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大陸英雄戦記  作者: 悪一
戦争をなくすための戦争
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当たって砕けろ

 夢にも思いませんでした。

 ……なんて言葉、もう人生で何回使ったでしょうか。十数年しか生きていないのにも拘わらず、こういう無茶ぶりをされることに慣れてしまった自分がいる。


「大佐、恨みますよ……」


 これは無事に作戦が終わったら、なにかを奢ってもらわないと気が済みません。

 そうだ。なんなら「百合座」で奢ってもらうとしましょうか。


 そんなことを思いながら、私は故郷のエスターブルクに再び舞い戻ってきたのです。

 ここを出る時に使った道を使い再度潜入。どこにでもいる、普通の娘として行動を開始します。


 その時、ふと右手に目がいきました。

 鈍く輝く銀色のものが、私の右手薬指にはまっている。これを見ると、少し――


「…………いけません。また腹立たしくなってきました」


 怒りがこみ上げてきます。


 この怒りを収めるためには、もう奢るとかそいうレベルじゃありません。

 大佐にはいっそ、店ごと買収してもらいたいです。



---




「――というわけです、ご理解いただけましたか?」

「確かに私の得意分野ではありますが……。情報伝達に難がありますよ?」

「そこは鳩でも馬でもご本人でも、お任せしますよ」


 フィーネさんは少し考え、首を傾げつつも俺の願いを聞いてくれた。

 シレジアとオストマルクの同盟関係ここにあり、である。


「しかし、骨が折れますね。しかも重要な任務……」

「嫌ですか?」

「まさか。最近情報省が軽んじられている気がするので、帝国情報省未だ健在なり、ということを教えてあげますよ」


 若干だが、ドヤ顔で胸を張るフィーネさん。

 もう長い付き合いだが表情の変化もだいぶ読み取れるが、問題はそこじゃない。


「…………」

「……? どうしました?」

「なんだかサラさんに似てきましたね?」

「……そうですか?」


 うん。こういうところでよくわからない自信たっぷりの意気込みを見せる所とか似てると思うが、気のせいだろうか。


「それは少し……」

「嫌ですか?」

「そうかもしれませんね。恋敵(ライバル)ですので」

「…………そう、ですか」


 自分で振っておいてなんだが、こういうときなんて顔をしたらいいかわからない。


 それはそれとして、話が終わるとフィーネさんは早速準備に取り掛かる。

 帝都に再び戻るだけなのだが、その際必要になるもので不足するものはシレジア軍から――もとい、ラデックから供与することとなる。

 まぁ、一般通過スパイ娘なのでそれほど多くの物資は必要としないだろうし大丈夫だろう。


 十数分後、再び現れたフィーネさん+随行員は商人のような格好をしていた。恐らくこういうことを想定して予め帝国軍が用意していたものだろう。さすが情報省である。


 そしてフィーネさんの左手薬指には、とあるものがはめられていた。

 まぁ言うまでもなく指輪。位置的には婚約指輪である。


「おや、フィーネさん。誰かと結婚したんですか?」


 ついそういう冗談を言ってしまったのが、運のつきだろうか。

 フィーネさんは数秒凍りついた後、たまたま通りかかったサラさんを確認するや否や、


「サラ中佐。なにも聴かず、とりあえずユゼフ大佐を思い切り殴っていただけませんか?」

「え? いいわよ? どこがいい?」

「待ってくれ。俺が悪かった。フィーネさんすごく似合ってる。最高ですし可愛いしずっとそのまま――」

「鳩尾と顔面に一発ずつでお願いします」

「お安い御用ね。最近ご無沙汰だったから、力入り過ぎちゃうかもねー」


 みんな! 女の子にかける言葉は慎重に選ぼうね!

 そんなことを思いながら宙を舞った俺は、フィーネさんが指輪を右手に嵌め直すところを見ていた。




 フィーネさんが任務のために帝都へととんぼ返りするなか、俺はようやく痛みから解放された。

 サラさん、手加減とか一切してくれなかった……。


「何があったかよくわからないけど、フィーネがあそこまで言うってことはユゼフが悪いに決まってるわ」

「……その点に関しては反論の余地もございません」


 地平線の奥へと消えるフィーネさん一行を見送りながら、サラさんにもフィーネさんが何を目的に旅立ったのかを伝える。

 フィーネさんほど察しの良くないサラさんは何度か質問を挟みながらも、おおよその作戦内容は理解できた様子。


「つまり、私たちは私たちの得意分野で戦えばいいってことよね」

「ご名答」

「んでもって、フィーネのことだから完璧に任務を遂行してくれるに違いない」

「そうだな」

「で、ユゼフは完璧に作戦を遂行できるのかしら?」


 ニマニマと笑いながらサラさんが聞いてくる。

 そんなもの、答えは決まっているじゃないか。


「自信ない……」

「……ま、あんたはそうでしょうね」


 呆れ半分、諦め半分と言った感じでサラさんが答えた。すまない、こんな情けない男で……。


「まぁ、いざとなったら私がなんとかするから、ユゼフはいい感じに考えといてね」

「……おう」


 でもまぁ、これが俺たちのスタイルということなのだろう。


「……サラ、全軍に伝達。帝都エスターブルグ攻略に向け、前進再開!」

「諒解!」




次話、エスターブルグ攻防戦


------


↓更新停止中に執筆していた新作ファンタジー。ポンコツクズ主人公ですがよろしくお願いします(宣伝)

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