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大陸英雄戦記  作者: 悪一
波乱の世紀
406/496

クロンジノ会戦 ‐結末‐

2/2

2話連続投稿ですって

「――右翼後方より敵襲!」

「左翼からもだ! 奴ら、いつの間に!?」

「タリエスト大隊に防衛を――」

「無理だ、敵の戦力は既に我々を上回っている!」

「あの参謀はまだ帰っていないのか!? まさか逃げたのでは――」

「攻撃来ます!」


 その時、シーモアの丘は混乱の極にあった。

 頼りにしていた参謀は「補給のための資金」を貰って逃亡し、まともに指揮のとれない貴族のドラ息子と、まともに軍事を知らない貴族の当主と、そして両名とはいくらかマシでも階級が伴わない下士官たちでは部隊を維持する事すら困難だったことは、最早論ずるまでもない。


「タリエスト少佐戦死!」

「右翼後方からの攻勢が強く、味方は潰走状態です!」


 その中にあって、カリシュ子爵麾下の伝令兵たちは一番よく働いていた。子爵が最も聞きたくない言葉、敗北と言う現実を突きつける作業を懸命にこなしていたことは称賛されるべきことだろう。

 ただ問題なのは、子爵が軍人として、貴族として、そしてそれ以上に人間的に称賛どころか罵倒に値する人間だと言うことだが。


「退却するな! 逃げた者は味方ではない、そいつらごと敵を焼き払ってしまえ!」

「しかし閣下!」

「くどい、ここで負けるなど王国軍人のすることではない! 平民如きが、私に口出しをするな!」


 同国人同士の争いにあってただでさえ士気が高いとは言えないこの戦争において、さらに味方ごと敵を焼き払えと命令したら、士気が崩壊することは目に見えていた。

 そしてカリシュ子爵の傲慢さは、軍事的見地以外からも愚の極みとしか言いようがない。


「……わかりました。我が中隊はこれより防衛行動に移ります」

「フンッ。最初からそうしろ」


 子爵はそう言って満足したが、カリシュ旅団は敗北への坂道を傾斜を増して転げ落ちていた。そして中隊で防衛行動に移ると言って出て行った平民士官は、防衛行動と称して敵に吶喊、華々しく戦わず、敵にそのまま降伏した。


 丘裏より殺到する2個騎兵連隊の圧力を前に、カリシュ旅団は徐々にヨギヘス師団本隊が陣取るシーモアの丘北の地点に押されていく。そしてそこには当然のことながら、ヨギヘス師団が準備万端で待ち構えていた。


「強固に包囲を維持しようとしなくていい。適度に道を開けて逃げ場を作ってやれ」


 ヨギヘス師団参謀長タルノフスキ准将は、やや優しい声でそう指示した。ただしそれは同国人に対して温情を見せたのではなく、ただ純粋な勝利と、国王派軍に無駄な損害を出してはならないと言う純軍事的な意味で発した命令だったことは言うまでもない。


 戦って死ぬより、逃げて生き残る方が良い。誰もがそう考える。しかし誇り高き戦士ではないカリシュ旅団の兵や指揮官は、ただ純粋に残りの人生を謳歌したかったはずである。


 誰もが逃げるのは当然である。だが易々と逃がすだけの器量は、残念ながら国王派軍は持ち合わせていなかったことは、タルノフスキ准将の命令の後に呟いたユゼフの言葉から見ても明らかである。


「……どうせ、彼らは逃げられませんから」


 その呟きの後に、彼は作戦の最終段階に入ったことを司令官に伝えた。


 ヨギヘス中将は上級魔術部隊の攻撃で、カリシュ旅団の戦闘部隊を攻撃してその後退速度を鈍らせた。次に長い縦列となった敵軍各所に攻撃を集中させ分断を図り、指揮命令系統を破断させる。

 そこで烏合の衆でしかなくなった各部隊を、ヨギヘス師団、あるいは後方から殺到する騎兵隊で各個撃破するのである。通常の包囲殲滅戦と比べても、明らかに味方の損害を少なくして戦果を拡張する戦術だった。


