真っ赤に燃える髪(改)
……撒いたかな?
うん、どうやら撒いたらしい。よかった。一時はどうなるかと思った。
誰だか知らないけど、あの男子のおかげでここまで逃げ切れた。
さて、さっさと女子寮に行ってこのことイアダに報告しなきゃ。あの男のお礼は明日以降でも構わないはず。そもそも誰か知らないし。
よし、じゃあ早く……。
「おーい、待ってくれー。おーい」
……どうやら追手が来たらしい。意外と立ち直りが早い。もう一度頭を燃やしてやる。
まずは気づかないふりをする。
初級魔術は連射が効く分、精度があまり良くない。だから必中距離まで近づくまで撃つのは待つ。
追手はどんどん私に近づいてくる。
あと10歩、9、8……。
あぁ、もう我慢できない! 当たれ!
私は思い切り叫んだ。叫ぶ必要はないが、心なしか威力が増す気がするのだ。丸焦げにしてやる。
「火球!!」
「え、ちょ、待っ。う、うわああああああああああああああ!?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ごめんなさい!」
「あ、いや、良いんだよ。当たらなかったし」
赤い髪の毛の女の子を追いかけたら赤い火の玉が飛んできた。
ギリギリのところで回避したからよかったものの、もし当たっていれば30歳になるまで髪の毛が生えてくることはなかったかもしれない。
うん、ホントによかった。
赤髪の女子は腰を直角に曲げて謝ってきている。見かけによらないな。こういう女子って謝らないと思ってた。
「で、それで、さっきのはなんだったの?」
どっちが悪いだのの話で堂々巡りする前に話題を変えよう。
いつまでも美少女に謝らせるのは良心の呵責が……ないかな。興奮する。おっと、今はそんなことはどうでもよろしい。時々忘れそうになるが俺はまだ10歳だ。
発情するには3、4年早い。
「さっきの……?」
「ほら、なんか男に囲まれてて『ぐへへお嬢ちゃんちょっと良い事しようじゃねーかぁ?』『くっ、殺せ……』『ほう、そんな強気に言ってもこっちは正直だぜぇ?』とかやってたじゃない?」
「やってませんけど……?」
いかんいかん。つい妄想が口に出てしまった。彼女ドン引きしてるじゃないか。そういうのは二次元だけでいい。
「失敬。で、さっきのは?」
「あぁ、えっと、これのことで揉めて……」
彼女が見せてきたのは木箱だ。特に何も装飾はされていない普通の木箱。
「えーっと、これ中身見ちゃ……」
「駄目です」
だよね。
「でもこの箱がどうしたの?」
「えーっとそれは……」
彼女は説明下手だったので俺が要約しよう。
彼女は木箱を紛失した。木箱の中身は言えないが、今日に合わせて用意した大切な物らしい。なんでそんなものを紛失するんだか。
それはともかく、なくした箱はどこかで見つけたのか拾ったのか、あのハゲ男が持ってた。
彼女はそれを自分の持ち物だと主張して男に返還を求めたが、あのハゲの傍に居た三下が性的な見返りを求めてきたという。そして野郎どもに囲まれていたところに俺が来た、ということだ。
ふむふむ。
……あれ? 非常にまずい展開かもしれないねこれ。
「あのー?」
彼女が心配そうにのぞきこんできた。
うん、かわいいんだけどね。それどころじゃない気がするんだ。
あ、そう言えば。
「そう言えば自己紹介まだだったね。俺はユゼフ・ワレサ。第1学年第3組、10歳です」
「……あ、年下」
「えっ?」
「……コホン。私の名前はサラ・マリノフスカ。第1学年第3組、12歳よ!」
……え? 年上?
「なによ。どうしたの?」
「い、いえ。なんでもございません」
俺が年下だと分かった瞬間高慢になった。そういうの嫌いじゃない。
「ま、それはともかくさっきはありがと。助かったわ」
「そりゃどういたしまして」
本当に感謝してるのかどうか怪しいもんだ。まぁいいや。
「じゃ、私は女子寮に戻るわ。同じ組みたいだし、また明日ね」
「……戻らない方が良いと思うよ?」
「は?」
いや本当に。今戻ったら薄い本がどうのこうのどころの騒ぎじゃなくなると思う。