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島の守り神4

翌朝早く、宿屋では大きな叫び声が響いた。

少年は宿泊客が居る場合母屋では無く宿屋の奥にある部屋で休む為、その叫び声をダイレクトに聞いていまいその宿屋に居るたった一人の宿泊客の居る部屋へと走った。


「なんだ!?一体どうした!?」


ドンドンと扉を叩くと、、内側からバタンと勢いよく扉が開かれて少年は廊下へと一歩後退る。

そして中から薄桃色の髪を持つ少女が準備万端の様子で飛び出て来た。


「おっはようヴァン君!さっ、神の右腕のある神殿へレッツゴー!!」


満面の笑みでそう言われ、しばらくポカンと少女の突き上げられた小さな拳を見詰めていたが、ハッとして少年も先程の叫び声に負けない程の音量で少女へと怒鳴った。


「まだ朝の五時だ!!!大人しく布団入れこのニワトリ娘がああああ!!!」


「ふぎゃっ」


拳骨を落として少女をベッドへと放り上げる。

キョトンとした顔で首を傾げる少女に「朝食に時間までは大人しくしてろ」と言い置くと、少年は舌打ちをしながらベッドへと戻った。

少女の方はと言うと、やはり首を傾げながらも標準装備のままベッドへと潜った。


それから三時間程して、少女は一階にある食堂へと足を運んだ。

白のサマーニットにベージュのキュロットスカート。

上に昨日羽織っていた黒のローブを付けているからか、なんだか違和感がある。


「お前…」


「アニス!」


「アニス…飯の時くらいローブ脱げ」


「え?そう?」


よく分からないまでもローブを椅子に引っ掛けるところはまだ素直だ。

テーブルに料理を運びながら、昨日喜んでいたビワの実を乗せた皿を置くと。

目をキラキラさせながら少年を見上げた。


「今日も!?今日もビワあるの!?」


「あるぞ、時期だからな」


「素敵素敵!!すごいね、すごい!!」


飛び跳ねんばかりに喜ぶ少女に、少年は苦笑する。

そして向かいの席に座りながら少年は手を合わせる。


「?」


「いただきます」


「いただきます?」


少年に習いながら両手を合わせてお辞儀する。

食事を食べ進めながら、少年は今日起こるであろう出来事を反芻する。


まず食器の片付け、その後恐らく村長宅へ連行。

そして森へと入る事になるだろう…多分。

少女が何をするのか分からない分、たくさんの事を事前に気を付けておかないといけない少年は、目の前で嬉しそうにビワを頬張る少女を見て溜め息を吐き出した。


「…ヴァン君?どうかしたの?」


「いいや…森に行くのは昼からでも良いか?まず村長の所に行って、話し聞かせてもらえばいいだろ」


「そうだね!!」


もの凄く元気だ。

少年はため息を吐き出した。


「んー?ヴァン君疲れてる?明日にする?私今日は島の中色々探検して来ようか?」


心配そうに伺う少女に、少年は全力で首を振る。


「大丈夫だ」


「本当に?」


「それに一人で森に入るなよ、何が起こるか分からねえから」


「へ?ああ…昨日みたいな?」


いたずらっぽく笑って、少女は食後のお茶を一口飲んだ。

庭に植えてあるハーブを使って作ったハーブティはどうやら少女の口に合ったようで、テーブルに置いてあるティーポットから二杯目を注いだ。


「それもあるし、森の中に魔族は居なくても獣は居る。

いくら冒険者だからと言って、俺は女を危ない場所に一人で向かわせる事を良しとしない」


「わあ…ヴァン君って本当に紳士だよねえ…」


「誤魔化すな」


少年も自分のカップへと二杯目のハーブティを注いだ。

結局双方が三杯目のハーブティを飲み終わったところで村長の家へと向かう事になった。


小さいながらも島であり、大陸に準ずる小さな町としての体裁を保つ為。

この島には村長と呼ばれる「領主」を置いておく事になっている。

村長は古くからこの島に居るので、島民とは全員顔見知りだ。

自身を島民全員の父と信じて疑わず、皆に構い倒している少年達からすれば鬱陶しがられる存在だった。

しかし、島民全員が信頼を置いている良い存在だ。


「おお!!なんだ、また来たか!!」


「来ちゃいました!!」


「待て…どうしてそんな打ち解けてんだ」


不思議に思いながらも村長の人の良さと少女の人懐っこさを考えて腑に落ちる。


「昨日森の中にある神殿を調査したいですって言ったら行って来いって!!」


「けど森の中は俺でも迷う時があるくらい深いからな!!勝手にお前を案内役として任命しておいた!!」


全く詫びる様子の無さに、少年は心の中で舌打ちをした。


「だろうな、どうせそんな事だろうとは思ってたんだよ」


「それにフィベルも昨日その場に居てな?ヴァンを好き勝手使っても良いって許可も貰ってるもんな?」


