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大陸英雄戦記  作者: 悪一
ラスキノ独立戦争
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崩壊

 ラスキノ防衛司令部は、魔術攻撃の報を受けるまでもなく状況を把握していた。眩い魔術の発動光と、発動した業火が司令部からでもハッキリと見えたからだ。


「それで、具体的な被害はどれくらいだ?」

「不明です! しかし、少なくとも十以上の魔術攻撃です。甚大な被害が予想されます」

「なんということだ……。しかし悲嘆してる暇はない。司令部直属の歩兵隊をすぐに増援に回せ。それと負傷者の救出と治療だ。上級魔術の第二波攻撃に十分注意せよ!」

「ハッ!」


 もしかすると、北西戦線は全滅しているかもしれない。カーク准将はそんな最悪の事態に備えた。




---




 私は、ユゼフがいた場所には戻らなかった。確かに心配だったし、今すぐにでも彼の安否を確認したかった。

 でも私にはその前に、やるべきことがある。


 敵の魔術兵部隊の正確な位置を知っているのは、現状では私達だけだろう。

 あの魔術攻撃を見た司令部は戦線を支えるために増援を派遣するだろう。でも、そこを狙われて増援が全滅したらまずい。ユゼフが生きてるにせよ、死んでいるにせよ、私はそれを止める義務があるし、その能力も機会もある。


 それに心のどこかで、ユゼフなら大丈夫だと思っていた。確証があるわけでもないし、無事なはずだと自分に言い聞かせることで、心を落ち着かせているのだと思う。


「みんな、敵の魔術兵隊に反撃するわ。第二波攻撃を防ぐのよ」


 こんな私についてきてくれた民兵、いや、信頼できる部下に作戦を聞かせる。と言っても単純明快。路地を通って死角から魔術兵に肉薄する。問題はどの路地を通れば通れるかだけど……。


「任せてください隊長。私はこの町で30年も暮らしてたんですから、路地の配置から友人の隠し金庫の位置までしっかり覚えています」

「頼もしいわね。案内お願いね!」

「はい! こっちです!」


 誰もいない狭い路地。人一人がようやく通れる幅しかない道を、その部下はするりするりと走り抜ける。

 もしかすると、ユゼフの防衛計画は結構穴だらけなのかもしれない。そう思った。


 部下の先導に従い路地を進む。途中で敵の歩哨と遭遇するもそれを難なく倒し、前進する。そして、街道に辿りついた。目の前には、先ほど屋上から見た魔術兵の群れ、パッと見た感じ20人弱。周囲にはそれなりの護衛がいるが、数は少ない。


「敵は油断してます。今すぐ切り込みを掛けましょう」

「駄目よ。切り込みは魔術詠唱が始まったら」


 第二次攻撃をしようと詠唱を開始すれば魔術師は集中し、隙ができる。詠唱前に切り込みを仕掛けてしまえば、もしかすると攻撃前に発見され魔術による手痛い反撃が待っているかもしれない。

 詠唱中に襲えば、そのリスクを軽減できる。そのまま乱戦に持ち込めば詠唱中止しても味方を巻き込む可能性がある魔術は使えない。

 問題は護衛の槍兵と剣兵か。槍兵が8人、剣兵が4人。槍兵は徴兵された“のーど”だろうから雑魚、でも剣兵は厄介だ。剣は扱いが難しいため徴兵した兵に持たせることは少ない。故にあの4人は職業軍人だろう。そしてこっちの戦力は剣兵5人だ。


「私は剣兵をやる。槍兵と魔術兵は2人ずつ。私の合図で突撃して、いいわね?」


 そう命令すると、みんなが一斉に頷いた。

 ここで必ず仕留める。


 通りの魔術師が、詠唱を開始した。


「今よ!」




---




「ちくしょう痛かった!!」


 魔術攻撃で倒壊した建物からなんとか脱出できた。体のあちこちが痛いってもんじゃない。


「おい、ユゼフ! 無事か!?」


 橋の方から人がたくさん近づいてきたのが分かった。司令部からの増援だ。


「あー、なんだラデックか……」

「“なんだ”ってなんだよ。人が心配して駆けつけてみればそんなこと言いやがって」

「白衣の天使だったら安心して死ねたんだがな……」

「そういうこと言える気力があるなら、あんた50年は死なねぇよ」


 ラデックは笑いながら俺に覆いかぶさっていた瓦礫を退かしてくれた。助かった……。


「立てるか?」

「んー、ちょっと無理だな。右足の骨が折れてる」

「右足がなくなってた、っていうのよりはマシだな」

「あぁ、全くだ。にしても服がボロボロになっちまったな。司令部に替えの服ってあったか?」

「知らん。お前が自分で確かめろ。それに軍服なんてボロボロにしてなんぼだろ」

「ごもっともです」

「ちょっと待ってろ。治癒魔術師呼んでくるから」

「あんがとさん」


 一通り冗談を言った後、周囲の状況を確認する。

 攻撃から免れた防衛隊と、増援の友軍が結構いる。戦線も問題なく維持できてるようだ。被害は意外と軽微なのかも。

 一方敵の方は……そこらに建物に潰された帝国軍の死体があった。奴らは味方ごと俺らを壊滅させようとしたのか。でも、あまり効果があるとは思えない。確かに被害は小さくはないが、味方を巻き込んだ甲斐はないな。

