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大陸英雄戦記  作者: 悪一
波乱の世紀
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その後の話

「どんな魔法使ったんだ?」


 エミリア殿下が目を赤くしながらローゼンシュトック公爵家に戻ってきたとき、ラデックに事情を説明したら彼からそう聞かれた。


「……あえて言うなら喧嘩、かな?」


 ので、正直に答えた。

 押してダメなら断崖絶壁まで押し続けろ、と昔の人は言いました。嘘です、言ってません。


 公爵家の中にあてがわれた自分の部屋に向かう途中、俺はラデックに教会の中で何があったのかを話した。マヤさんにも後で報告するつもりだ。


 マヤさんやラデックのように慰めて傍によりそって話し合ってもダメならば、いっそ怒りに任せて本音を喋らせた方がいいのではないかという話だ。そのように仕向けるために上げて落としてどこぞの英国人の様に皮肉を交えて煽ったのだがその甲斐はあった。


 もしそれで期待と真逆の結論が出てしまったらどうしたか、と問われたら……たぶん何もしてなかった。エミリア殿下の人生だもの。一人の女の子として生きたいと言われたら、その通りにさせてあげたい。17年も王女やってればそれで十分だと思います。


 しかしそのようなことにはならなかった。

 殿下はあえて茨の道を選んだのだ。

 なら、俺たちはそれを精一杯支えるまで。それが臣下としての義務だし、友人として当然のことでもある。


 問題は怒らせてしまったことには違いないので、エミリア殿下に嫌われていないかが不安なことが。


「まぁ、そういうことなら問題ないだろう。殿下は敏い方だから、ユゼフの作戦に気付いたと思うしな」

「なら尚更嫌われるかなぁ……」


 相手を怒らせるために煽りまくるのは人間としてダメだと思います。手段に拘ってる場合じゃなかったとはいえ……。

 などと悩んでいたら、ラデックが足を止めた。どうしたと思いながら振り向けば、そこにはこめかみを抑えているイケメンの姿が。


「なぁユゼフ。お前はそろそろ自覚した方がいい」

「なにが?」

「お前は女にモテるってことをだ」


 ハハハ、ご冗談を。


「ラデック、お前が士官学校で貰った恋文の数を数えろ」

「30からは数えてない」


 殺す。


「俺との比較はどうでもいいんだよ。ユゼフの話なんだから」

「とは言っても俺は言う程モテないと思うんだ」

「美少女二人侍らせておいてその台詞はいつか刺されるぞ」

「現状、俺は二人の内どちらかに刺されそうだけど」


 サラさんとフィーネさんは今は仲良いから俺の特殊事情があっても赦されてる状況だけど、将来までは保障できない。いや、二者択一できないへたれな俺が悪いだけなのだが。


「って、ラデック。この話、殿下の話と何か関係性があるのか?」

「ないと思ってるのなら俺はお前を殴る」

「なんでよ」


 この話が関係あるとしたら、エミリア殿下が俺の事を好いているということになるよ? いやいやないない。


「だってエミリア殿下は王女様だよ? 普段は普通に親友として交流があるけれど、本来はそれすら許されない第一王女なんだよ?」

「伯爵家の娘と付き合ってる男の発言じゃねぇよな」

「……まぁそれはいいとして。仮に……仮にだよ? 殿下が俺のことを好いていたとしても、俺は嬉しさよりも『困る』という気持ちが勝るんだけど」

「嫌いなのか?」

「まさか」


 確かにエミリア殿下は綺麗だし可憐だし優秀で人が良くて優しくてでも年相応とは言えない背丈体格は女性としてかなり魅力的だと思うけども。


「今回もそうだったけど……王族ってしがらみは多いし血縁に拘るし面倒事も多いだろ? たぶん、殿下と俺は親友がちょうどいいと思うんだよ。それがわからない殿下でもないだろうし」

「……まぁ理屈としては正しいだろうが」

「でしょ?」


 アイドルの事を好きになっても仕方ない。どうせ届かぬ思いである。それと同じことである。たぶん。


「でも殿下のことは親友としては好きだし、その点では仲良くしていきたいというのが本音」


 俺が正直に言うと、ラデックは天井を仰ぎながら呟いた。


「……親友でいたいなら、優しくするのも程々にな」

「…………なんで?」

「男女っていうのはそういうもんだからだよ」


 手遅れ感あるけどな、と彼は続ける。いやいや、何が手遅れなんですかね。


「まぁ、手っ取り早い解決法はさっさと結婚することだが……」

「待って。それは考えたくもない事だから」


 世の中には重婚罪なる法律があってね、片方と結婚したら片方とは結婚できないわけでしてそれがまた面倒な話に……。


「そうは言ってもなぁ、マリノフスカ嬢は19歳、来年20歳だろ? さすがにその年齢で結婚してないっていうのは可哀そうだろう。世間体的な意味でな」


 確かにそうなのだ。

 何せかの有名なロミオとジュリエットは16歳と14歳で、ジュリエットの乳母が「他の子はもう結婚してるんだから大人になれ」と諭されるシーンがあるくらいだ。そう考えると20歳は……うん。


「でも、俺にも心の準備というものがあってな」

「7年間何をやっていたんだか……まぁいい。今日は試練の日だからな」

「はい?」


 ラデックが意味不明で意味深なことを言ったところで、俺は俺にあてがわれた部屋についた。部屋は豪華ではないが、平参謀でしかない一介の中佐としては普通である。このご時世、屋根と寝床があるだけ贅沢なのだ。


「じゃあラデック、また明日。今日はなんだか疲れ――」

「いや、その前にユゼフ。俺はお前に謝ることがある」

「なに?」


 俺が疑問に思いつつ、しかし一日中歩いたせいで疲労もあるから早くベッドに寝転がりたいという気持ちを抑えきれず部屋に入ると――、


「ユゼフ。話は聞いたわ」

「随分とお楽しみだったようですね。首尾は如何でしたか、中佐」


 サラさんとフィーネさんが、形容しがたい雰囲気を醸しながら立っていた。

 そして背後からは、


「俺にも良心の呵責と言うのがある。すまんな」


 という謝罪になっていない謝罪の声と、扉が無理矢理閉められる音が聞こえた。

 しばしの静寂の後、二人は言った。


「ユゼフ、とりあえず座って」

「椅子なんて贅沢なものはこの際不要ですよね?」

「はい」

「あとユゼフ、もうひとつ」

「はい?」

「一発殴らせて」

「はい」

「サラ中佐、私もよろしいですか?」

「いいわよ」


 まぁ、その、なんだ。

 人生初のデートが付き合ってる恋人ではないのは問題だよね。




 その夜、俺は全然休むことができなかった。


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