「逃げるな! 踏みとどまれ! 私が転身するまで、当地を死守せよ!」


 恥も外聞もなく、カリシュ子爵はそう叫ぶ。だが叫んだところで、最早味方の耳には敵軍の鬨の声と友軍の悲鳴しか聞こえなかった。

 カリシュ子爵はその絶望と言う現実の中にあっても、ついに現実を正面から見ることができず、そして部隊を収集できるはずもなかった。


「貴様ら、はやくなんとかせんか――――ッ!!」


 そして彼はそう叫びながら、ヨギヘス師団が放った上級魔術「火神弾プロメテウス」の炎の中に消えていった。


 そして冬のシレジアは、早い日没を迎える。

 夕日は、大公派軍の壊滅という情景を映しだし、それが歴史と伝統の続くシレジアの落日を象徴する出来事であったことは、後世にまで語り継がれるものだった。




---




 別に、いけ好かないカリシュ子爵の次男をこの手で殺してやる、なんて思っていなかった。


 殺したくなるほど嫌な男だったけれど、でもこうして目の前で、死体となって突っ伏しているその男を見ると、なぜか気分は晴れなかった。


 私と彼が出会った日のことは、もうよく覚えていないし、思い出したくもない。

 顔だって、こうして再び見るまでは思い出せなかったほどだ。名前なんて、今でも思い出せない。


「……だからと言って、あまり気分の良いものじゃないわね」


 これで婚約解消だと、喜べる気にはならなかった。


 彼の背中は、右肩から腰の左に至るまで大きな刀傷があった。騎兵隊から逃げようとして、そして斬殺されたことは想像できる。私だって何度も戦場で、そうやって人を殺めてきた。


 敵だから、シレジアを守るためだから。仕方ないことなのだと、私はそう思いながら戦争をしていた。


 でもこうして、嫌いな男でも、知っている男を殺めたかもしれないという事実は、私にとって初めてのことで、そして二度と経験したくないことで。



 これは内戦だ。


 顔見知りどころか、友人同士でさえ剣を交える内戦なのだ。


 もしかしたら士官学校時代の友人が、大公派軍に与して私たちに立ち向かうかもしれない。


 もしそうなったとき、私は平静でいられるのかしら。

 マヤだったら、遠慮なく剣を振るうことができるだろう。でも私も同じことができるかは、自信がない。


「――ラ。サラさーん?」


 私が何かを考えていた時、彼が後ろから声を掛けてきた。

 私の大切な人。たった一人の、大好きな人。


「ユゼフ、さん付け禁止!」

「あーごめんごめん。返事がなかったから……って、なんか顔色悪いけど大丈夫?」

「大丈夫――じゃないかも」


 元気なのが取り柄だって、昔イアダが言ったけど、今日はちょっと無理そうだ。


「ねぇユゼフ、ちょっと来て」

「え? なに? 殴るの!?」

「どうしてそうなるのよ! 殴りも蹴りもしないからちょっとこっち来なさい!」


 そうは言ったものの、長年のこちらの行いが祟ったのか彼は近づいてくれなかった。自業自得とはこのことだろう。

 仕方ないから私から近づいて――そして、ちょっと恥ずかしかったけど、彼を思い切り抱き締めた。


「え、ちょ、ちょ待ってサラ! どうした!? 絞め殺すつもりか!?」

「だからどうしてそうなるのよ!」

「冗談だよ、冗談。本当にどうしたんだ?」


 別に。この行動に深い意味はない。

 明らかなのは、単純明快な、私の気持ちだけだ。


「別に、私はユゼフが大好きってことよ!」


 大切な人と殺し合いをしなくて済むということがこんなにも嬉しいことなのだと、そう思っただけだ。

 それにユゼフと戦ったら、勝てる気しないしね。

サラさんマジメインヒロイン。


ところでもうひとりのヒロインであるフィーネさんですが、出番は少し待ってください。出しますから。ちゃんと出しますから。


ですからここは絵師兼作家のしるどら先生が、ニリツ大明神先生の生誕祝いの時に描いてくださったフィーネさんの下着姿を見て我慢してください((鼻血を垂らしながら


>https://twitter.com/47AgD/status/782502453337960448

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