帝国の介入
内戦は国内問題であるか。
答えはYES。ただし国際問題でもあるので、国内ですべて解決できるわけではない。
王女派の力は大公派に比べて劣っている。
軍人の頭数でもそうだが、国力――と言っていいのかはわからないけど――でも劣っている。
国力の差というのは、即ち兵站の差に直結する。いくらラデックが有能だろうと、物資がそもそもなければ意味がない。グリルパルツァー商会が抜け道利用して物資の売買をしてくれようが、それを買う金がなければ意味がない。
内戦で物流が分断されてしまった以上、国内で不足分を賄うのは無理だ。特に金、マネー。何をするにも金はかかる。戦争だって金はかかる。
支援してくれる国が必要だ。戦後に抱えることになるだろう莫大な戦時国債が気になるが、どうせ勝たなければ何もかもが紙くずである。
いや国債とは言わずロハでお金恵んでくれてもいいのよ? チラッ。あぁ、リゼルさんのかっこいいところ見てみたいなー。グリルパルツァー商会の底力見てみたいなー!
「さすがにそこまで我が商会の財務に余裕があるわけではありませんよ、ユゼフさん?」
「ですよね」
即答で拒否された。
「じゃあ国債は……」
「どうせ返せる見込みないでしょう?」
「まったくもってその通りで」
グリルパルツァー商会は案外ケチである。知ってるけど。
まぁ、外国資本に戦時国債と言う名の鎖を首に括りつけられて属国になるオチが見えてるのであまり絶望はしていない。なんとか国内で処理するとしよう。いざとなったら兵士の俸給から天引きして国債にあてるとか大公派貴族の財産を根こそぎ徴発して戦争資金にあてるとしよう。
季節は相変わらず冬。
しかし例年と比べて厳寒だった年末年始は通り過ぎ、2月は例年通りのクソ寒さになった。あんまり変わっていないって? いやいや、業務用冷凍庫よりも家庭用冷凍庫の方があったかいじゃん?
「ところでリゼルさん、各国どんな状況なんです? 内戦のおかげで情報網が寸断されてまして……」
クラクフを中心に情報網を作っていたので、クラクフスキ公爵領が寝返ったせいで情報網はまるで役に立っていない。辛うじて、東大陸帝国との非武装緩衝地帯に駐在する武官から情報が入ってくるだけだ。
グリルパルツァー商会はかなり手広く販路を広げているので、周辺国の情報は入って来やすい。かつてカールスバートで内戦が起きた時の様に。
が、俺がそんな質問をしたところ、リゼルさんは笑みを浮かべてこう言うのである。
「いくら払ってくれますか?」
「…………」
「冗談ですよ。たまにはサービスしてあげます」
全然冗談に聞こえなかったが、危ない所だった。なにせ払える料金なぞ「ラデックを1年間無料で好きにして良い」しか思いつかなかったのだから。夫婦なんだから意味ないだろって。
「と言うのは、各国かなり動きは鈍くて報告するようなことがないんです」
「あ、そうなんですか」
そもそも商品が手元になかったということだった。
「東大陸帝国が皇帝崩御と新皇帝の即位でドタバタしてるから早々に『不介入』を宣言してましたけど……リヴォニア貴族連合はどうなんです? 反シレジア同盟ですし、カールスバート内戦にも介入しようとしてましたよね?」
「そうですが、あちらはあちらで大変なんですよ。『合議制』と言うのは厄介ですね」
「あー……」
うん、わかった。
リヴォニア貴族連合は拒否権を持つ常任貴族5人と、拒否権を持たない非常任貴族10人で構成された元老院と言う合議体が国家を統治している。
わかりやすく言うと国連安保理。
肝心な時に何も決められない、決められるとしても「非難声明を出す」くらいの役立たずで有名な国連安保理である。
「一部の貴族が利権を主張して拒否権を発動したということですか?」
「そういうことです。まぁその一部の貴族というのが、オストマルクと繋がりの深いヘルメスベルガー公爵のことなんですが」
「なるほど」
あっちはあっちで派閥争いが大変そうだな……。というかまぁ、周辺諸国で派閥争いをしていない国が殆どない事だが。
派閥争いが表立ってない国なんて、対立勢力が一掃されたカールスバートと東大陸帝国くらいなものである。……と、いうことは介入があり得るのはカールスバートくらいしか残されていない? そして今のカールスバートは、かなり王女派寄りだ。
「カールスバートって、今どんな感じですか?」
「内戦が終わってまだ日は経っていません。周辺諸国の内情が安定しないせいで下手に軍備を削減できない中での国家再建ですから」
あ、無理だこれ。カレル陛下が過労死するやつだ。
「他力本願は無理か……」
「ユゼフさんは軍人なのですから、自力で何とかしてください」
何の情報も金も物資も得られず、その日のリゼルさんとの会談は終了してしまった。
だが後日、意外な国から使節が派遣された。
オストマルクでもなく、カールスバートでもなく、ましてや東大陸帝国でもリヴォニア貴族連合でもなかった。
ローゼンシュトック公爵邸の応接間に現れたのは女性、しかもかなり若い女性。エミリア殿下よりも幼い女性であった。たどたどしい口調で、彼女は自己紹介する。
「お初にお目にかかる、エミリア王女。私の名はキリス第二帝国の皇帝、メリナ・アナトリコンである」
皇帝メリナちゃん(14)
キリスはトルコの位置にあるのできっと褐色ロリ。




