ではないという事か。
辺りをぐる~っと見渡す。
空まで続いたような高い長い建造物。それが目の前に広がっているだけで、後は真っ白な世界。
ぐぅぅぅ…
こんな時にのんきに腹が鳴った。
まぁ、部活終わって何も食ってなかったし…あれ?
俺は自分の髪の毛を触ってみた。
髪の先が軽くカールしていた。
って事は、今の時間は19時を過ぎているという事か。
時間という概念はあるようだ。
え?髪の毛でなんでかって?
俺が聞きたいんだけど、俺の髪の毛って、19時過ぎると、うねうねしてくる…
天パなんだよ、くそ。
こんなところで、役に立つとは…
しかし、そんな時間だとするならば、雪近と近藤が心配しているだろう。
いや、果たして、飛ばされたのは俺だけか?
そんな疑念と共に、二人を探し始めた。