「ねーっ!」


「いやそれねーじゃねえし、母さんも俺に許可なくそう言う事勝手に決めるのそろそろ止めろよな本当に…」


がくっと膝を付く少年に、村長と少女はケラケラと笑った。


「無理だろ!フィベルに逆らう奴はこの島にはおらんぞ!」


「ヴァン君ドンマイ!!」


「アニス、お前に慰められると俺は惨めになる」


さっさと持ち直して、少年は村長の進めるソファへと腰を下ろした。

少女の方も少年の隣に腰を下ろしながら物珍しそうにきょろきょろと忙しなく部屋の中に視線を向けていた。


「そういやあ…昨日はなんか忙しなくて聞いてなかったが、アニス、お前どうしてうちの島の守り神様なんかを調査したいってんだ?」


「あー…ヴァン君にはもう言ったけど、私自身が気になったから!!

大陸の歴史図書館にね、このトローニャ島の記述があって…そう言えば言った事ないなと思って!!」



「調査して…どうすんだ?」


「ん?」


にこっと微笑む少女に、村長は真顔で挑む。

少年も初日に遭遇した少女の表情に、少年は看破出来なかった無念を村長が晴らすだろうと勝手に心の中で決め付ける。

しかししばらくそうしていたと思うと、村長が深いため息を吐き出して首を左右に振った。


「えへへ…ごめんね村長さん、私も呑気で平和な旅をして来た訳じゃないんだよね。

だから…そうだな、調査が終わったらこの島を出る事は確かだよって事は言っておくよ」


「……そうかい」


村長はちらりと少年へと視線を動かす。

それを見て案内人の事だろうと思い出し、少年は頷いた。


「アニス、ワシはお前の事が嫌いじゃない。

だが…ワシにとって大事なのは、この島の島民の方なんじゃ」


「うん…分かった、覚えとくね」


少女が微笑んで、出口へと向かう。

その後ろに付いて出て行こうとする少年に、村長は小さく耳打ちした。


「あの嬢ちゃんを一人にすんな」


「分かってる」


つくづく鬱陶しい爺さんだと少年は心の中で毒付いた。


村長宅から森へと向かう。

その間少女は一言も話さないので少年も居心地の悪さを感じながらも歩みを進める。


「…ヴァン君、神殿ってどっち?」


「って分かってて進んでたんじゃないのかよ!!」


「あはは…こっちかなって決め付けて来たんだけど…やっぱり違った?」


微笑んだ少女の頭に拳骨を落とそうかと思った少年は、拳を握った辺りで何か少女の様子が変な事に気付いた。

微笑んでいる表情が、彼女の本当の笑みには見えなかったのだ。


「…どこで引っ掛かってんだ。俺が神殿への道をまた言わなかった事か…?」


少しだけ後退りながら聞くと、少女はぴしりと固まって少年へと驚愕の表情を向けた。

それに対してさらに少年の方が驚いて一歩後退る。


「え?なんで分かったの??」


「今ので分からねえ奴が居ると思うか?」


「うっそ…えーっ!!っ、じゃあ村長さんも!?うそ!!」


瞬間的に真っ赤になった顔を隠すように両手で薄桃色の髪を巻き込んで、少女はその場にしゃがみ込んだ。


「……アニス?」


恐る恐る話し掛けると、少女は震える声で「恥ずかしぃ…」と答えた。


「信じられない私ってば…最悪!!最悪ーっ!!」


「いや待てどこに恥ずかしがってんだ」


「子供みたいじゃん!!ってそうだヴァン君も分かったんだよね余計に恥ずかしい信じられない無理わあああああああああ」


じたばた暴れながら奇声を発する少女に、少年はぷっと噴き出して笑う。


「ばかー!!笑うな!!」


「いやおかしいだろ、なんで恥ずかしいんだよ」


「だって!!私この島の人間じゃ無いもん!!なのに馬鹿みたいに傷付いて…私、もう本当に…なんでこんなにバカなんだろう…」


顔を上げた時、少女の瞳から雫が落ちる。

少年はぎょっとしつつも少女を伺う。


「もう私の事は放って置いていいよ!!恥ずかしいし…もう、勝手に調査やっちゃうし!!」


「だから…森に一人で残すわけにはいかないって言ったろ」


「うー…」


地面に伏してじたばたとしている少女に微笑んで、少年は少女をひょいと起こす。


「少なくとも今俺が居るだろ、さっさとその調査とやらを終わらせろよ」


「……むー」


地面に下ろされて、少女は不貞腐れながらも立ち上がって歩き出す。


「こっち?」


「こっち」


正反対の方向に指を差す少女の背を押しながら、少年は先程の弱々しい少女を思い出す。

冒険者の中には道に迷いながらも突き進んだり、他愛無い一言で傷付いたりする繊細な心を持つ者もいるらしい。

背を丸める少女に苦笑しつつも、少年は少女を神殿へと連れて行った。

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