港街アーケレ2
「……アニス様アニス様っ!今日は僕の持って来た情報を…」
「ユ・ア・ン!ヴァンくん踏まない!喧嘩しない!仲良くする!!」
笑顔で俺を踏みつけるユアンを、アニスがステッキを振って吹っ飛ばす。
部屋の端にすっ飛んだユアンに同情の視線を送ると「放っておいても大丈夫だから」と言いながら俺の髪を整える。
「本当にごめんね?」
「別に俺は良いよ」
溜息を零したアニスに笑みを向けると、またホッとしたように微笑む。
そしてすっ飛んで来たユアンが後ろからアニスに抱き着く。
「アニス様!また僕を放ったらかしで!!」
「ひゃあっ!もう!いきなり抱き着くな!」
ぽこすかステッキで殴られても笑顔のユアンは、俺をまた睨み付ける。
昔の自分を見ているみたいで少しむず痒い。
そう言えばカイが生まれて一年は俺もこんな感じだった。
弟、自分より下の存在に母さんを持って行かれた気がして怖かったんだ。
だから生まれたばかりのカイに敵愾心剥き出しで、今思い出したらやっぱり恥ずかしい。
ただのヤキモチだと理解したのは、本当にここ三年程前だ。
その時はなぜこんな気持ちになるのか分からなかったが、カイが素直に育ってくれた事、そしてやっぱり慕ってくれる事が嬉しかった。
「がるるっ」
「ふむ」
目の前で牙を剥くユアンは相変わらず俺を睨み付けていた。
アニスはと言えば抱き着かれながら諦めの溜息を吐き出していて、なんとかしてはやりたいが俺自身がユアンの嫉妬の対象なのでどうにもならなかった。
「ユアン」
「あん!?気安く僕の名前を呼ぶなで…っ」
ぽんと頭に手を乗せて、少し乱暴にかき回す。
「ちょ!何してくれてんですか!」
「ん、嫌だったか?」
「は?」
「弟はこうされるのが好きだったからな。
お前よりいくつか下だったと思うけど。
こう言う場合どう言えば良いのか分からないけど、よろしく頼むよ。
島から出たばかりで、まだ何も分かってないんだ。
ユアンは情報収集が得意なんだよな?
俺にも色々教えてくれると嬉しい」
素直にそう言うと、ぽかんと口を開けてユアンは首を傾げた。
アニスまでもが同じようにぽかんとしている。
「…な、何かおかしい事を言ったか?」
不安になって尋ねると、ユアンは真っ赤に顔を染めて「うるさい!」と叫んだ。
「お前の弟と一緒にするなです!
それにやっぱり軟弱です、こんな奴がアニス様と一緒に旅をするなんて!」
俺は叫んでいるユアンを見ながらやっぱりミスったかと心の中で溜息を零した。
しかし、ユアンはちらりと俺を見ると「まあ」と小さく呟いた。
「アニス様の迷惑にならないよう、少しだけなら教えてやっても良いですけど」
「え?」
きょとんとその言葉に首を傾げたアニスに「アニス様の役に立つためです!」とユアンは叫んだ。
「アニス様の足を引っ張らないよう!アニス様の第一の下僕たる僕が!あんたにビシバシ鍛えてやります!」
「だから下僕じゃない!旅の仲間!!」
ステッキを振って壁にめり込んだユアンを案じていると、アニスがくるりと振り返って俺の手を取った。
「私だって教えてあげるから!!
魔法の事も精霊の事も!地理の知識はユアンには及ばないけど…だけど、私だってただの極楽冒険者なんかじゃないんだからね!」
「お?おう」
「アニス様ずるいです!僕にも握手!」
「ユアンはだめっ!ヴァンくんの指導係は私なんだからー!」
ぎゃんぎゃん吠える二人の間に入って「まあまあ」と取り成しながら、大陸初心者ではあるものの珍獣達のお世話係としてはやって行けそうだと安心した。