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大陸英雄戦記  作者: 悪一
戦争をなくすための戦争
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よくない報告

 5月10日。


 エミリア殿下から俺の下に2つの報告が同時に届いた。

 殿下曰く「よくない報告」と「もっとよくない報告」であるらしい。


 サラは騎兵隊の訓練があるので、今回は一人で宰相府へ赴く。殆ど顔パスで国の重要施設に入れてしまう自分の身分が最近よくわからないと感じつつ。


「では、どちらから聞きたいですか?」


 そしてエミリア殿下に会い開幕劈頭、そんなことを言われた。どうやら雑談している暇もないらしい。


「……マシな方から」

「わかりました。――はい、こちらを受け取ってください」


 と、殿下が一通の封筒を渡す。

 封筒には何も書かれていないが、様式が軍務省で使われている物だと言うことはわかった。その時点で何か嫌な予感がするが「よくない報告」であることは間違いないので、思い切って開ける。


 そしてその中に入っていたのは、一通の辞令。



 王国軍所属 ユゼフ・ワレサ


 上記の者、先の戦いにおいて参謀としての職務を全うし、かつ味方の犠牲を最小限に抑え、叛乱終結の一助となったことを評し、王国軍〝大佐〟に任命する。


 軍務尚書代理 エミリア・シレジア



「……あの、どこから突っ込めばいいのでしょうか」

「大佐では不満ですか?」

「いや不満というか二階級特進してるのですが」

「内戦においては中佐に野戦昇任を果たしているから何も問題はありませんよ」


 そうだけれどもあれはあくまで一時的な措置であって内戦終結後は少佐に戻ってるからとか待ってその前にそれ以上に重要な事がありまして!


「あの、最後の『軍務尚書代理』というのは……」

「閣僚人事、進んでないんですよね」

「……」


 ニッコリと笑うエミリア殿下はとても美しかっただけに、なにも言えなかった。


「少し遅れましたが、私からの誕生日プレゼントだと思ってください」

「は、はい。ありがたく頂戴致します……」


 あぁ、これでついに将官への道が目の前にあるというわけか。とんでもないことこの上ない。

 いやしかし将官への昇進は昇任試験を受けるか名のある大貴族に大抜擢されるかしないとなれないから大丈――いや、ぜんぜん大丈夫じゃないわ。目の前に大貴族どころか王族がいますよ。


 ユゼフ・ワレサは静かに暮らしたい。それをするには生まれる国が悪かった……。


「あ、まだ渡すものがあります」

「まだあるんですか!?」


 つい俺が突っ込むと、くすくすと笑いながら殿下は「キリス・オストマルク戦争の武勲を含めると昇進ひとつで済むようなものではありませんからね」と言って、二つの箱を取り出した。


 最早開けるまでもないが、開ける以外の道も無し。これもエミリア殿下からの誕生日プレゼントなのだろう。


「第三級白鷲勲章と、銀十字剣付き白鷲騎士勲章です。よかったですねユゼフさん、銀十字剣付き白鷲騎士勲章は騎士カヴァレルに送られる最高級の勲章ですよ」

「……ちなみに推薦者は」

「前者はローゼンシュトック元帥から、後者は王女としての私からです」


 ですよね。

 勲章を貰うと副賞としていくらかの賞金、そして退役後の年金が増加がある。さらに銀十字中略勲章は、武勲によって男爵位以上を手に入れるのに必要な勲章となるらしい。

 これを取ると、平民からは殆ど貴族みたいな扱いをされる。


 ……あぁ、ただの平民だった時代が懐かしい。これで名目的にはともかく実質的には貴族様か。


「大変な栄誉、ありがとうございます。今後も王女殿下に忠誠を尽くし、精進してまいります」

「えぇ、私もユゼフさんの悪巧み、楽しみにしてますね」


 だからそんな私悪いことしてないし大したこともしてないって、本当に。信じて。

 たぶん俺は涙目になりながらお辞儀をしたに違いない。よく泣かなかったと褒めて欲しいくらいだ


「――これが『さらによくない報告』とやらですか?」

「あ、すみません。これはまだ『よくない報告』の範囲ですから安心してください」


 待って。これ以上まだなにかよくない報告があるの? 帰っていい? いくらエミリア殿下が目の前にいるとしてももっと悪い報告が来たら流石に心折れるよ?


「と言うわけで、入って大丈夫ですよ」


 と、殿下が隣の部屋に声をかけた。たぶん応接室だろう部屋から出てきたのは、銀髪の美少女である。

 はい、お馴染みの彼女である。


「――お久しぶりです、ユゼフ〝大佐〟。寂しかったですよ」

「……あー、はい。私も寂しかったですがそこまで強調しないでください、フィーネさん」


 フィーネさんこと、フィーネ・フォン・リンツ。

 リンツ伯爵家の娘で、オストマルク帝国軍情報参謀にして帝国情報省所属。階級は中尉。

 フィーネさんはその身分を存分に使って情報を各地から集めて、玉石混交の情報を整理するのが得意な情報の専門家だ。


 そして、サラと共に俺の――まぁ、その、恋人でもある。ごめんなさい。同時に好きになってごめんなさい。でも二人がそれで許してくれるから甘えてます。はい。


「ユゼフ大佐。そこは久方ぶりに会う恋人に対してキスなりハグなりをして歓迎するところであって、決して顔を引き攣らせて手を上げる場面ではないと思いますが」

「エミリア殿下の前でそれは憚られます」

「なるほど、賢明な判断ですね」


 と、そこでフィーネさんがちらりと殿下の方を見ると、なぜか殿下は両目を手で押さえて「私何も見てませんからやるならさっさと早くして」というポーズをとっていた。


 いや、やらないから。


「へたれですよ」

「場を弁えているだけです」


 とは言ったものの、結局フィーネさんとその後軽くハグはしてしまったのだけれども。


 しかしフィーネさんの帰還が殿下の言う「もっとよくない報告」だとは思えない。ということは、フィーネさん持っている情報が「もっとよくない報告」と言うことなのだろう。


 ……これはちょっと、覚悟しておかないと。


階級メモ


ユゼフ:大佐

サラ:中佐

ラデック:少佐

エミリア:少将

マヤ:少佐

フィーネ:中尉


シレジア勢の昇進が早いのは、相次ぐ戦争で武勲を立てた&慢性的な士官不足に陥っているせいです

フィーネさんが遅いのではなく、他が早すぎます

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