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大陸英雄戦記  作者: 悪一
戦争をなくすための戦争
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進撃の帝国軍

 日が経つにつれて、東大陸帝国軍の進撃状況がわかってくる。

 偵察なんてしなくても、勝手に入ってくる。帝国軍がそのことを隠していないし、それを誇示するためにあえて噂を流しまくっているのだろう。


 東部最大都市ヴィラヌフが帝国軍の手に落ちた。

 これだけで、帝国軍はこの戦争において黒字を確保したことは間違いない。ここでいったん戦争を止めて、あとは条約で更なる領地の割譲を迫る、という手も帝国軍にはあるだろう。


 けれど彼らは進撃を止めない。


 11月15日。

 雪がちらつくシレジア王国。早いもので、内戦から1年が経とうとしている。冬の訪れとともに帝国軍の進撃が鈍化……することはなかった。なにせ王国軍の抵抗が殆どないから。


 グダンスク方面の帝国軍はまだ南下を始めていないのだが、アテニ湖水地方に布陣していた帝国軍本隊はシレジア王国東部の都市を次々に落としている。


 しかも無計画に落としているというわけではない。軍事上重要な箇所を選んで、価値の低い都市や村落は放置するか、住民を疎開させて焼き払う等の、極めて軍事的に合理性のある動きだ。


 これだと、帝国軍の補給線が伸びきるのを待って攻勢に出るというのは難しいかもしれない。


 それに占領地を統治するのは、今帝国軍を直接率いている皇帝セルゲイ・ロマノフ。彼は帝国においては比類なき内政改革を行った人物。占領統治も難なくこなすだろうということは、容易に想像できた。


 こうなると、自力で勝てる算段なんて立てられるはずもない。


「――そういう理由で、オストマルクには是非派兵をしてほしいんです。そのための、今日までの外交努力があったのですから」


 俺は目の前にいる女性に頭を下げる。

 銀髪で金色の瞳を持つ美少女で、伯爵家の御令嬢にして情報の専門家で情報省勤務。自分より年下ということが今でも信じられない。


「…………」


 そんな彼女、フィーネ・フォン・リンツは難しい顔のまま答えてくれない。

 隣国とは言え近いとは到底言えないオストマルクとシレジアを短期間のうちに様々な調査を行いつつ行ったり来たりする彼女の顔には、珍しく疲労の顔があった。


 幾度か紅茶カップを口につけ、そして中身が空になったことに気付いた後に、ようやく口を開いてくれた。


「……個人的には、出してあげたいのですが」


 その後に続く言葉はなかったが、それで最早答えだろう。


「出来ませんか」

「はい」

「理由を聞いても?」

「……ユゼフさんにだけ、特別に。このことは御内密に。エミリア殿下に対しても、今は内緒にしてください」


 そう前置きして、フィーネさんは喋ってくれた。


 曰く、クーデターの予兆がある、と。

 

 それを聞いた途端、俺はフィーネさんが言いたいことが全てわかってしまった。出せるはずがない、そんな状況で軍を外国に派遣するなんて。


「詳しいことはまだ調査中ですから確かなことは言えません。ですが、その可能性がある限り、我々は動けないのです」


 そしてこれがおそらく東大陸帝国の策謀によるものだと、確かに理解できた。証拠は何もないが、タイミングがあまりにも良過ぎる。


 誰かの台詞ではないが「犯罪によって一番の利益を得る者が真犯人」らしい。

 今回の場合、一番の利益を得る者は間違いなく東大陸帝国である。オストマルクという列強を無視して弱国を蹂躙できるのだから。


「……帝国臣民と、皇帝陛下の御身に危険が及ぶ。だからこそ、我が国は動けないのです」


 申し訳なさそうに、目を伏せて淡々と話すフィーネさん。


「今回私がシレジアに来たのは情報提供が主ではなく、軍隊を動かせないことに関しての謝罪です。非公式の謝罪ではありますが……本当に申し訳ありません」


 フィーネさんが頭を下げる。

 まさかこんなことになるとは思いもしなかったし、彼女の謝罪を見たいとも思わなかった。


「……仕方ないでしょう。シレジアにはシレジアの、オストマルクにはオストマルクの事情があります。東大陸帝国にもあるでしょう。それをとやかく言っても、詮無きこと。謝罪は不要です」

「…………ありがとうございます」


 形式的な感謝の言葉を放つフィーネさんの口調には、やはり疲れが見えていた。もう少し情報が欲しいけれど、これ以上彼女と話すことは彼女の体力の問題もあってそれは出来ない。


「フィーネさん。今日はこれで終わりにしましょう」

「しかし……」

「そんな疲れ切った顔をした恋人と真面目な話をするのって、結構つらいんですよ?」

「……そうですね。私もです。私も好きな人の疲れ切っている顔を見ながら話すのは辛いので」


 マジか。俺も疲れてるのか。

 どうも自分のことになるとそういうのってわからないからな……。


「何を考えているのやら。サラ中佐と色々なことをしていたんじゃないですか?」

「……特に何もしてませんよ」

「嘘ですね。大佐はわかりやすいです。疲労でさらにそれが顕著になっていますね」


 ふふっ、と笑って指摘しながらなぜか俺の頬を指でつつくフィーネさん。可愛いのでもっとやってほしい。


「コホン。まぁ、それはさておくとして、部屋に案内しますよ。ここは元士官学校ということあって、女性用の寮舎もあります。ちょっと荒れていることと荒らされていることに目を瞑れば快適だと思いますよ」

「……そんなところに自分の恋人を案内するユゼフ大佐の神経がよくわからないのですが」


 むっ。そう言われるとぐうの音も出ない。

 女性用寮舎ということもあって警務隊がちゃんと警備してはいるのだが、オストマルクからの使者であり女性であり自分の大切な人をそんなところに放り込むのは大問題だろう。


「では、どうします?」

「大佐の部屋に行きます。一緒に寝ましょう」


 …………。


「かえって疲れません?」

「何を想像したのですか?」

「…………」

「……まぁ、したい気持ちはなくはないですが、本当に疲れているのでなしにしておきます」


 フィーネさんもそんなことをよくもまぁ真面目な顔で言えるよね。頬がちょっと赤くなっているのと、それを隠そうと余所見しているのがバレバレだけれども。


「でも出来れば抱き枕が欲しいですね。ぎゅーっと抱き着いていると安眠できます。具体的に言うと170センチくらいのものが欲しいんですが、丁度いいのはありませんか?」


 少し小悪魔的な笑顔を向けるフィーネさん。

 それに対する俺の反応と言えば、機械的である。


「…………ソウデスカ」


 ちなみに俺の身長は170センチくらい。つまりはそういうことなのだ。

某軍艦擬人化スマホゲーやってたら更新を忘れていたというわけではないです(目逸らし)

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