 暫くすると、ラデックが治癒魔術師らしき白衣のオッサンを連れて戻ってきた。そこは白衣の天使にしろよ。あれ、でも天使だからといって女子だとは限らないんだっけ?


「にしても、帝国の奴ら随分派手にやったな。味方も巻き添えとはな」

「あぁ。どうも敵が痺れを切らしたようだね。効果のほどは微妙だったみたいだけど」

「そうだな。お前生きてるもんな」

「我ながら運がいいよ。勝利の女神様に愛されてるみたいで」


 ちなみにこの世界の勝利の女神様は美人である。絵画でしか見たことないけど。


「そういや、マリノフスカ嬢はどうした? まさか巻き込まれたのか?」

「いや、サラは敵後方の索敵をしてる最中だった。まだそこら辺の路地にいるかもしれないし、もしかしたら反撃してるかもね」

「反撃?」

「敵後方を索敵して魔術兵見つけてそのまま切り込みかけてる可能性さ」

「なるほど。あいつならやりかねないな」

「でもちゃんと戻ってくるなら正しい判断だと思う。第二次攻撃を妨害できるし、魔術兵に甚大な被害がでる魔術攻撃を敵が諦める契機になるかもしれない」

「そういや第二次攻撃が来ないな。10分もすれば詠唱は終わってるだろうに」

「じゃ、サラ大先生が大活躍してるのかもね」


 なら、俺も俺の仕事をしよう。




---




「うるぁああああああああ!!」


 私は叫びながら敵護衛剣兵と切り結ぶ。敵剣兵の練度は高くない。ユゼフよりちょっと強いくらいだ。でも4人となるとさすがにきつい。

 私は初級魔術を使って包囲を避けつつ、1人の敵に固執せずに、立ち回りを考える。剣を使い、時に足を使い、時に拳、どれを選択し、誰を攻撃し、牽制するか。私の役目は護衛を倒すことじゃない。味方が魔術兵を倒す時間を与えるのが役目だ。無理はしなくていい。多少の無茶はするけど。


 剣兵を相手にしつつ、部下の様子を見てみる。魔術兵は突然の来客者に対応できず次々と仲間に倒されて潰走している。槍兵を相手にしている部下も問題ない。接近してしまえばこちらのものだ。


「隊長! 敵魔術兵の半数を殲滅! 残りは逃げました!」


 いつの間にか隊長になっていた。でも、拠点があの様子じゃ隊長になるかもしれない。そう思うと、余計死ねないわね。


「一旦退くわよ!」

「はい!」


 やることはやった。後は逃げるだけ。でも、そう上手くいくはずはなかった。敵の増援がやってきたのだ。

 前から、後ろから、路地も完全に固められて、私たちは完全に囲まれた。


「……まずいわね」

「これではお手上げです」


 部下の一人が困り果てた顔をする。


「降伏は趣味じゃないわ」

「ではどうするんです?」

「決まってるじゃない。中央突破よ!」


 そう叫んだ私は、味方がいるであろう防衛拠点の方角に向かって駆け出した。


 まさかこの状況で突撃してくるわけない。そんな顔をしていた敵剣兵の喉を掻っ切る。後ろを見ず、周りを見ず、ただ前を見て突撃した。

 部下も多少慌てていたけど、半秒後には私と共に突撃してくれた。乱戦に持ち込めば敵は魔術を使えない。でも、こっちは使いたい放題だ。撃てば当たる状況、私たちは初級魔術を乱射して強引に敵陣形をこじ開けた。

 橋方面の敵の殆どは槍兵のようだ。広いとはいえ空間に余裕がない街道で、小回りの利かない槍。剣兵にとってはただの的。

 私はさらに前進する。通行の邪魔になる槍兵を切り捨て、道を切り開く。


 私の目の前に槍兵2人が躍り出た。槍による刺突をかわして横一閃で倒そうとして……できなかった。敵が勝手に倒れたのだ。倒れた敵の後ろに立っていたのは、見たことのある風貌の男。


「大丈夫か!?」


 そこに立っていたのは、馴染みの友人だった。

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